全国初、融資関連手続きのオンライン申請導入を横浜市が実現した本当の理由[インタビュー]
横浜市は2020年5月、前年度末より発生していた経済局における窓口業務の混雑解消のため、危機関連保証の認定手続きにおいて全国初となるオンライン申請を導入した。
2021年6月現在、オンラインサービスは危機関連保証に加え、セーフティネット保証4号及び5号の認定申請まで展開されている。なぜ横浜市は迅速にオンライン化を進めることができたのか。
同市の経済局金融課にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 尾形 和哉)
―自己紹介をお願いいたします。
富澤氏 私は、金融課の責任者をしています。2020年4月、現在のポストに着任しました。金融課は中小企業向けの融資や経営支援を担当しており、横浜市が横浜市信用保証協会及び取扱金融機関と連携して行っている融資制度「横浜市中小企業融資」を所管しています。過去にはこの部署において現場経験もあります。
川口氏 私は、金融課金融係の係長として、課長の富澤と同じく2020年4月に着任し、危機関連保証認定のオンライン申請サービスの導入を担当しました。現在は実質無利子融資の利子補給と、金融課が所管している外郭団体である横浜市信用保証協会の担当をしています。
伊藤氏 金融課相談認定係の緊急経営支援担当係長です。昨年実施した実質無利子融資を中小企業が受けるにあたり必要となる「危機関連保証」や「セーフティネット保証」などの認定書発行窓口の責任者をしています。今回導入したオンライン申請サービスの運用責任者であり、危機関連保証認定導入後の追加開発を担当しています。
石塚氏 昨年までは経済局イノベーション都市推進部新産業創造課で経済局全体のデジタル化支援を行っておりまして、その中の取組の一つとして金融課の危機関連保証の案件を手掛け、バックアップしておりました。今はデジタル化推進のため今年4月に新設されたデジタル統括本部において横浜市全体のデジタル化への対応をしています。
窓口混雑解消のためのスピード提案
―横浜市における危機関連保証認定申請窓口におけるオンライン申請サービス導入に至るまでの経緯についてお聞かせください。
富澤氏 窓口が非常に混雑していた3月当時は、認定申請に来庁された方が認定書を受け取るまで最大で3時間かかるということもありました。窓口でクラスターを発生させないためにも、少しでも申請者の待ち時間を減らす必要があると感じていました。
そこで、混雑緩和の対策の一つとしてオンライン申請の検討を始めました。検討の中で、オンライン申請を実現するにあたり、申請書に押印を求めることがネックとなることがわかったため、4月中旬頃の時点で金融課として中小企業庁に押印見直しの件で交渉をし、結果的に押印をなくす方向で中小企業庁と調整することができました。まだ社会的に押印廃止の議論が出る前の話です。
2020年5月に一番手でリリースした「危機関連保証」のオンライン申請は、危機関連保証、セーフティネット保証4号及び5号認定の中で当時一番使用頻度が高いと想定されているものでした。今年の5月にリリースした「5号」のオンライン申請では、15種類ある様式のうち、使用頻度の高い2種類のみをオンライン化しています。すべてをオンライン対応とするには、認定の要件が複雑であり、その割に見込まれる利用件数が多くないため、対象を絞って実施しています。
混雑解消の成功理由、連携プレーの背景
-中小企業庁や市役所の他部署との交渉を進め、前例のない取り組みが実現に至るには、現部署の皆さんのご活躍があったようですね。
富澤氏 私の着任前の話ではありますが、コロナウイルス感染拡大が本格化した2020年3月当時、あまりにも窓口が混雑していたので、金融課から経済局内の各部署の管理職等へ応援要請を行っていました。4月に着任した時点では、このまま人海戦術で乗り切っていこうという雰囲気が漂っていました。ですが、人海戦術では対応に限界があると思い、郵送化での対応を検討したものの、どうやらそれは難しいということが、他都市での事例を聞き及ぶにつれてわかりました。そのようなタイミングで、石塚が書いた申請のシステム化に関するフロー図を職員が持ってきてくれたのです。
石塚氏 私は当時金融課から、窓口対応業務が危機的な状況であるという話を聞きました。この状況を解消する手段としてオンライン申請が一つの有効策となるのではないかと考え、3月下旬に金融課にこの提案を持ち込んでいました。
富澤氏 融資の対応で忙しい中、私たち金融課はシステムの開発に関わっている時間が充分に取れない状況でした。このようなタイミングで「できますよ」と石塚から提案されたのでその話に乗ってみようと思いました。
石塚氏 私が関係部局へ提案する際は基本的に、システムを自分たちで抱えるのではなくて、SaaS型のものを提案するようにしています。また、現在ないシステムを作るのであれば業務改善(BPR)も行う必要があると考え、業務改善を伴うシステム構築に定評のあるグラファー社に、協力していただきました。職業柄、グラファー社が他都市でオンライン申請を導入していることは知っていましたし、どのような理念を持っているかも耳にしていたので、高いモチベーションで対応してくださるだろうという見込みはありました。
-グラファー社を選定したきっかけについてお聞かせください
富澤氏 経済局では「I・TOP横浜」という、IoT 等(IoT、ビッグデータ、AI、 ロボット等)を活用したビジネス創出に向け、プラットフォームを持っており、参画企業であるグラファー社との実証実験としてシステムを導入しました。そして成果が出た段階で正式採用という流れになりました。
現場主導でのデジタル化、実現した理由とは?!
―前例のない導入オンライン申請の導入には相当な困難が伴ったはずです。実現することが出来た背景を教えてください。
富澤氏 金融課は申請受付窓口の現場を持っていますが、私自身過去に金融課の事務経験があり、誰よりも現場に詳しいという自負がありました。また、その一方で予算を要求できる立場にもあり、身近にはシステムを理解している石塚という人材もいました。
その上、横浜市には、信用保証協会があります。これにより制度の仕組みを管理する国に対して、保証協会の実務を踏まえて相談できるルートも持っていました。
このように、オンライン化のプロジェクトを進めるにあたり、周りに必要なものがすべて揃っていたということが、ここまで早くデジタル化を実現することが出来た要因であるといえます。
求められるのは、現場との橋渡し役
―現在具体的に進めているデジタル化のお取組について、今後のご予定をお聞かせください。
富澤氏 金融課としては、5号認定をリリースしたところですので、次は窓口の予約システムに取り掛かりたいと考えています。申請者に窓口で待っていただくことや、来庁があるかどうかもわからない中で職員が待っているという窓口の仕組みは非常に効率が悪いため、今後は、申請者が気軽に予約することができ、私たちも申請者の来庁を事前に準備してお待ちするということを実現していきたいと思っています。
―行政のデジタル化に向けて、求められるのはどのような人材だと思われますか?
富澤氏 現場をどのように効率的に回していくかを考える私の立場から申し上げると、デジタル化は業務効率化や利用者の利便性向上の手段の一つです。
デジタルを有効的に活用してどのように業務効率の改善や利用者の利便性向上を実現出来るか、という発想が広がっていくのは、とても意味のあることです。
このとき、システムを自分たちで所有するか、SaaS型であるかで話は変わってきます。行政機関では、デジタル化というと前者の発想をするタイプの人が多いと感じています。SaaS型も含めて、両方のメリット・デメリットを理解した上で、自分たちに最適な手法を選ぶという視野を持っている人材が求められています。
私たちの業務において、デジタルは魔法の言葉ではありません。業務効率化・利便性向上に向けて、デジタルを含めいくつもの選択肢があるということを理解したうえで、デジタルをどのような場面で、どのように有効活用することが出来るか。このような視点で、現場との橋渡しをしてくれるデジタル人材が必要なのではないでしょうか。