自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画、改定の概要とポイントとは?-DX先進自治体の取り組み- [インタビュー後編]
武蔵大学社会学部メディア社会学科教授 庄司昌彦氏に、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画 【第2.0版】」(以下、自治体DX推進計画)の改定の概要・ポイントや自治体DXの意義と現状について聞くインタビュー。
後編では、マイナンバーカードの普及状況とDX先進自治体の取り組みについて聞いた。
(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之、米谷 知子)
マイナンバーカード普及の状況
ーマイナンバーカードの普及率に対する関心が高まっています。普及率が高い自治体、低い自治体がありますが、それらの普及率の要因は何でしょうか?
様々な要因があると思います。一例として、宮崎県都城市はマイナンバーカード普及率が高いですが、普及率だけではなく、行政を自分たちの手で良くしていこうと様々な面で動いていて、その中にマイナンバーカードも位置づけられているのだと思います。また、マイナンバーカードで行政サービスを便利に受けられるようにしよう、という思想を市全体で共有して取り組まれています。
一方で、マイナンバーカードの普及率が低い自治体は積極的にこの機会を活かそうとはなっていないのだと思います。
データを見てみると、都市部より地方の自治体の方が普及率は低いです。職員の人手不足が影響している可能性はあります。
また、自治体がきめ細かく普及策を取っているかというのも影響しています。年齢別・男女別の普及率データを見ると、59歳までは女性の方が普及率は高くなっています。
IT機器類は男性から普及すると思われますが、マイナンバーカードでは59歳までの全年齢で女性の方が少し高い。この傾向はずっと続いています。これが何故なのか明確な理由はわかりませんが、運転免許証の代替という説があります。
男性は運転免許証が身分証になりますが、女性は持っていないため身分証明書として取っているのではないか、という説明です。ですが、子どもでも女性の方が普及率は高くなっています。その理由は何なのか、あるいは男性が低い理由は何なのかを分析しながら対策をとることが必要かもしれません。
また、年齢が高くなるほど普及率が高くなる傾向がありますが、10~14歳と40代の普及率は前後の年代より少し低くグラフが窪んでいます。これは何故でしょうか。10~14歳と40代はITに強いと思われますので、おそらくカード発行の手続の問題ではないかと思われます。
たとえば40代だと、仕事をしていて平日はなかなかカードを取りに行けない。自治体によっては休日窓口をやっていることがありますが、家族の予定を全て揃えて遠くの出張所に行くのも大変です。これらの年代のための窓口を駅前など便利な場所に設けたり、学校行事に合わせて設けたりするくらいの施策をすれば普及率は増えると思います。自治体によっては、ショッピングモールなど便利なところに窓口を出張していることもあります。
高齢者についても携帯電話会社で申請手続きを手厚くサポートするなどもできるでしょう。そうした性別・年代別に細かい分析やマーケティングをして対策を取っているかどうかということも普及率に影響しているのではないかと思います。
ー都城市では、先進的なことをされているのでしょうか?
都城市や、同じく普及率が高い石川県加賀市では、マイナンバーカードでの本人確認機能を活用して、色々な行政サービスを受けられるようにしており、市民がこれを使える場面を増やしています。 自治体独自のポイント事業もこれから始まるようで、そういうものに乗ることができる自治体なのかどうかが重要だと思います。
先進自治体の取り組み
ー先進自治体の方々は、横の繋がりからも情報共有をされているのでしょうか?
自発的に作られたコミュニティがSNS上などにあります。また、デジタル庁は自治体職員だけが参加できる「共創プラットフォーム」を設けています。自治体職員ではないので私は参加していませんがそこには何千人も参加していると聞きます。行政のデジタル化やGovTechなどのイベントや勉強会が増えてきていて、様々なところで情報交換が行われていると思います。
また、自治体職員のみではなく、研究者やベンチャーなど企業所属の方、そこに霞が関の職員も入って意見交換が行われるなど、色んな組み合わせで様々に動いているように見えます。
ー先日発表された東京都のGovTech東京構想の動きは、先進事例のように見受けます。
東京都は、元ヤフー社長・会長の宮坂氏が副知事として参画された頃から、IT企業などの外部人材も積極的に取り入れています。私自身は小池都知事の初期から会議のメンバーなどでお手伝いしているのですが、当時と比べると組織の体質が大分変わってきたと思っています。GovTech東京はそうした都庁の組織体制や組織文化のデジタル化をさらに加速させるもののようです。
ーGovTech東京構想によって作られる新しい組織は、国で言うデジタル庁と似たような機能を持たせようとしているということなのでしょうか。
GovTech東京は人材のシェアという話が大きなポイントでしょう。総務省の地域情報化アドバイザーや、自治体DX推進計画に記載したCIO補佐官クラスの専門家のシェアリングといったところに該当すると思います。また、デジタル庁には全国の自治体から職員が出向していますが、これには人材育成に加えて、デジタル庁内の計画や文書を作る際に、自治体の考え方が反映され国と自治体の連携を円滑化するという意義があります。GovTech東京でも、都内の区市町村の職員の参画によって、足並みを揃えていこうとしているところもポイントなのではないかと思います。
一方、GovTech東京とデジタル庁では、少し役割が異なると思う点もあります。デジタル庁の第一の目的は「司令塔機能」だと私は言っていますが、東京都と区市町村の関係はそうではありません。都と区市町村の関係は「指揮する」というよりは「協力して一緒にやっていく」という関係だと思いますので、その意味ではデジタル庁とは異なっています。人材交流や人材シェアという面では多少似ている部分があるとは思います。
ー外部人材の活用と内部人材の育成、どちらが早いと考えますか?
変革を起こす時には、外部人材などが入り込んで最初に火をつける方が展開は早いというパターンはありそうです。ですが、遠隔地にいたり任期があったりする外部人材に頼り続けるわけにはいかず、結局は内部で人を育てていかない改革は広がりませんし根付きません。ただし、人を育てるというと若手に研修を受けさせるようなイメージが持たれがちですが、そうではなく、組織の様々なレベルで意識を変えていかないといけません。特に組織の幹部の方々が意識を変えないと、抜本的に業務の仕方を変えるということはなかなかできません。
つまり、有名な大学・企業の人材を連れてきて打ち上げ花火みたいにやって、それだけで終わるのも駄目ですし、若手に研修させるだけというのも駄目です。組織が全体的に意識を変えるようにやっていかないといけません。ただ、組織全体の雰囲気を変えるときには外部人材の目線やパワーを使うことは有効だと思います。
ー先進的に自治体DXを進めていると感じる自治体はありますか?
色々な観点がありますが、自治体全体でボトムアップ的に全体のカルチャーを変えていこうと頑張っておられるのは神戸市だと思います。DXというよりはデータ活用も含めてですが、データアカデミーというデジタルの研修を、さまざまな外部専門家を招いて実施したり、シビックテックや企業からの出向者を入れたり、GovTechのベンチャー企業などから提案を募って一緒に進めるプログラムを作ったりしています。
本当に色々なことを組み合わせながら、全体的にデジタルに親和性の高いカルチャーを作っているという面では神戸市は頑張っています。首長もデジタル改革やデータ活用に理解があるようで、自らシリコンバレーに視察に行かれたという話も聞いています。
スマートシティの取り組みという観点では、群馬県前橋市は先進的です。前橋市は「まえばしID」という独自のID活用を考えていて、日常生活の中で行政サービスでも、交通機関などの民間サービスでも使える前橋市用のIDを発行してスマホアプリで様々なことができるようにしていこうとしています。また、航空写真で空き家を見つけ出して、固定資産税の課税業務に役立てるといったことも行っています。
前橋市は自治体内部の取り組みも進んでいますが、実は民間の街づくりも同様に進んでいます。眼鏡を作っている会社の「JINS」の代表取締役CEOで前橋出身の田中仁氏など地元企業関係者が集まり、売上の1%または年間100万円をまちづくりに使おうという会(太陽の会)を結成し、独自予算を民間で作って活動しています。民間側もかなり強力に取り組んでおり、市も相当強力に取り組んでいるということで、相乗効果で自治体DXとスマートシティの取り組みを次々と進めています。
福島県会津若松市も注目されています。同市にはコンピュータ専門の会津大学という優れた大学があり、大学発のベンチャー企業をはじめ民間企業が積極的で、市役所もデジタルに強い。
市役所では、2000年代から市役所内で使うOfficeソフトに、Microsoft Officeではないオープンソース系のものを導入しています。ヨーロッパの国々ではオープンソース系のOfficeソフトが日本よりも普及しているように思いますが、日本ではかなり珍しいです。また、OpenStreetMapの世界イベント開催地に立候補して、ミラノ市を破り会津若松市での開催を実現させた実績もあります。
会津若松市の場合は、自治体の規模が大きくないため関係者間の距離が近く、さまざまな勉強会をはじめとするコミュニティ活動が盛んです。そういったコミュニティに地元内外の企業から相談や実証実験、新規事業の話が持ち込まれたりするようで、産官学連携の取組みがどんどんと動いています。
ー神戸市や前橋市、会津若松市の話を聞いていると、様々な人を巻き込んでいて、そういうところが強みのように感じますね。
そうですね。これらの先進的な自治体においては、行政内部だけで業務改善・効率化を進めているというよりは、もう少し視野が広いというか、色んな人を巻き込んで皆でまちづくりをしているように思います。そういうところが増えていくと良いと思っております。