書かずにワンストップで申請!―北見市が取り組む窓口業務改善方法とは―[インタビュー]
北海道北見市は、2009年から現在まで窓口業務改善への取り組みを続けており、申請書を「書かない窓口」を実現し、ワンストップで窓口を案内している。長期間にわたる本取り組みを北見市ではどのように進めてきたのか。同市の市民環境部窓口課の吉田和宏管理係長にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)
庁舎内から記載台が無くなり事務時間も削減
―自己紹介をお願いいたします。
吉田氏 市民環境部窓口課にて管理係長をしております。窓口課は北見市で2020年10月に新設された課となりまして、普段は書かない窓口のために使っている窓口支援システムの管理や、ワンストップサービスにおける課と課の業務整理や調整、庁内のワンストップサービス推進会議の事務局運営等をしております。
―書かない窓口というのはどのようなサービスとなるのでしょうか。
吉田氏 簡単に申し上げますと、証明書の請求や住民異動の届出などの際に、申請書や届出書を書かないような体制とすることで“来庁者の手間を省く”サービスとなります。窓口の職員は来庁者から本人確認書類の提示を受けるなどして、その情報を元にシステムで対象者を検索すると共に必要な証明書や届出内容を聞き取りし、申請書や届出書をパソコン上で一緒に作成いたします。
本取り組みのきっかけとして、2012年に北見市職員自身が証明書の申請を体験してみたことがあげられます。体験した職員は証明書の申請書の書き方がわからず、窓口で申請書の書き方を確認しました。この結果、書かない窓口を実践する前は、①来庁者が申請書を書いて窓口に持ってくる②職員が確認し、違うところがあればまた書いてもらう③書き直してまた来庁者が窓口に申請書を持ってくる④再び職員が確認。といった作業が必要となっていることがわかりました。この体験をもとに様々な業務改善へとつながっていくのですが、書かない窓口を導入してからは記載台がなくなったり、押印を省略するための規則をつくったりと、大きな変化がありました。
業務改善によって来庁者の手続きが簡素になると共に、職員は確認の手間がなくなり事務時間削減につながっているのは大きなポイントだと捉えております。
会議体で全庁的に取り組みを推進
―北見市のホームページを拝見しますと、本取り組みは2009年からスタートされています。長期的にプロジェクトを進めるにあたり、市や担当職員におけるモチベーションなど、北見市ではどのように継続されていたのでしょうか。
吉田氏 北見市の場合は、市民目線での窓口改革を進めるためワーキンググループが立ち上がりました。グループでの検討内容についてプレゼンテーション等を行いながら事業計画の中で会議体に紐づけていった結果、新たに課長級の人たちも参加する「ワンストップサービス推進会議」が設けられました。そこからは市としての推進体制づくりが本格的に始まり、様々な作業部会を設けながら着実に進んで行くことができました。
事業を継続することは難しいですが、熱意がある職員は少なからずどの職場にもいるので、その人たちを巻き込みながら有志で行動を起こすことが大事で、プロジェクトの中心となったメンバーは今でも至る場所で活躍しています。
ワンストップサービスの目玉である窓口支援システムについて、今でこそ稼働をしていますが、当時は「機械やシステムに頼らなくても自分は出来るので使いたくない」と声を挙げる職員も居たと聞いています。そのような職員にも心を折らずに、熱意のある職員が「使ってみて無理なら紙に戻しても良いので少しずつ使ってみましょう」と交渉しながら実体験を積み重ね、効果や成果を上げることで理解を得ていったフェーズもあります。
このような話は他の自治体でも体制変更や新システムの導入の際に良くある話だと認識していますが、北見市の場合は熱意のある職員の存在や市としての体制、会議体も設けながら「まずはやってみよう」と、少しずつ進めていくという形を取ったことが功をなしたと考えています。
今後は各種手続きのオンライン化も検討
―北見市の今後のお取組についてお聞かせください。
吉田氏 ワンストップサービスという枠組みでは、ワンストップ化を想定していた手続きの集約は一通り対応が完了しましたので、大きなアップデートは予定しておりませんが、北見市では情報システム課を中心に電子申請(証明書のオンライン申請)を今後導入していく予定です。
今年度に始まったばかりの計画なので、具体的にどのようなプロセスを辿るかは未定ですが、仮に住民の方が住民票の「請求・支払い・受け取り」までを全て自宅に居ながら実行するような形を目指すとなれば、市としてキャッシュレス決済の導入等を検討しなければならないので、様々な課題は出てくるのではないかと思います。
また、将来的には全ての手続きがオンラインで処理可能となるのは理想的だと考えますが、住民票の異動手続きなど、中には法改正がされてないがためにデジタル化は出来てもオンライン化は出来ない手続きもあり、市だけでは対応が難しい課題も一部ではあります。
―国では「DX推進計画」など、自治体のデジタル化を政策として打ち出していますが、これらが自治体の運営に与える影響をどのようにお考えでしょうか。
吉田氏 DX推進計画では、システムの標準化や電子申請については触れられている一方で、“窓口に来庁した人の受付方法をデジタル化する“といった話は特にされていません。自治体で一番改革が求められているのは受付や入り口部分の改善です。現状、自治体の多くの部署では紙で手続きを受付しておりますが、来庁者から紙で受け取った情報を職員が改めて基幹システムへ入力する必要があり、受付から処理までの工程がデジタル化されていません。受付をデジタルにすることで、AIやRPAでの処理が可能となり、来庁者の待ち時間削減や、職員の手入力によるミスの削減につながると思います。
そのような前提で考えていくと、受付部分のデジタル化が進まなければ周期的に自治体が取り組んできた庁内システムの更新作業とあまり変わらず、本計画をそのままなぞるだけでは職員の作業工程や市民の利便性が著しく向上したりなどの、分かりやすい実感が得られるということにはならないのではないかと思います。
DXはデジタル化ではなく業務改善
―デジタル化の取り組みを市として進めていくにあたり、組織や職員として、どのようなことを意識する必要がありますか。
吉田氏 最初の入口としては、デジタル化=業務改善だという認識を持って職員が取り組めるかではないかと思います。
「DX」という言葉を分解すると、D=Digital、X=Transformation、となりますが、「Digitalで、Transformationを行う」と決め打ちするのではなく、「Transformationをするために様々な整理や検討をした結果、Digitalを選択した」という、業務フローの見直しが先行する流れが重要です。デジタル化を優先してしまうと「とにかくこのシステムを導入してしまいましょう」という考えになり、結果的にDXが失敗することは起こり得ると思います。
また、DXを進める際は、色々な仕事や課があるので、それを縦断的に調整する組織の存在が理想的で、会議体や専門の部署、もしくはプロジェクトチーム等の発足が望まれます。
デジタルは、アナログの集合体だと考えます。連続した難しい条件式(デジタル)を人は無意識に判別していますが、細分化した情報(アナログ)ひとつひとつを判定式として使えば、ベテラン職員が行うような手続きの判定がシステムでも行えるわけです。このようなシステムの導入により業務の標準化ができれば、誰でももれなく同じように手続きの案内や受付が可能となり、最終的には市民へのサービス向上につながっていくと考えています。