五島市が取り組むデジタル×自治体行政【後編】-最先端技術で進める遠隔医療、移住定住事業
長崎県五島市が進めるデジタル行政の全容と詳細を担当者にご紹介いただく全2回のインタビュー。
シリーズ後編では、遠隔医療と移住定住事業について取り上げる。
前編はこちらから。
(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)
離島間の遠隔医療、市民も高頻度で活用
―遠隔医療事業についてお教えください。
川上氏 五島市の中心街も離島ではありますが、その周りにも人が住んでいる離島がいくつかあります。そのなかには、市立の診療所があり、医師が常駐している島もあれば、普段は看護師しか居ない診療所、更には建物だけで誰も常駐はしておらず、定期的に医師と看護師が島に通う形で診療をしているパターンもあります。
離島間の移動は船ですが、天候次第では出航することが不可能なため、診療日であっても医師が島に辿りつくことが出来ず、また患者も島から出ることができないという問題も起こることがあります。また、看護師だけがいても、医師の指示が無ければ医療行為や薬の処方をすることはできません。
そういった中で、従来の法規制では電話による診療も認められず、薬の処方(服薬指導)についても初診は対面であることが求められていました。
コロナ禍に入り法規制の臨時的・特例的な取り扱い措置が厚生労働省から行われ、五島市では患者と医師をiPadやアバターロボットで接続・通話することにより、離島間の遠隔診療を試験的に取り組んでいます。2020年1月には実証実験としてドローンによる処方薬の輸送も行いました。
―実証実験を開始し、数カ月になりますがどのような成果が上がっていますか。
川上氏 スマートアイランド事業では人口100人ほどの嵯峨島が対象です。嵯峨島では従来毎週水曜日の午後に医師が出張診療をしている状況でしたが、現在導入から2カ月で6回ほどオンラインによる診療が行われています。また、オンラインによる服薬指導は週に5~10人ほどの頻度で利用されているので、やはり島民からの需要は高かったと認識しています。
また、スマートアイランド事業とは別に遠隔診療の事業を展開していた黄島(おうしま)では、台風のシーズンで先生が診察出来ないタイミングであっても、10人ほどオンライン上で診察を行いました。約30人の人口で10人なので、比率としては非常に高いです。また、遠隔診療の機械に関しても最初は扱いにくいイメージがあったようですが、医師も島民の方々もお互いすぐに慣れていただいたと聞いております。
移住定住イベントでXRを活用、2021年3月開催
―移住定住事業についてですが、ここで改めて五島市とはどのような島なのでしょうか。
平野氏 島の特徴としては、端的に言うと「豊かな自然環境に包まれた九州最西端の世界遺産の島」です。五島市には、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産があります。遣唐使の時代から人を受け入れている島なので、島民の開放的な性格と相まって、現代も移住者を受け入れる土壌が出来ているのではないかと考えています。過去5年間(2015年4月~2020年3月)で672人の方が移住されました。
移住定住事業としても、移住支援制度は非常に充実させています。奨学金返済助成では、市内で就労する35歳以下の方を対象に年間36万円以内(Iターンは24万円以内)の支援を行っていますが、これは制度を作った当時は非常に珍しい取り組みとして評価をいただきました。その他にも、3カ月を上限に無料で住宅を御貸しする制度もあります。物件は15戸ありますが2021年の夏まで予約で埋まっております。
また、移住施策の一環として雇用機会拡充事業も行っています。これは五島市で企業が創業や事業拡大により雇用を創出することに対して補助金を支給する事業です。平成29年度から令和8年度まで継続されますが、五島市内で新たな事業や雇用が次々と生まれており、非常に大きな成果を生んでおります。
―オンライン移住相談会も開催されていますね。
平野氏 はい、オンライン移住相談会を全国に先駆けて、2020年3月から開催しています。これは過去に民間企業主催で実施されたワーケーション実証実験の際に、民間企業からウェブ会議用の機材を寄贈していただいたこともあり、コロナ後も切り替えが容易に出来ました。その後も散発的にオンライン移住相談会を開催しておりましたが、好評で満席が続いたため、7月に常設し月2回開催としました。2021年1月からは月3回に増やして対応を進めていく予定です。
また2021年3月19日~21日の3日間、NTTドコモさんの協力をいただき、東京・日本橋でXR(AR=拡張現実・VR=仮想現実・MR=複合現実などの総称)を活用した観光・移住PRイベントを開催する予定です。当日は、MR技術を使って東京日本橋と五島市を繋ぎます。ウェアラブルヘッドセットを被ると、目の前の現実世界にアバターとなった五島市職員や観光名所、食べ物の画像などが映し出され、「アバターと会話しながら五島市を知る」体験ができます。
また、360度カメラを使ったVRライブ配信や五島市職員によるリアル移住相談会も実施します。
日頃から課題をキャッチすることが鍵
―自治体が先進的なデジタル技術を取り入れていくにあたり、担当者としてはどのようなスキルや心構えが必要となるのでしょうか。
平野氏 ITやデジタルだけの話ではありませんが、常に自分の担当する業務について課題意識を持つことが大切ではないかと思います。そうでなければ「どのような課題があり、デジタル技術を使ってどのように解決したいですか」という声がかかるようなチャンスが来ても、事業の改善や課題解決をすることは難しいのではないでしょうか。
濱本氏 変化をすることが当然と捉えられるかどうか、というところが大事ではないでしょうか。ただ、どのような変化が起きるのかについては、周りの関係者や市民等への説明も大事ですので、いかに納得してもらう説明が出来るというのも重要だと思います。
川上氏 その時々に困っていることというのは、言葉の端々に出てくるのでそれをキャッチできるか、また課題として捉えられるかが大事。本当は皆困っているのにどうしもないと考えてしまっていることも含め「それをどうしようか」と捉えられるようになれば、声が挙がった際には解決に向けて動くことできると考えています。
本田氏 生活環境課としてはゴミ関係の対応をしているので、現場でのモノを扱う作業が多いです。今から色々な先進的な技術が来たときにどういう風に現場作業に生かせるか、またどのように工夫することで省力化や離島のハンデが払しょくできるかについて、考えていく必要があるかと思います。
―改めて最後に今後の展望を一言ずつお願いします。
平野氏 コロナ禍で移住のことは考え始めたけども、実際に移住に向けて積極的に動くほどではないという層は非常に多いと捉えています。五島市ではチャットボット(LINE)の導入も行いましたが、今後はそういった層の方々に向けて、電話やメール等を介さなくても疑問に答えることが出来る仕組みを拡張していきたいと思います。
濱本氏 ドローン i-Landプロジェクトも今は計画5年のうち3年が終わろうとしているところで、実証実験を重ねて実用的な部分も分かってきました。来年度からはより本格的に、職員業務の置き換えや物流事業者との連携強化も行い、ドローンを一つの産業として確立していくフェーズにしていく予定です。
川上氏 医療関係だと、離島はどうしても機材や先生が足りず医療レベルは落ちてしまうと思うが、離島に先生がいなくても遠隔で医療が提供できる仕組みづくりの検討を進めています。対面が一番望ましいですが、デジタル活用により、まるで対面と変わらないような医療サービスの提供につなげられるのではないかと期待しています。
本田氏 五島市は360度海岸に囲まれていますが、ゴミの回収・処分をしているのは観光地や人の多い場所がどうしても優先的になってしまいます。今はドローンで海岸の撮影もしていますが、今後も様々な技術を用いて、より環境や景観にも良い島づくりへの貢献をしたいです。今は撮影だけですが、今後は回収や運搬といったところまでデジタルの工夫で何か出来ないかと、その先まで課題を考えて事業に取り組んでまいります。