モバイルバッテリーで防災協定―シェアリングサービスが生み出す新たな価値
ChargeSPOTはINFORICH(インフォリッチ)が運営する「どこでも借りられて、どこでも返せる」モバイルバッテリーのシェアリングサービスである。インフォリッチは2018年4月よりサービス提供を開始し、ChargeSPOTの設置台数は2020年12月時点で25,000台を突破した。ChargeSPOTのバッテリースタンドは、デジタル映像コンテンツも流すことが可能で自治体や行政の広報媒体としても利用されるほか、災害時にはモバイルバッテリーの無料貸し出しを行うことによる防災機能の側面も持っている。ChargeSPOTの自治体における活用事例について同社の的場令紋(まとば れいもん)氏 に話を聞いた。
(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)
全国25,000箇所設置のシェアリングサービス
―ChargeSPOTとはどのようなサービスでしょうか。
的場氏 シェアリングサービスと言いますと自転車でも普及が進んでおりますが、ChargeSPOTでは全国約25,000箇所でスマホやタブレットを充電するためのモバイルバッテリーをレンタルすることが出来ます。
ChargeSPOTの利用者はスマートフォンでアプリを起動し、バッテリースタンドに表示されているQRをスキャンすることでバッテリーを1時間150円(税抜)で借りることができる仕組みとなっております。こちらは自転車など他のシェアリングサービスと同様に、必ずしも同じ場所にバッテリーを戻す必要はなく、別の場所に置かれているChargeSPOTの空きスロットにバッテリーを戻すことも可能です。
筐体は大きく分けてS・M・LLの3タイプありまして、各筐体に5個、10個、20個のモバイルバッテリーがそれぞれ入ります。筐体にはサイネージ(液晶)も付いていて、1ロール6分で映像の編成がなされています。映像コンテンツの内訳として、4分はインフォリッチの自社コンテンツと広告(15秒×16枠)を流していますが、残りの2分はロケーションオーナーが自由に映像コンテンツを流せるようになっています。
このように、ChargeSPOTはモバイルバッテリーのシェアリングサービスとしてだけでなく、映像コンテンツを流すことが出来るサイネージとしても利用可能なため、自治体の方でしたら公共イベントのお知らせやコロナウイルス対策等の情報を流すことも想定されます。よって、そのような利用を主目的として想定する自治体であれば、一番大きい筐体を使っていただくことをオススメしております。ただ、最終的には設置スペースと電源の確保も大事となってきますので、よりコンパクトな形での提供が望ましければ、MサイズやSサイズでのご提供となります。
サイネージを通じて全国一括で広告配信
―行政・自治体におけるChargeSPOTの広告利用ではどのような事例がありますか。
的場氏 厚生労働省が提供する新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」でChargeSPOTを利用していただきました。我々のChargeSPOTは商業施設・小売店のほか、コンビニや鉄道など、人目に触れるところに多く設置されています。COCOAの宣伝については、ChargeSPOTを設置しているロケーションオーナーからも評判のお声も良くいただきました。
その他にも2020年12月には新たに国土交通省が推進している、離れた場所に暮らす高齢者等の家族に災害というの危険が差し迫った際に、家族が直接電話をかけて避難行動を呼びかける「逃げなきゃコール」の広報としても利用していただいております。
広告についてはエリアごとの配信もメニューとしては可能となっていますが、このように全国一括でかつ大規模な広告配信が出来るというところは行政・自治体の方々からの需要を感じているところです。
災害対策として各自治体と防災協定を締結
―貴社では福岡市、青梅市、渋谷区、山梨県の各自治体と防災協定を結んでおります。防災協定では具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。
的場氏 大きくは①防災協定を結んだ自治体へのバッテリー提供②市民(区民・県民)へのバッテリーの無償レンタルの2点となります。
防災協定の詳細は各自治体により異なりますが、例えばChargeSPOTが所有するバッテリーをあらかじめ数百台単位で自治体にお送りし非常時に配ってもらう、というものもあれば、非常時に自治体からご連絡いただき、インフォリッチのサポートセンターから自治体の公共施設内のChargeSPOTを無料で利用できるように開放するような形態もあります。
福岡市の取り組みを例に挙げますと、福岡市では既にChargeSPOTの設置自体は市内の公共施設の各所でされていたのですが、九州は災害が多い地域なのもあり、我々もシェアリングサービスを通じて何か出来ることが無いのではないかと検討を行い、防災協定を結ぶ形となりました。
―防災協定を結ぶことにより、自治体はどのようなメリットがあるのでしょうか。
的場氏 台風や震災など、何か災害があった際には多くの方がスマートフォンを使って連絡しようとしますが、その際に充電が無かったり使っている内に充電が無くなってしまうことが想定されますので、そのようなときにモバイルバッテリーはインフラとしての役割を果たすことになります。
近年は自治体以外にも、企業が運営する商業施設内に防災、更にはCSRの観点からChargeSPOTの設置をご検討いただくケースも増えてきております。また新千歳空港ですと、雪害対策の一環として導入もしていただいております。
マイクロツーリズムやワーケーションの振興としても注目
―防災協定以外の利用ケースはいかがでしょうか。
的場氏 現在、ご提案・ご相談があるなかでは、観光協会とも協力し、密にならないような形でChargeSPOTを各施設に分散して設置しつつ、ChargeSPOTを起点としてスタンプラリーなどの街歩きイベントを開催し、観光スポットを楽しめるような取り組みが挙がっております。
伊勢・飛騨高山・軽井沢と言った観光地からお声をいただいておりますが、お話を聞いてみますと観光客からも「電源を借りても良いですか?」と聞かれることは非常に多いようです。
国外の旅行者ではなく、国内の旅行者も行くような観光地からお声をいただく要因としては、コロナウイルス感染症の流行により、マイクロツーリズム(自宅から1時間程度の近隣へ観光すること)という視点から、安心安全も訴求しつつ観光客に楽しんでもらいたいという需要の高まりがあるのではないかと思います。
また、軽井沢については、ワーケーション(観光地でテレワークをし、働きながら休暇も取るような過ごし方)も振興しており、そういった方々にモバイルバッテリーを進めていく方向での展開もしております。
ChargeSPOTで「防災」「街歩きや回遊」「インフラ」をサポート
―ChargeSPOTの導入をしたい自治体や企業はどのような手続きを踏めば良いのでしょうか。
的場氏 書面とウェブで申込書がありますので、まずは設置したい場所、営業時間(施設が利用な時間)等と合わせてお問合せいただく形になります。また、何か設置した後にトラブル等がございましたら、サポートセンターにご連絡をいただければ、我々が遠隔でサポートをする体制も整えております。
自治体の方々とお話をさせていただくなかでは、ChargeSPOTの自治体利用においては「防災」「街歩きや回遊」、そして「インフラ」の3つの軸があると当社では考えております。観光客だけでなく地元の方々も含め、スマートフォンというものは積極的に活用されていて、そこに対して充電の心配を無くすということには大きな意味があります。
今後も当社ではChargeSPOTを通じて広報や防災対策など、様々な側面からお手伝いをさせていただきたいと思います。