行政デジタル化に求められる、令和にあった運用方法の変革
株式会社ジーシーシーは群馬県に本社を置き、市町村向けシステム、県・公共団体向けシステムの開発・運用を行っている。顧客の多くは群馬県内の市町村だが、最近では東京都や埼玉県の自治体へもシステムを提供するなど、その活動の幅を広げている。事業拡大の要因となった主力製品や、企業の特色について同社執行役員の鈴木信貴氏に話を聞いた。
(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)
主力製品「自治体ERPパッケージ e-SUITE」
―貴社では、自治体ERPパッケージシステム e-SUITEを主力製品としています。e-SUITEとはどのようなシステムでしょうか?
鈴木氏:住基業務、住民税業務、固定資産業務、国保登録業務などの住民情報系、介護保険業務や子育て業務などの総合福祉系のアプリケーションが統合されたERPパッケージです。弊社は地方自治体の業務に約50年にわたり携わっており、個々のアプリケーションにはこれまでに蓄積してきたノウハウと経験により培った業務プロセス改善の視点が反映されています。
特徴は、各アプリケーションから統合データベースへのリアルタイム連携です。
システムによっては、各アプリケーションからデータを更新する際、日次のバッチ処理が必要となり、職員の方々の作業に待ちができてしまうこともありますが、e-SUITEではほとんどそれがありません。一人の住民を起点に「氏名」「住所」「生年月日」「国保」「税」「福祉」などの膨大なデータが紐づいており、それらがリアルタイムでinput/outputされることで、待ち時間なく複雑な業務を効率的に進めることが可能になります。
ユーザの方々からは「使いやすさ」についてもご好評をいただいております。
e-SUITEはパッケージシステムではありますが、人口レンジが幅広いため標準機能が豊富です。またユーザーインターフェースも日々扱う情報を一画面に配置するなど、工夫をした仕様となっております。システム導入にあたっては、当社で丁寧に業務フローを整理させていただいており、それが「使いやすさ」につながっていると思います。 またe-SUITEの中で新たに「母子相談」の業務アプリケーションも使いたいと思ったときに、データ移行など最低限の作業で使い始められる「拡張性」も評価をいただいている点です。異動の多いユーザ様にとっては、現在使用している画面仕様や権限管理が他の業務に広がっていき、統一されるほうが使いやすいですよね。
―e-SUITEは今後どのように進化していきますか?
鈴木氏: 現在、e-SUITEはV2をリリースしています。e-SUITE V1は約60業務ほどのアプリケーションをリリースしており、V2も同様のラインナップを揃える予定です。福祉業務は各都道府県や市町村で制度が異なる関係で、ある程度の柔軟性が必要になると思っています。また、住民情報系や福祉業務系システムは機能の種類が多く、ひとつひとつの機能にはまだ改善の余地があります。業務の特性に合わせて個々の機能にもしっかり強みを持たせていきたいです。
他にも、RPAやAIなど周辺システムとの連携に関して実績を積んでいくことも課題と認識しています。
大切にするのは「顧客」だけではない。その先の「住民」に対する責任。
―政府は「行政システムの縦割化や分断化」を課題としています。システムの導入時、あるいは導入後の運用において、行政・自治体が抱えている課題で共通するもの、多いものは何でしょうか?
鈴木氏:20年ほど前の職員の方と今の職員の方は印象に大きな違いがあります。かつてはシステムに多くを頼れなかったこともあって、システムが使えなくても手計算で課税計算ができ住民へ説明ができるなど、業務を詳しく語れる方が多かった印象ですが、今では、システムの利用が大前提なので、業務に精通した人が少なくなってきたように感じます。
ここのところ景気の悪化のせいか様々な制度変更があり、場合によっては補助金・助成金も新しく設けられたりします。自治体の方々はこれらに対して待ったなしで対応をすることが求められる状況に追い込まれるという、大変なプレッシャーのかかる仕事です。その時間のない中で業務を運用しなければならず、当然システムには機能がないわけですから、制度を理解し住民に影響が出ないように進めていくために余裕がなくなり、おのずと業務運用がシステム会社に依存しがちにならざるを得なくなっていると思います。こうしたことは多くの自治体が抱えている問題だと思います。
―そのような課題を持つ自治体に対してどういったアプローチでサービス提供をしますか?
鈴木氏:今の時代、我々のようなシステム会社には、単なるシステム提供だけでなく、より幅広く「業務運営のサポート」が求められていると感じます。例えば弊社では、法律が変更されれば、それがシステムにどう反映されるのか、自分の業務にどう反映されるのか、勉強会等を実施してサポートすることもあります。変更になる法律の解釈を誤らないように、都道府県により解釈が違うというケースが無いかどうか自治体職員の方々に確認をとっていただいたり、仕様をしっかり作成して早めに提供したりすることを意識しています。
また、職員の方の異動があった場合にはオペレーションをサポートしたり、困ったことがあった場合にもつぶさにヒアリングをしてご相談にのるというように、きめの細かいサポートをしています。
―システム運用のサポートとしては手厚い印象ですが、契約がそうなっているのでしょうか?
鈴木氏: 契約の中で細かく明記されているわけではありません。私たちのお客様である自治体の先には住民の方々がいらっしゃるので、迷惑をかけないようにということですね。会社の利益云々というよりは、目の前でお客様が困っているのでそれを助ける。住民の方々に迷惑が掛からないようにする。弊社の社員はそこに対する責任感が強いです。
仕組みのアップデート 「昭和」から「令和」へ
―システムの導入を推進する自治体担当者へなにかアドバイスがあればお聞かせください。
鈴木氏:しっかりと現状を把握することと導入の目的を定めることが大切だと思います。首長、情報部門、主管課、それぞれ課題認識ややりたいことが違うケースは多いです。すべての課題を解決するのは簡単ではなく、まずは正確に事実を確認していくことが肝要です。いま付き合っている会社が嫌だとか、漠然と使いづらいからとか、そういったことがシステム入れ替えの動機になり、次のベンダーでも満足できない結果になるといった事例を少なからず見てきました。
また、業務をシステムに合わせるという意識もこれからはさらに必要になってきます。行政システムの共同利用や標準化の話も、パッケージに業務運用を合わせるという話です。首長や情報部門の方々は現場の方々に徹底させる必要があります。
―行政をデジタル化することの社会的な意義をどうお考えでしょうか?
鈴木氏:これからの時代は、住民と役所の距離感が近くなると思います。今までは住民が役所に行かないとサービスを受けられませんでしたが、スマホあるいはネットに繋がってさえいればサービスはすべて受けられるようになっていく。マイナンバーカードも免許証もスマホでいいんじゃないか?となっていくかもしれません。ハンコをなくすことが話題になるのは、その数だけ紙の申請があるということです。書かせない窓口、来庁させない窓口が実現すれば、紙の運用も減っていくことになるでしょう。
我々の仕事はこうした住民と役所の距離を縮めるためのデジタル化、利便性の向上をお手伝いすることです。これを実現することで、サービスの公平性は担保されますし、効率化することで人口減少への対応にもなります。
実のところ現在の仕組みや運用の根本は昭和からあまり変わっていないと思います。もう令和ですから昭和の運用方法からの脱却をしないといけないですね。私たちが変革の一助になれればと考えています。