IoTとデータの力で移動のDXを実現する―LUUPの挑戦
株式会社Luup Software Development部 CTO 岡田 直道氏は、2021年10月8日に開催されたBIT VALLEY 運営委員会主催の『BIT VALLEY 2021』にて、生活場面における最重要な活動の一つである「移動」をデジタル化したマイクロモビリティのシェアリングサービスについて語った。
電動マイクロモビリティ シェアリングサービス「LUUP」とは
電動アシスト自転車や電動キックボードなどの電動マイクロモビリティを、スマートフォンアプリ一つで、街中にあるポート(LUUP専用の駐車場)で借りて好きなポートに返せるサービス。イメージとしてはカーシェアに近い。従来の移動手段としてのモビリティ、例えば個人が所有する自転車は、置き場所の確保が必要で1人の移動のためのものだったが、LUUPを使えばスマホで移動手段を探すだけで、自動販売機のように好きな時に使えて好きな時に好きな場所に返すことができる。
LUUPのミッション
街じゅうを「駅前化」するインフラをつくりたい、と語る岡田氏。例えば住宅の距離について話すとき「駅から15分」などと表現するが、これがゆくゆくは「LUUP3分」という表現に代わり、駅前じゃない場所がない街をつくりたいと話す。LUUPを借りられるポートが今は1%にも満たないが、将来的には自動販売機のように街中に高密度に展開していく。全市民のためのインフラということで、LUUPの電動マイクロモビリティは、老若男女問わず使ってもらえるよう様々なタイプがあり、高齢者向け四輪低速電動キックボードも開発中。座る・立つの両方切り替えられる機能搭載も予定している。
車載のIoTデバイスで安全・快適さを実現
モビリティ搭載のIoTデバイスによる遠隔制御が、安全なサービス提供の肝となっていると岡田氏は話す。走行中の車体に対しては、走行速度の変更を緩やかに遠隔で掛けることが可能。また、交通量が多い場所や危険のあるエリアに利用者が進入した場合、GPSで検知しその瞬間に遠隔で速度を落としたり緩やかに走行を停止させたりすることができる。
また車体からの情報取得により、ユーザーは、バッテリー残量やGPSによる位置情報など現在の状態を遠隔で把握できる。さらにバッテリーの充放電回数や電圧など細かな情報もIoTデバイスから取得し、即座の故障探知に役立てることができ、万全な状態でユーザーにサービスを提供することが可能。
ソフトウェアに比べ開発期間が長く、要件の変更が効きにくいハードウェアを柔軟に改善できるよう環境を整えたことも重要な取り組みの一つとのことだ。OTAアップデート機能を搭載することで、市場に置かれている機体を一斉に遠隔でアップデートでき、改良サイクルの高速化につながった。デバイス側の機能アップデートなどが発生する度に1台ずつ接続してアップデートする必要もない。
データによるサービス改善
IoTにより、正確な情報と最適なサービス提供が実現されているが、街中に置かれている車体には、様々な要因でエラーやロストが発生してしまうことも否めないと、現在の問題点も語った。例えば電波状況やバッテリー、配線の問題など様々な理由で通信エラーが発生し、車体の状態把握ができず、場所が不明になってしまう。また、都心部のビル街ではGPSの精度が上がらず位置情報がずれた位置に記録され、ポートとの位置情報紐づけに不具合が発生し、ひどい場合は車体の場所が不明になってしまうこともあるとのことだ。
このような問題に対して、LUUPは解決に向け多角的に改善を行っている。モビリティの現在の状態だけでなくポート側からの紐づけ、最終ライド履歴など多面的なデータ参照により現在地を特定するなど、データ分析の力やそれを自動化するソフトウェア技術、さらにハードウェア側の改良も含め、徹底して解析を行っている。
LUUPの今後
2020年5月にLUUPは電動アシスト自転車のシェアリングサービスを東京(渋谷)でローンチし、その後大阪でも開始された。2021年4月には、日本で初めて公道での電子キックボードのシェアリングサービスが開始され、それ以降も東京駅・銀座・日本橋エリアや京都府、横浜エリアが新たにサービス対象に追加された。その他にも、大阪でコンビニエンスストア「ローソン」に電動キックボードのシェアリングサービスのポート導入や企業提携など着々と展開を進めている。
ハードウェアの開発期間の長さ・不可逆性や、電波や充電などによる不具合の多様さなどの難しさもあり、これらをどうデジタル化して解決していくかがカギとなると岡田氏は語った。逆に面白さもあり、遠隔走行制御によりユーザーの行動制御が可能となったり、データ分析を用いてサービスを最適化していく過程を体感できるとのことだ。
『街じゅうを「駅前化」するインフラをつくる』という壮大なミッションのもと、移動のDXが実現されつつあるが、このような変革は社会的にも意義のあるものであり、日常にデジタルが溶け込んでいくきっかけとなるだろう。
(執筆:デジタル行政 編集部 和泉 理子)