ノーコード宣言シティー第1次宣言自治体、愛媛県西予市が進める自治体業務における内製化の取組とは[インタビュー]

ノーコード宣言シティー第1次宣言自治体、愛媛県西予市が進める自治体業務における内製化の取組とは[インタビュー]

近年、全国の自治体にてノーコードツールを活用した内製化の動きが拡大している。2023年5月に、ノーコード推進協会より自治体DXを推進するプログラム「ノーコード宣言シティー」の第1次宣言自治体が公表され、注目を浴びた。参画を表明したのは、わずか10自治体。愛媛県西予市は、その自治体の一つだ。同市では、ノーコードツールとしてサイボウズ社のkintoneを2018年より試験的に導入しており、本年度より全庁導入を進めているという。今回、同市のDX推進を担当するデジタル推進課の方々に、ノーコード宣言シティーへの参画経緯から、実際の開発体制や具体的な活用事例、今後の展望について伺った。

(聞き手:新井 なつき)

-西予市政策企画部デジタル推進課では、どのような業務を行っていますか。

当課は、行政システム係とデジタル推進係に分かれます。主な業務は、情報システムの管理運用および、各業務のデジタル化、難視聴対策、高速通信環境の整備、CATV整備及び維持管理、オフィス改革(働き方改革)です。2023年度以前は、デジタル推進室として設置されておりましたが、DX政策に関する権限を持ち迅速に対応できる組織体制の構築、さらなる庁舎内の業務効率化と市民サービスの向上を図るため、課に昇進しました。

-ノーコード宣言シティーに参画された経緯について、お聞かせください。

ノーコードを通じたデジタル人材の育成や発掘、デジタルの推進を図り、新たな価値を創造して、デジタル人材の質を向上させ、職員自ら業務改革・改善を行うとともに、市民サービスの向上を図っていくことです。

-kintoneを導入された経緯についてお聞かせください。

当市では、かねてよりサイボウズ社の「Garoon」をグループウェアとして導入していました。そのつながりで、2018年頃から一部部署にて試験的に導入し、徐々に拡大していき、本年度から全職員がアカウントを使用できるように調達を進めています。
また、サイボウズ社は愛媛県松山市が創業の地であり、松山オフィスがあります。kintoneの試験導入以降、当市の職員が松山オフィスで開催されるkintoneセミナーにも参加しております。
ノーコード宣言シティーへの参画に関しても、松山オフィスの方から声をかけていただいたのがきっかけの一つでもありました。

-kintoneを導入するにあたりハードルや課題はありましたか。

情報システムやデジタル推進の関連部署といった一部の部署から試験的に導入してきたので、これまで大きな障害なく進んでいます。ただ、今年度より全職員に導入していく段階にあるので、これからどのように拡充していくかが検討課題です。

-具体的にどのような業務にkintoneを活用していますか。

オンライン申請をはじめ、業務管理や案件管理、出張命令、自己申告書などの内部業務などで活用しています。
上下水道課の「上・下水道の使用開始(中止)の届出」のオンライン申請はすでに運用しています。
業務管理や案件管理については、デジタル推進課内部でシステム開発を行っているところです。これから、各課に拡充していければと考えています。また、同時進行で進めているのが、出張命令書の電子化です。現在、出張する際は紙の命令書を提出していますが、kintoneを活用し、電子化への移行を8月より始める予定です。
また、契約監理室では、調達に係る事業者の事前登録で、事業者がオンラインから応募できるよう入力フォームを作成し、kintone上で応募管理できる仕組みを整えていくことを予定しています。そのほか、ふるさと納税の事業者登録や、有害鳥獣の駆除事業における報告管理などへの活用も計画しております。

-kintoneを活用する業務はどのようなフローで決めていますか。

現状、各課から事務処理上の課題について相談を受けています。例えば、現在運用中の「上・下水道の使用開始(中止)の届出」は、上下水道課から直接紙申請をオンラインに切り替えられないだろうかという相談から始まっています。
2023年度から、情報システム相談会を定期的に開催しています。相談内容に応じて、オンライン申請や入力フォームに移行できるような業務や、Excelやwordを使う業務の中からkintoneを活用できそうな業務であれば、開発は担当課とデジタル推進課、運用は担当課で行うことを基本として、必要に応じてデジタル推進課が運用のサポートにも入る伴走支援でシステムの構築を進めています。

-どのような体制でシステムを開発されていますか。

情報システム相談会で議題に挙げてもらい、各課の実務担当者とデジタル推進課の職員で相談内容を協議したうえで、開発を進めています。また、担当者や各課のスキルレベルに合わせてデジタル推進課がサポートに入り、必要に応じてサイボウズ社の松山支社で開催されるkintoneセミナーに参加してもらうということもあります。
本年度より全職員にkintoneを導入するということで、デジタル推進課で全職員を対象とした研修会を行ってもいます。

-開発から運用に至るまでの具体的な流れについてお聞かせください。

情報システム相談会で各課からの相談を受け付け、業務フローの見直し・確認を行い、アプリ開発を開始します。開発後はテスト運用を経て実装に至ります。

-アプリ・システム開発にあたり気を付けている点や工夫された点についてお聞かせください。

まず、業務担当者が主となって運用を行うことを最初に意識付けるようにしています。デジタル推進課が伴走して開発を進めていき、最終的にシステムの管理・改修を担当課で行ってもらうことを意識付けているところです。
アプリの作成権限は全職員に付与されるわけではないので、相談を受けた各課の担当者に対して、必要な職員のみに権限を与えています。
デジタル推進課がシステムの外枠を作成することはありますが、システムの微調整などは各課の担当者に行ってもらいます。

-アプリ・システム開発にあたり大変だったこと、苦労している点についてお聞かせください。

実務担当者をいかに開発・運用に積極的に関わってもらうかという点を注力しています。現状、デジタルツールを活用して課題解決を積極的に図る課から相談を受けています。一方で、やはり消極的な課もあり、部署間での差や個人差が生じ始めていいます。こうした状況に対して議論を重ね、解決策を検討しているところです。

-アプリを運用してから、業務の変化や市民からの反響はありましたか。

「上・下水道の使用開始(中止)の届出」申請アプリは、今年2月から運用しています。これまでは市外からの転入時の手続きで、郵送により申請書をやり取りしていましたが、kintoneによるオンライン化により、簡略化が図れたこと、オンライン申請導入による窓口対応時間の短縮、申請内容の入力転記処理の効率化などの効果がありました。

-ノーコード人材の育成に関する取組についてお聞かせください。

多くの職員が関わる業務をアプリ化して、まず知ってもらうことから始めています。システムに詳しいだけではなく、業務改革を進めていける人材の育成も併せて進めていきたいと考えています。一回の研修で知識やノウハウが身につくわけでなく、回数を重ねて実際にkintoneを使ってもらっています。また、毎年開催しているICT研修に、kintoneの項目を加えて、よりkintoneに触れる回数を増やし、慣れてもらえるように努めています。

kintoneをはじめとしたノーコードツールを活用した今後の展望や目標についてお聞かせください。

まずは、各課で一名以上、各部で一名以上の人材育成を目指して様々なことに柔軟に対応できる行政を目指しています。市民サービスの向上のみならず、職員の能力向上、負担軽減を図り、当市全体がよりよい循環が生まれるように進めていきたいです。