岐阜県・海津市が、県内自治体で初めて導入した「クラウド型被災者支援システム」とは[インタビュー]

岐阜県・海津市が、県内自治体で初めて導入した「クラウド型被災者支援システム」とは[インタビュー]

総務課防災危機管理室 室長の森成正さん(中央)、企画課DX推進係 係長の近藤健二さん(右)、総務課防災危機管理室 防災危機管理係 主事の澤田悠斗さん(左)



1月の能登半島地震、8月の南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)、9月の奥能登豪雨。2024年は、改めて災害への危機感が高まった年だった。これまで大きな災害に見舞われたことのない海津市も、例外ではない。2024年3月より「クラウド型被災者支援システム」を本格稼働。
システムで可能にしたこと、現在進行中の作業、今後の検討構想について、総務課防災危機管理室 室長の森成正さん、企画課DX推進係 係長の近藤健二さん、総務課防災危機管理室 防災危機管理係 主事の澤田悠斗さんに伺った。


(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

基本住民情報を防災データにもスムーズに移行

クラウド型被災者支援システムのトップ画面

2012年頃から、J-LIS(Japan Agency for Local Authority Information Systems:地方公共団体情報システム機構)の単独防災システムを利用していた海津市。阪神淡路大震災の際、兵庫県西宮市で開発され、その後他自治体にも展開されたものである。
しかし維持管理やメンテナンスを検討する中、同じくJ-LISのクラウド型システムの導入を決定する。すでに住民票などのコンビニ交付で使用していたため、転用しやすいという背景があったためだ。大きく変化したのは、住民情報が自動連携される点。それまで、情報は手作業で入力する必要があったが、クラウド上でデータを自動的に共有することができる。
これによって、システム内での避難行動要支援者名簿や個別避難計画の作成、さらには、罹災証明書の発行処理まで可能になった。「マイナポータルからの申請データを取りまとめ、システムを通して、コンビニで罹災証明書を発行する流れができました。遠方からでも申請して、近くのコンビニで受け取っていただけます。システム導入前は、発行は郵送か窓口での手渡しでした」(近藤さん)
もちろん、市役所窓口で従来通りの申請も受け付ける。

田園地帯なので大雨による多少の農作物被害はあっても、これまで海津市では大きな家屋被害や山間部での土砂崩れなどはないという。「しかし、やはり台風シーズンになると大雨の影響を懸念して避難所を開設することがありますので、防災体制を整えておくべきだと考えました」(森さん)

システムには、避難所の管理アプリも含まれている。マイナンバーカードをかざして暗証番号を入れると基本情報が登録され、避難者名簿がシステムに取り込まれる。
2024年6月と10月には、一部の地域で主催される避難訓練において活用し、市民にアプリを体験してもらった。「実際にマイナンバーカードを持ってきていただき、受付をしていただきましたが、あっという間に完了するので好評でした。市民の方にとってだけでなく、市の職員の負担も軽減されるので、双方にとっていいシステムだと実感しました」(森さん)

海津市のマイナンバーカード交付率は、2024年10月31日時点で88.2%にまで達している。

避難行動要支援者名簿や個別避難計画を一元化

システムで避難者数を把握しておけば、支援物資の数量が計れる。また、避難行動要支援者名簿や個別避難計画が共有できるのも、大きなメリットだ。「これらは福祉部門の高齢介護課や社会福祉課がそれぞれ個別で管理しているものでした。一元化することで、庁内で横断的な対応となり、支援が必要な方が適切な避難支援を受けることができます」(森さん)

ただし、まだ担当課の台帳を全てシステムの中に登録できている状態ではない。住民情報以外の、要介護、障害等級、避難の際にサポート可能な家族や近隣住民の連絡先などが蓄積されてこそ、個別避難計画ができ上がる。早く横展開できるよう、データベース化を進めている。

住家被害認定調査の取り込みも検討

また、罹災証明書の発行はシステムで可能になったが、全ての業務をカバーしているわけではない。支援額を決定するためには、住家被害認定調査が必須だ。「半壊、全壊といった評価の計算方法があるのですが、システムではその計算ができません。今もし災害が起こったとすると、この過程は従来の紙ベースにならざるを得ません。どうシステムに紐づけていくのかが課題ですね。調査は調査員が現地で目視により行うものですから」(澤田さん)
そうした中、能登半島地震の事例が参考になりそうだという。「タブレットで写真を撮影し傾斜や外壁の損傷率を入力することで、損害基準を自動で判定してくれるアプリが運用されていたようですので、海津市としても検討していきたいと考えています」(澤田さん)

今後は公式LINEも活用し、市民の安否情報を得ていきたいと考えている。申請フォームを整備し、市外に避難していても支援を受けられる仕組みを整えていく意向だ。

住民にも職員にもやさしい体制へ

海津市庁舎外観

職員にかかる業務が増加する中、災害時の職員負担も考慮する。「被災者の方が最適な避難生活を送るための体制が必要ですが、職員だけでは疲弊してしまうかもしれません。能登半島地震や奥能登豪雨の際には、海津市の職員も現地を訪れましたので、避難所の自主運営などの支援体制は参考にしたいですね。システムに限っては個人情報を扱いますので市が管理しますが、避難所のルール作りなどは地域の方に携わっていただくなど、連携していきたいと思っています」(森さん)

2024年12月、2025年2月と、また別の地域で実施される避難訓練でも、システム体験をしてもらう予定だ。一歩ずつ、着実にアップデートを進めている。