初代アンバサダーに聞く「デジタル改革共創プラットフォーム」の活用法とは(前編)[インタビュー]
デジタル改革共創プラットフォーム 初代アンバサダーの一人 岐阜県下呂市デジタル課 長尾飛鳥さん
全国の自治体職員と政府機関職員とが“直接対話型”で対等に議論する場として2021年11月より現行版の運用を開始した「デジタル改革共創プラットフォーム」。Slackを用いたコミュニケーションプラットフォームである。発端は2020年。当時の平井卓也デジタル大臣が自治体との意見交換の中で、デジタル改革にあたっては「デジタル庁と自治体が対話するフラットフォームが必要」と合意し、ベータ版の運用を経て現在の形となった。登録者数は順調に増加し、1,416の地方公共団体(都道府県含)、38の政府機関、合わせて11,200名以上が参加している(2024年12月時点)。2024年6月には「共創プラットフォームアンバサダー制度」をスタート。
「デジタル改革共創プラットフォーム」は実際どのように使われ、自治体の取り組みにどう活かされているのか。初代アンバサダーに任命された岐阜県下呂市デジタル課の長尾飛鳥さん、神奈川県小田原市子育て政策課の金原悠さんと、デジタル庁の冨岡佳子さんに伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)
共創プラットフォーム立ち上げの背景と経緯
―共創プラットフォームの意義を教えてください。
冨岡:自治体のデジタル改革推進にあたっては、大きく2つの課題がありました。
1.情報不足の問題
・デジタル分野の前例・範例が少ない
・デジタル分野に専門的な知見を有する人材が不足
・専門人材を育成するにも時間がかかる
・多様な事情に応じた解釈や対応が都度必要
2.自治体と国との情報流通上の問題
・国からの通知に対する質問は都道府県を通すなどの階層構造が発生したり、時間がかかる
・通知内容の照合作業など非効率な業務負担も
・国の通知内容が難解
・重要施策の情報を報道で先に知り、現場が混乱
・現場の情報(声)を国に伝える機会・手段が少ない
こうした課題を解決するためには、「自治体を通じたオープンガバメントの必要性」があると考えました。国が考える住民サービスのプロジェクトや施策のほとんどは自治体によって届けられるからです。また、住民目線のサービス開発には、自治体(現場)からのフィードバックが欠かせません。国が気づかない、クリティカルな部分を指摘してもらうこともできます。多すぎる階層構造をなくし、シームレスで迅速なフィードバックサイクルを構築すれば、スムーズな軌道修正も可能になります。さらに、国と自治体との間の心理的安全性が高まれば、より良い方法が共有され、上下関係ではない強力な共創関係が生まれるでしょう。
―国、自治体、それぞれの立場でどういった役割を担うものでしょうか?
冨岡:デジタル庁としては、
・自治体担当者の生の声を拾うことができる
・施策に対する自治体の反応をオンタイムに知ることができる
・インシデント発生時の自治体への連絡に活用できる
・情報発信の場として活用できる
・投稿の履歴が公開されるため、同じ質問に何度も回答する必要がなくなることもある
・自治体との協力関係を構築できる
といった点が挙げられます。
自治体職員の方々からは、下記のような点が解消されたという声をいただいています。
・デジタル分野は前例が少なく相談相手がいない
・関係者の協力が得られずモチベーションが続かない
・他自治体の先進事例を知る術がない
・業務が忙しく、情報収集ができない
・国の通知内容が難しい
・重要な情報をニュースで知り、現場が混乱する
―どのようなやり取りがされていますか?
冨岡:共創プラットフォーム内には複数のチャンネルを開設しており、多種多様な投稿が確認できます。
全体的なことでは、AI活用、イベント情報、障害情報に加え、何でも相談、雑談、自己紹介、今気になっていることなど。プロジェクトごとで見ると、マイナンバーカード、マイナポータル ぴったりサービス、デジタル人材、自治体窓口業務改革 行政手続オンライン化、デジタル田園都市国家構想、防災 災害対応など。アイデアベースでも相談ができるので、さまざまな議論が活発に行われています。業務に直結する内容はもちろん、雑談のチャンネルも非常に有効だと感じています。お互いに会ったことのない人同士が多く、テキストだけの情報になるので、趣味や好きなものが分かると身近に感じられて情報の質が上がっているようです。業務の悩みを吐露することで、解決策を見つけたり、励ましあう共助姿勢が生まれているとも感じます。
また、オフラインイベントでユーザー向けの定期的な勉強会を実施しています。自治体職員同士が直接意見交換できるこうした場も、引き続き提供していきたいと考えています。
初心者にやさしく、質問には親身に
―共創プラットフォームに参加したきっかけは?
長尾:オンライン申請の担当をしていた時、どれだけオンライン申請を進めても、最終的な通知は郵送でした。このままでは使われないサービスになってしまうと感じ、デジタル通知にチャレンジしようと思ったのです。デジタル庁のウェブサイトを調べていたところ、共創プラットフォームを見つけました。とりあえず参加してみようという軽い気持ちで始めたのですが、ちょうどデジタル庁が「処分通知等のデジタル化に係る基本的な考え方」を策定している時期だったので、ユーザーの皆さんが多くの質問を投げかけられ、必要な情報がすでにやり取りされていました。デジタル庁に教えてもらいたいというスタンスだったのですが、「知っている方が教えてくれますよ」というコメントをいただき、気軽に疑問点を聞くこともできました。初心者にもやさしい場所だと感じると同時に、その情報量と効率的な共有の仕組みに衝撃を受けました。また、他自治体やデジタル庁とのコミュニケーションがフラットに行えたことで、事業を圧倒的なスピード感で進めることができました。
金原:児童手当は近年制度改正が多く、子ども医療費も制度理解が難しい分野です。共創プラットフォームに参加する前に、児童手当や子ども医療費関係で県内の有志15市ほどでメーリングリストを作り、情報交換をしていました。そんな中、マイナポータルで児童手当オンライン申請を作るためのマニュアルを作成したので、全国の自治体にも共有できればと思ったのがきっかけです。デジタル庁に出向していた同僚の職員に相談したところ、共創プラットフォームを教えてもらい参加しました。ただ投稿方法が分からず、デジタル庁のマイナポータル担当の方から投稿してもらいました。今は2年間使ってきているので、自分発信の投稿にも情報収集にも利用しています。発信側としては、マイナンバー制度の情報連携や子ども医療費助成の運用関係、公金受取口座の支給マニュアルなど。特にマイナンバー制度の情報連携は手続きが非常に複雑なので、その解説資料は反響が大きかったです。収集側としては、生成AI や何でも相談のチャンネルをよくチェックしています。他の自治体の方が課題として挙げていることは参考になります。
―共創プラットフォームのメリットは?
金原:SlackどころかSNS も全く利用していなかったので、参加してから一生懸命調べて、ようやく使い方が分かってきたという感じです。それでも、素人的な質問にもユーザーの皆さんが親身になって回答してくれるのがうれしかったですね。質問後5分程度で回答をもらえることもあったりします。使ったことがないと、最初はとても緊張しながら勇気を出して投稿されていると思うので、アンバサダーの中でも、なるべくそのような投稿には答えようと話しています。
「デジタル改革共創プラットフォーム」なので、デジタル部門以外の業務を話してはいけないのではと思われるかもしれませんが、そんなことは全くありません。デジタル活用はさまざまな部署で必要になっているので、参加することには大きな意味があると思います。例えば「児童手当のこの部分が分からない」といった場合、従来であれば近隣自治体に電話をかけたり、都道府県を通じて国に質問したりしていますが、どうしても時間かかってしまう。それに比べると全国チャットで知っている人がすぐ返信してくれる環境は、どんな業務であっても非常に役に立つと実感しています。国民健康保険の運用面について、全国で活発なやり取りがされていたりもするんですよ。
長尾:自分の得意分野でない場合には、詳しそうな人にメンションをつけることで、すぐにやり取りがスタートします。そんな風につながりながら、仲間同士で助け合おうとする雰囲気がとても魅力的です。各分野のプロフェッショナルのような方々が参加しているので、初心者向けの内容から高度な話題まで、誰かが必ず知っているという安心感があります。おかげで、自分自身も知らなかったことを学べたり、新たな気づきを得られたりする機会が多いですね。
―市での利用状況はいかがですか?
長尾: 下呂市では職員約600人のうち、140名(2024年10月末時点)が共創プラットフォームに登録しています。新規採用職員から部長まで、幅広い層が利用しているのが特徴です。導入を進めるにあたっては縦のつながりを意識し、まず総務部長に声をかけました。「こうした形で情報収集する選択肢はなかった。どんどん活用していきたい」と言ってもらえてうれしかったですね。
市役所の業務は多岐にわたり、部門によっては属人化が進んでいるのが現状です。このプラットフォームを活用することで、効率的に情報を収集・整理し、縦横のつながりを実感できる環境を目指しています。最近では、職員向けの活用研修会を開催し、実際に書き込んでもらう場を設けています。
共創プラットフォームを通じてチャットによるデジタルコミュニケーションの重要性を実感したことから、今年度より庁内のグループウェアにGoogle Workspaceを導入し、チャットを中心とした文化づくりに取り組んでいます。Google Workspaceのホーム画面から共創プラットフォームに直接アクセスできる仕組みにしました。まだ内線電話やメールを利用している方もいらっしゃいますが、チャットを日常的に活用している方々とともに、デジタルコミュニケーションへの転換を進めていきます。
金原:小田原市は 約2300人中16人と、まだかなり少ないです。1年前くらいに庁内チャットを導入していますが、そちらの利用状況も低い。ただ、何かのきっかけで情報交換が増え、便利だと分かれば使われると思うんです。新しいものに抵抗がない人とか、国民健康保険でマイナ保険証の担当をしている人とか、キーになるような方にまずは声をかけています。そうして参加して投稿する方も中には出てきているので、これからという印象です。
(後編へ続く)
◼️アンバサダープロフィール
岐阜県下呂市
デジタル課
長尾飛鳥さん
新卒で下呂市役所に入庁し、窓口業務やマイナンバーカードなど現場中心の業務をしながら、情報システム部門も一年間担当。2022年からデジタル課へ。利用者目線だけでなく職員目線でDXを推進し、2024年度から下呂市最高デジタル責任者(CDO)補佐官を委嘱。マイナンバーカードを活用した処分通知等のデジタル化が評価され、2024年6月に総務省の東海総合通信局長表彰を受賞。
神奈川県小田原市
子育て政策課
金原悠さん
小田原市役所に入って約20年。下水道の水質規制・使用料担当、例規審査担当を経て、現在は子育て政策課の手当・医療係で、主に児童手当と子ども医療費助成2つの業務を行っている。デジタル部門には一度もいたことがなく、デジタルに明るいわけではないと話す。共創プラットフォームは情報システム部門所属者が大多数のため、少数派ながらも自市でまとめた資料などを積極的に共有している。