課題解決からスタートした兵庫県加古川市のスマートシティのあり方とは[インタビュー]
企画部デジタル改革推進課 スマートシティ推進担当副課長の陰山大輔さん
2016年度頃から、見守りカメラの取り組みをスタートした加古川市。神戸まで約30分、大阪まで約50分の通勤圏内のため、ベッドタウンとして栄えながら、県下で刑法犯認知件数が高いという課題をかかえていました。現在では約1,600台の見守りカメラを設置し、文字通り市民を見守る。加古川市企画部デジタル改革推進課 スマートシティ推進担当副課長の陰山大輔さんに、スマートシティへの道のりについて伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)
プライバシーを考慮した丁寧なアプローチ
刑法犯認知件数を減らし、安全安心な街を作りたいー
見守りカメラの設置には、この強い思いがある。陰山さんは、「安全安心なまちでなければ住んだり、訪れたりするまちとして選んでもらえないという危機感があった」と振り返る。そうした状況を踏まえ、まずは1小学校区(当時は28区)あたり50台のカメラを据えつけるところからスタート。「監視カメラでは?」と心配される市民からの懸念はゼロではなかった。市長自ら12の公民館を訪れて説明し、アンケートを取り、「必要・どちらかといえば必要」という回答が約99%であることを確認し市民のプライバシー保護に配慮した。「いつでも誰でも画像を見ることがないよう制限する条例を制定した点が、スマートシティとして業界から注目されるきっかけになりました。スマートシティを目指したのではなく、安全安心な街、選ばれる街を目指した結果です」(陰山さん)
画像データは最長14日間に限定して保存。この点も条例で定めた制限の一つだ。また、警察とも協定を結び、犯罪が起こったり、災害が発生した時に限って画像の提供を実施する。「視察に来られる自治体で、常にモニターを見ている状態だと思われていた方もいらっしゃるのですが、必要な時間の必要なカメラの画像だけを遠隔で取り出すという仕組みです」(陰山さん)
グラフを見ると、カメラ設置後には明らかに刑法犯認知件数が減少していることが窺える。
また、警察への画像提供件数も当初と比べると随分増え、現在では年間1,000件を超えている状況だ。「犯罪の早期解決にも貢献できていると考えています」と陰山さんは話す。
住宅が写っている場所にはカメラ側にプライバシーマスクをつけ、撮影の範囲外になるよう設定したのも工夫した点だ。
見守りサービスで、安全安心の精度を高める
通学中の安全安心に対する取り組みとして、「見守りサービス」も実施している。500円玉ほどの大きさの「ビーコンタグ(BLEタグ)」を購入し(又は利用料を支払い)、ランドセルに入れておけば、見守りカメラが検知して子どもの位置情報を把握できる。民間企業3社の「ビーコンタグ(BLEタグ)」を利用可能にしたのは、加古川市ならではだ。「検知器を設置した一部の公用車や郵便車両からも「ビーコンタグ(BLEタグ)」を検知できます。行政と民間が役割分担をしながら、インフラを整えていきました」(陰山さん)
小学校1年生に関しては、1年生の間は無料で「ビーコンタグ(BLEタグ)」を利用できるキャンペーンを行っており、保護者アンケートによると約8割から「良かった」と評価されているという。
住宅街が多い南部にはカメラが密集しているが、北部は面積は広く人口も小学校も少ないため、カメラで網羅できない部分を公用車や郵便車両で補っている。さらに、「かこがわアプリ」によって、スマートフォン自体に検知機能を持たせることも可能にした。約1,600台の見守りカメラ、約440台の公用車と郵便車両、4,800ほどのアプリユーザー。合計約7,000の検知ポイントが稼働している。
認知症のための行方不明事案も課題に挙がっていたため、そうした方にはビーコンタグ(BLEタグ)を利用する場合の費用を全額補助している。「ご家族が360度探し回らないといけないところ、どちらに行かれたのかが分かるので、早期発見につながっています」(陰山さん)
これらの見守りサービスも、市民にどうやって安全安心を実感してもらえるか、考える過程で実現してきたものだ。
スマートシティ構想の土台は、市民の声
2021年、スマートシティの取り組みの方向性を整理すべく、「加古川市スマートシティ構想」を策定。デジタル技術を用いながらサービスの充実を図る上で、もっとも大切にしたのが市民の意見だ。そのために、「Decidim(デシディム)」という市民参加型合意形成プラットフォームを採用した。「スペインのバルセロナで生まれたツールです。Code for Japan(一般社団法人コード・フォー・ジャパン)が、この日本語化を進めるに当たって自治体での取り組みを応援したいと発信されていたところ、当時の職員が手を挙げて導入したという経緯です」(陰山さん)
例えば、「駅の賑わいを創出しながら脱炭素を両立するには」といったテーマを掲げると、市民からシェアサイクルの提案があり、デジタル田園都市国家構想推進交付金を活用し、2023年2月からJR加古川駅、JR東加古川駅、市役所の3か所(現在は4か所)にシェアサイクルポートを設置して、シェアサイクルの運用を始めた。駐輪ポートの空き状況や利用状況のデータを収集し、年間で1,800回ほど、電車やバスの代替手段としての通勤移動のほか、普段の買い物や観光、取引先までのビジネス利用なども見られており、データを活用したまちづくりを進めている。
デジタル化は課題解決に特化した結果
加古川市では、なぜデジタル化が進んだのか。陰山さんは、「刑法犯認知件数をいかに減らすか、どうすれば通学中の児童の安全安心を保護者に感じてもらえるか、認知症の方が行方不明になった時に早期発見する仕組みをどう作っていくかなど、市民目線、課題起点で考えていったところが加古川市の特徴」と強調する。そしてこれからは、行政職員の業務負担を軽減することも両立していきたいと続ける。「そうすることで、今まで以上に市民サービス向上に時間を割くことができるようになると思います」
かこがわアプリとは別に、単機能の「みまもりアプリ」を開発し、他自治体へ展開していきたい意向だ。2023年度から周辺の三木市、三田市と一緒になって取り組んでいる。
■iPhoneをご利用の方
みまもりアプリ(App Storeのサイト)
URL:コチラ
■Android端末をご利用の方
みまもりアプリ(Google Playのサイト)
URL:コチラ
見守りカメラについては、3D都市モデルを活用して、これまでに設置してきたカメラの効果検証を実施。3D都市モデル上への見守りカメラの可視領域を可視化するとともに、カメラごとの画像の提供件数や人流データ、死角などを確認し、犯罪が発生したエリアなど集中的に設置すべき場所を踏まえて、2022年からAIを搭載した高度化見守りカメラを追加した。悲鳴を聞いたり、スピードを出した車両が近づいてきたりすると、注意喚起のために回転灯が光って、スピーカーが鳴る。また、一部では人流を測定することができ、駅周辺の再整備の検討にも活用を進めている。加えて、高度化見守りカメラの設置にあたり、丁寧なアプローチで進めている。(一社)日本データマネジメントコンソーシアムが作成された倫理フレームワークによるAI稼働前検証を実施しており、「AIを活用するため、知らない間に個人情報が取得されているのではと不安に思われないよう、ここでも丁寧な説明を心がけています。また、悲鳴ではない声にも反応してしまうと役割が果たせないので、AIによる注意喚起は夜間のみに限定しています」(陰山さん)
「第一段階は、市民の方へのヒアリングと説明。次にスモールスタートでの実証。開発段階においては、補助金にも頼りながら持続的に運用できる形で実装していく。実装後は、国が進めている地域幸福度指標などと照らし合わせ、今一度何が大切なのかをしっかり見極めながら、さらにこのサイクルを回して、より良いサービスを追求していきたいです」(陰山さん)
加古川市では、一人ひとりの市民が幸福感をどう向上させるかを市政の最終目標として意識するため、毎年市民意識調査を実施している。2023年には市民意識調査のデータをオープンデータにする取組を行うなど、市民とともに「市民中心の課題解決型スマートシティ」を目指した取組を推進することで、「夢と希望を描き幸せを実感できるまち加古川」を実現したいと考えている。