愛媛県・宇和島市が目指した、デジタルデバイスがなくても誰もが恩恵を受けられる「書かない窓口」とは[インタビュー]
宇和島市役所 デジタル推進課の小島佑貴さん
2022年3月の新庁舎オープンに合わせて窓口改革を実施した宇和島市。まずはライフイベントに欠かせない市民課の窓口に重点を置いた。市の顔となる市民課をモデルケースにして、他課や他庁舎への導入を進めていく意向だ。実装への道筋や今後の展開について、宇和島市役所 デジタル推進課の小島佑貴さんと、市民課の大野友子さんに話を聞いた。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)
誰もがデジタルの恩恵を受けられる仕組み
総務課の行政改革担当職員が、市民課へ窓口のデジタル化について提案したことが、宇和島市の書かない窓口検討のきっかけだった。当時行政改革部署に所属していた小島さんは、「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)に取り組んでみようと考えたこと、DX推進の機運が高まっていたことに加え、庁舎の建て替えも重なり、市民課と一緒に双方にとって有益なものができないかと検討を始めました」と振り返る。
市民課は、転入や転出、転居といった住民異動時に必要な窓口だ。「宇和島市の高齢化率は4割を超えています。高齢の方でも、障がいをお持ちの方でも、手続きの入り口から変革を起こすことで、より多くの方がデジタルの恩恵を受けられる仕組みを作りたいと思いました」と、小島さんは続ける。
スマートフォンやタブレットの有無を前提とせず、身分証明書や転出証明書さえ持ってくれば、誰もがスムーズに手続きを受けられる点を、もっとも大切にした。
2020年6月くらいから年末にかけて、現状を整理し、どう運用をしていくか協議を重ねた上で、翌2021年の約1年をかけて実装に向けて進めていった。
手続きに来ると、まず番号を受け取り、呼び出されると窓口に向かう。転入の場合は、以前住んでいた場所の自治体から受け取っている転出証明書を提出すれば、それをスキャンするだけで、自動で異動書に転記される。必要な内容があれば、聞き取りしながら付け加える。最後に確認し、間違いなければ署名をして受付は終了となる。転出や転居の場合も、基礎情報を取り込んで異動書を作成するため、手書きは不要だ。
大野さんは、「最初に聞いた時はまるで夢のような話で、驚きと憧れを感じていましたが、構築費が高額なので諦めていました」と話す。サービスの付加価値という観点から十分に議論を重ね、補助金申請をすることなく、市が負担する形でシステム導入に至った
変革を恐れる人がいないよう、慎重に
宇和島市内では、本庁舎以外に3つの支所で住民異動を受け付けているが、現在、書かない窓口は本庁舎の市民課のみで展開している。本庁舎は新庁舎と一緒のスタートだったため、比較的スムーズに転換できたが、それでも、システムの操作には労力を要した。「以前の方法が早いと、新しいシステムを使わない職員もいました。使わないとデジタルの恩恵は生じにくくなってしまうので、とにかく使ってみようと話していきました」と小島さん。導入して2年、職員の異動はあるものの、それぞれがやり方に慣れてきたことで、引き継ぎも問題ないという。
とはいえ、まずは本庁舎市民課でモデル事例を作ることを優先、効果を見せることで憂慮なく他にも展開できるよう、心を配っている。
今年度はデジタル田園都市国家構想交付金を活用し、3つの支所および市民課以外の窓口にも導入する計画だ。
書かない窓口の実質的な恩恵
住民からは、「書かないでいい」という驚きや、「待ち時間が感覚的に短くなった」という喜びのコメントが届いている。実際、転入であれば手続き1件当たりの所有時間が15~20分短縮されたとのデータがある。
確認や修正作業が減ったことで、職員の負担も軽減されている。「無駄に記入をお願いしなくてよくなったとも言われます。ただ、聞き取りを確実にしながら同時に入力するので気をつける必要があり、慣れるまでは不安だとの声もありました。でもやっぱり、世帯数が多くなるほど個人番号の12桁を1つずつ入力したり確認したりするのは大変だったので、とても楽になったと聞いています」(大野さん)
その他、待ち時間に広告を流すことで、広告会社から窓口案内システムを無償で提供してもらっている。「そのようなサービスがあると知って、プロポーザルをかけました。おかげで、通常だと数百万円のイニシャルと年間数十万円のランニングに係るコストがかかるところ、これらが不要となりました」(小島さん)
専門性をオンラインでカバーする
2022年2月に、2022年度から3年間のDX推進計画を策定、今年度はその最終年度に当たる。オンライン申請の推進、デジタル庁のガバメントクラウド先行事業への参画など、デジタル化を進めてきた。オンライン申請の利用率は現在50%ほどだが、今年度は70%のKPIを立てている。また昨年度には職員による窓口体験調査を行い、その調査結果をもとに今年度中の書かない窓口の拡充を目指す。
支所から本庁舎へのオンライン窓口の実装も計画している。「職員数が少なくなる中、支所では専門的な話になると、どうしてもお答えしづらい場面があります。受付は適宜可能ですが、詳しい制度の部分など専門的な回答が求められる場合には、本庁舎とオンラインでつないでカバーしていきたいと考えています。また、本庁舎には手話通訳者もいますので、聴覚障がいのある方に対応することも可能になります」(小島さん)
さまざまなシステムを運営管理、システムを使いこなせる職員の育成、デジタルリテラシーの向上も引き続き必要となる。
2021年度から2022年度にかけては、地域情報化アドバイザーや愛媛県が募っている外部人材に依頼したりと、講師を招いての研修も多く開催した。や、「DXとは何か、デジタル化が目的になってはならないという大事な基本から始まり、UIやUXなどのお話もお伺いしました。最近では小規模ではありますが、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や汎用WEBフォームシステムの使い方などの個別研修を実施しています。専門性の低いものであれば職員が主体となって研修を実施することもあります。」(小島さん)
書かない窓口に関しても、プロジェクトの中心である職員が横展開に向けた説明会や研修会を実施しているという。
今後はシステム標準化の動向に注視しながら、基幹業務システムが保有するデータを活用した窓口サービスの提供についても検討していきたい、と小島さんは締め括った。