70以上もの自治体が視察に訪れるという埼玉県深谷市の「書かない窓口」現地レポ[インタビュー]

70以上もの自治体が視察に訪れるという埼玉県深谷市の「書かない窓口」現地レポ[インタビュー]

1887年(明治20年)、渋沢栄一が深谷市に設立した日本煉瓦製造会社(後の日本煉瓦製造株式会社)のレンガ工場は、明治から大正にかけて、司法省(現法務省)・日本銀行・旧東京裁判所・旧東京商業会議所・赤坂離宮・旧警視庁・旧三菱第2号館・東京大学など、多くの建築物に使用された。その名残りを感じさせるように、深谷市にはレンガづくりの建物が点在する。中でも、一際目を惹くのが深谷市役所だ。
2020年7月に開庁、建物には外観を含め多くのレンガが使用さえれており、日本煉瓦製造株式会社の工場で製造されていたレンガも床の一部に用いられているという。新庁舎に合わせて構築された「書かない窓口」を、深谷市役所 市民生活部市民課 課長補佐の清水昌彦さんにご案内いただいた。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)

ワンフロアサービスで滞留を減らす

深谷市役所のメインエントランス

5月下旬の取材当日、深谷市役所のメインエントランスにはキッチンカーや野菜の直売所などが並び、賑わいを見せていた。「市民に親しまれ、まちづくりの活性化につながる庁舎」というコンセプトが体現されている様子が窺える。庁内に入れば、長く伸びたカウンターと、カウンターの奥で対応する多くの職員の姿を目にすることができる。深谷市では「ワンフロアサービス」を掲げており、住民登録や死亡届などは市民課、健康保険は保険年金課、高齢者福祉や介護保険は長寿福祉課、子育て関連はこども青少年課と、各窓口で手続きに対応する。複数の手続きが必要な場合には、窓口を巡っていくことになる。「一箇所ですべての手続きができるワンストップは市民の方にとって大きなメリットだと思いますが、一つひとつの窓口を移動していくことで、それぞれの手続きが完了したという実感を得ていただきやすく、また、ある一定の場所に手続きを待つ方々が滞留して混み合うことも避けられるのではと考えました」と清水さんは説明する。

受付番号発券機

書かない窓口がスタートして約4年。メインエントランス側に設置された受付番号発券機で用件ボタンを選択し、番号が記された用紙を持って対応窓口へ向かう。窓口で身分証明書を提示してもらい、生年月日を検索することで、本人情報が申請書に反映される。 窓口業務支援システムと基幹系システムが連携されたため、「市民のかたであれば、住所や氏名が 間違いなく、すばやく反映されます」(清水さん)
以前は、何らかの手続きがしたくて市役所に来たものの、どこへ行けばいいのか、何をすればいいのか分からず、フロアアドバイザーの前に列ができることも多かったが、こうした一連の流れが定着したことで、滞留がなくなった。「2020年ですでに、手続き終了までの時間は、証明書発行で20分から11分、住民移動で45分から20分へ短縮できました。その後、2021年はあまり変わらなかったのですが、最近モニタリングを実施したところ、さらに11分から6分、20分から13分になっていました」と、清水さん自身も驚きを隠せない様子だ。

北見市のノウハウを活かして

書かない窓口のシステムの導入に当たっては、「職員のノウハウが詰まったシステム」だと強く感じ、北海道北見市を参考にした。「北見市さんから学んだことを、同じように他自治体の皆さんにも伝えたいですね。また、特に深谷市でさらに加えた自動連携(窓口業務支援システムと基幹系システムの連携)は、おそらく他に例がないので多くの自治体に視察にお越しいただいているのだと思います」(清水さん)

窓口業務を横断的に考える

窓口利用体験調査の様子

訪問した日、ちょうど2回目の窓口利用体験調査が実施されていた。窓口サービスの現状を調査すべく、各課から集まった職員が2つのチームを作り、実際に窓口を訪ねて手続きを体験するという初の試みだ。1チーム4名が市民役、写真や動画の撮影係、記録係に役割分担される。利用者の目線や立場、気持ちになりきれるよう、市民役には家族構成を含め、それぞれのチームごとに細かなペルソナが設定されている。1回目は転入、2回目はおくやみがテーマ。おくやみの場合、死亡届や火葬許可に始まり、状況に応じて世帯主変更、被保険者証の返納、共済年金の給付など、さまざまな手続きが存在する。どういった手続きが必要なのかをガイドブックで確認し、窓口へ向かう。職員に対応してもらいつつ、立ち寄った課の数、対応した職員の数、書いた書類の数、来庁から退出の時間、どこに何分かかったのか、どのようなルートで窓口を回ったのかまで丁寧に記録する。“心の声“を逃さないよう意識しながら、「すぐに声をかけてもらった」「何回も同じことを書いて手が痛くなった」「説明されたことをとても覚えられない」など、気づいたこともポジティブ要素とネガティブ要素に分けて書き留めていく。最後にタイムチャートや導線も含めた調査報告書をまとめ、後日報告会が実施されたという。(※現在「書かない窓口」は一部窓口のみで利用されている。)
課をまたいで、提供しているサービスを体験して現状を把握し、課題をあぶり出し、解決法を設定していく。また、何をどう変えたから良くなったのかデータを蓄積していく。こうした積極的な姿勢が、書かない窓口のさらなるアップデートを可能にし、深谷市全体のサービスを確実に支えている。

市民生活部市民課 課長補佐の清水昌彦さん