菅野大志町長が持続可能な地域を目指して推進。西川町の未来をかけたタブレット「つながるくん」の配布政策とは[インタビュー]

菅野大志町長が持続可能な地域を目指して推進。西川町の未来をかけたタブレット「つながるくん」の配布政策とは[インタビュー]

山形県にある高齢化率47%の西川町。2022年4月、元官僚出身の菅野大志(かんのだいし)さんが西川町長に就任以来、デジタルを積極的に活用した関係人口の創出や観光事業への取り組みが注目を集め、全国の自治体や企業からの視察の絶えない町になっている。
そんな西川町では2月より全世帯に向けタブレット端末「つながるくん」の配布を開始した。財源となる2億円は町のお金を使わず、国からの交付金や企業からの寄付を活用しての取りくみだ。
さまざまなことを考え配布を進める「つながるくん」の施策についてお話をうかがった。

(聞き手:デジタル行政 加納奈穂)

超高齢化の町でタブレット配布を進める意味

2月より実施されている西川町おける全戸タブレット配布に関し、実施に至る経緯や背景についてお聞かせください。

資料提供:西川町

すべては「持続可能な地域を目指すため」の一言に尽きます。

現在は交付率が9割となり、デジタル田園都市国家構想交付金「デジタル実装タイプTYPE X」への申請もできるようになりましたが、私が町長に就任した際のマイナンバー交付率は3割程度でした。個別で地域の集会場を回ったり、口コミや防災無線を活用したり、地道な努力を続けることで交付率がアップし、職員や町民が自身を持つきっかけとなりました。

今回のタブレット配布に関しても、マイナンバー普及の際と同様、事前に体験会を行う、全戸にデジタル推進委員や西川町職員が直接訪問して配布する、配布時には30分から1時間の説明を行う、講習会を実施するなど配布するだけではなく、その後のフォロー体制も充実させ、地区ごとに順次お配りしています。

DXが進み、自治体の仕事は急激な変化を迎えていますが、それに対応するためには「ティール組織化」することが必要だと考えており、西川町職員が目的のために自発的に行動するように意識改革を行ってきました。役場自体も職員へのノートパソコン配布、情報共有ソフトやフリーアレスの導入を行い、プロジェクト単位で様々なことが迅速化するようにしてきましたが、町民を巻き込むのがとても難しい。
LINEオープンチャットを使って町内外の方を巻き込んでいますが、高齢者の方はそれを見ていません。防災無線で流す熊の出没や避難訓練など安心安全に暮らすための情報を耳の聞こえにくい方にも届けること、見守り、健康維持のための体操などさまざまな情報を持続可能な形で発信することを考え、タブレットというツールを選択しました。

高齢者に対する政策はたくさんありますが「情報を届ける」には大変コストがかかりますからね。過疎の町だからこそ使える交付金もあり、各タブレットの通信費も町でねん出しています。タブレットを配布している自治体は他にもたくさんありますが、配り終わってからがスタートだと考え、全庁を挙げて取り組んでまいります。

-高齢化率が高い西川町においてどのようにタブレットの利活用を普及させるのでしょうか。具体的なお取組みや今後の施策などもございましたらお聞かせください。

まだ全戸への配布は完了しておりませんが、まずは体験してもらい、慣れてもらうこと。高齢者が多いため、タブレットに抵抗のある住民に受け取ってもらえないこともあると思っております。そのため配布する職員も70歳以上の者が担当したり、住民と交流のある者がご挨拶に伺いご説明させて頂いたり、講習会も同時にご案内したり。
まずは受け取ってもらい、体験してもらえるよう工夫を凝らしています。

命を守るため、誰ひとり取り残さない社会につなげるコンテンツとして避難所・見守り・クマ情報・自主防災訓練の情報、楽しめる生活につなげるコンテンツとして人とつながる・映像を見られる・区や町の情報など「住民の幸せ」「安心安全」を考え用意しています。
もちろんタブレットだけではなく、町報は紙も配布します。

デジタル町民も多数いらっしゃるのでデジタルで文化祭を行ったり、地域ごとの運動会の模様を配信したり。eスポーツの実施も可能だと思っています。他自治体では一般予算を使って実施している文化祭も、デジタル文化祭として行うことで補助金を財源とできるのではないでしょうか。
タブレットを活用することでより多くの補助金が使えるため、その効果は10億円程度あると見込んでおり、町の財源を「かせぐ」ためにタブレットを経営基盤としても使っていきます。

また、デジタル町民には防災訓練にも参加していただき、災害などの有事の際、ボランティアの中心となって活動してもらいたいですね。西川町へ視察に来てもらって備蓄品の場所や避難場所などを確認して頂くなど積極的に関わっていただき、危機に見舞われた際には行政の役割も担っていただけるのが理想です。

資料提供:タブレット端末「つながるくん」

不退転の覚悟で挑む町立病院の維持とこれからの西川町

-西川町では町立病院の維持が重要な課題とされていますが、病院の維持×タブレットのお取組み予定がございましたらお聞かせください。

タブレットをマイナンバーカードと連携させ健康や診療に役立てたいと考えております。タブレットにパーソナルデータを紐づけ、運動の促進や健康アプリの活用も行う。既に町立病院で実証実験を行っているオンライン診療とオンライン服薬が本格化し、遠隔診療が可能になれば医師の働き方改革による2024問題に直面し医師の確保に困ったときにも役立ちます。医師が毎日町立病院に通わずとも診療ができるようになるので。町立病院をより気軽に受診して頂けるようにして、売上を獲得してまいりたいと思います。

「町立病院の維持」は町民アンケートでも最も要望が高く、人口が5000人以下で町立病院があるのは山形県内で西川町のみです。町立病院がなくなれば過疎化が加速する事実は県内の他の町の状況から見ても明らか。令和5年より国から支給されていたコロナ対策の補助金額が減り、病院維持のために町が補填しなければならない赤字分が急拡大します。町の事業で国から得ている補助金を活用し、病院にもお金を回していけるよう頑張ります。

-本年度西川町ではどのような施策を予定されているのでしょうか。

補助金の獲得が実現できていない生涯学習や健康福祉の政策でタブレットを活用し、資金を得る施策を考えていきたいと考えています。
西川町では令和6年度「デジタル田園都市国家構想交付金」に9本の事業を申請し、8本の採択内示を受けております。他にもたくさんの補助金にチャレンジし採択されており、予算規模は昨年に続き過去最大の74億7,800万円となっております。
補助金の獲得が実現できていない生涯学習や健康福祉の政策でタブレットを活用し、資金を得る施策を考えていきたいと考えていきたいですね。

おかげさまで関係人口の創出については全国から注目していただき、視察にもたくさん来て頂きましたが、タブレットについてはこれからです。最近は職員の意識改革や組織改革についての視察も増えていますので。
タブレットを使った住民アンケートを実施すると地域課題の解像度も上がると思いますので行いたいですね。

デジタルを活用すると情報の出し分けができると思うので、西川町に関わる関係人口の方をいくつかにグルーピングしての発信も考えています。
LINEのオープンチャットに参加されるような積極的な方もいればひっそりと西川町を検索したいような方もいらっしゃいますから。デジタルは町への関わり方を選べるのも良い部分です。
これまで西川町になかったコワーキング・サテライトオフィス施設「TRAS(トラス)」も間もなく完成します。ビジネスをしながら町内に居場所ができることにより、人や企業の流入が期待できますし、町民と西川町に関心を持つ方が繋がりごちゃまぜになって交流できる企画を作っていきたいと思います。

-取材を終えて

西川町の取り組みを語るには「つながり」「対話」「巻き込み力」「挑戦」といったキーワードが欠かせない。人口5,000人未満・高齢化率が47%の町とは思えないほど日々進化を続ける西川町のファンは増え続けており、予算規模も関係人口もふるさと納税もすべてが「過去最高」を記録し続けている。

全国でも類を見ない圧倒的なパワーで人・カネ・情報を引き寄せる西川町が未来をかけて配備をすすめるタブレット「つながるくん」の今後の活用が楽しみだ。
日々の西川町の様子が垣間見れる「LINEオープンチャット」もおすすめだ。

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