[インタビュー]自治体の教育DXをサポート―デジタルラーニング・コンソーシアムが「教育DX推進相談員制度」を開始

[インタビュー]自治体の教育DXをサポート―デジタルラーニング・コンソーシアムが「教育DX推進相談員制度」を開始

特定非営利活動法人デジタルラーニング・コンソーシアム(DLC)は、2001年に設立された業界団体「日本イーラーニングコンソシアム」を前身として20年以上、デジタル学習普及の推進に尽力してきた。現在はeラーニングを含む、デジタルを活用した学習(デジタルラーニング)の普及促進を目的に様々な活動を続けており、2023年10月からは教育DX推進相談員制度を新たにスタートさせた。DLCのメンバーに、現在の活動や教育DX推進相談員制度の狙いについて話を聞いた。

※参加者の役職・所属等は次の通り(2024年3月時点)
中嶋 竜一(ユーザ委員会 教育DX相談員制度 リーダー/株式会社デジタル・ナレッジ)
星 聡子(ユーザ委員会 教育DX相談員/トレノケート株式会社)
大月 賢一(ユーザ委員会 教育DX相談員/株式会社富士通ラーニングメディア)
大野 裕貴(ユーザ委員会 教育DX相談員/learningBOX株式会社)
北村 士朗(ユーザ委員会 教育DX相談員/フリーランス・インストラクショナルデザイナー)
秋山 敏夫(DLC 事務局長)

(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)

デジタルラーニングの成果を最大限に生かすためのノウハウを発信

―自己紹介をお願いいたします。

中嶋氏 私はこの業界に入って25年ほど経ちますが、ずっとeラーニングに携わってきました。去年の6月からはDLCで教育DX相談員制度を拝命しましたが、今後はより教育DXに親しみを持っていただけるよう、団体を通じて業界に貢献していきたいと思います。

星氏 当社は人材育成の専門企業であり、その中で私はマーケティングの部署に所属しています。本プロジェクトにおいては、DXをキーワードにどう進めていいか分からないお客さまも多数いるなか、実際にその声を聞き解決方法を提案する立場として参画をしています。

大月氏 当社の社長がDLCの会長を務めておりますが、私はいわゆる営業組織に所属しています。DXというキーワードが人材育成においても切り離せない状況で、自治体・官公庁・企業まで、人材育成のお手伝いをしております。自分自身が営業の立場で事例や実績を展開してきた経験もあり、今回はNPOとして、自治体向けの相談員制度という形で色々とご紹介が出来ればと思います。

大野氏 当社はeラーニングのプラットフォーム・LMS(学習管理システム)を提供している会社となります。私は自身が公務員としての経験もあったことで官公庁担当を主としておりましたが、この度はご縁もありましてDLCの相談員制度にも参画をしている状況です。

北村氏 DLCには個人で参加しておりますが、普段は教育の設計をするインストラクショナルデザイナーという仕事を主にしながら、今年の4月からは社会人向け大学院の教授もしております。そのほか、教育・ITベンチャーの役員や熊本大学の大学院の教員なども経験し、そのご縁もありDLCには関わりを深く持ってきました。

秋山氏 前身団体が2001年に設立されて以来、事務局の立場から、eラーニングやデジタルを用いた教育のテクノロジーの普及に注力してきました。NPOとして20年以上にわたり蓄積してきたことが、どうやってお役に立てるのかと考えたなかで本プロジェクトがスタートしました。今後は自治体に対しても様々なノウハウが提供・アウトプットが出来るのではないかと思います。

―DLCでは現在、どのような活動をしていますか。

中嶋氏 現在は、標準化の推進活動やガイドラインの作成に加え、デジタルラーニング関連の情報提供、システム構築や運営管理に関する教育、コンテンツに関する標準化の認定、などを活動の柱としており、デジタルラーニングの成果を最大限に生かすためのノウハウを発信しています。

また、DLCの会員にはプラットフォームベンダーから教材・コンテンツの開発会社まで、デジタルラーニングを中心とした様々なプレイヤーが集まっていますので、各社が連携をしながらビジネスを進めているほか、NPOという形で広く情報交換をするなど、コミュニティとしての役割も果たしています。

教育DX相談員として、NPOの立場から無料で情報提供

―2023年11月より、DLCでは自治体向けに「教育DX推進相談員制度」を開始されました。本制度の概要について教えてください。

中嶋氏 今までも自治体や企業(ベンダー)との2者だけでお話を進めた際に、両者のやりたいこと・やれることに対する認識の齟齬が起きたり、軽い気持ちで相談したつもりの話が大きくなってしまったりなど、自治体からDLCにニーズのミスマッチに対する相談が寄せられるケースがありました。

そのようなミスマッチを解消するために、DXに取り組みたいと考えられている自治体のご担当者さまから、気楽に何でも無料で相談して頂ける制度を、NPOという客観的な立場から提供するものです。

本制度を開始された背景や狙いについて教えてください。

中嶋氏 私たちは、無料カンファレンスなどを通じて、全方位に教育のDXの活用方法を発信してきましたが、自治体のDX担当者さまにはまだまだ届いていないのが実情です。ただ、デジタルを活用して学ぶ組織が強いことは、このコロナ禍の活動を通じても明らかになって来ましたし、それは自治体にとっても同様かと思います。

私どもは永続的に「DXを活用した『学習する自治体』」となっていただく事を目指し、体制の立ち上げ方から運用まで、どんな内容でも聞ける気軽な窓口を実現していきたいと考えております。メーカーによる製品の売り込みありきではありませんので、安心してご相談をいただければと思います。

―「教育DX推進相談員」にはどういったスキルや背景の方がいらっしゃるのでしょうか。

秋山氏 DLCユーザ委員会に参画している、会員企業(ベンダー)の担当者が相談員を務めます。eラーニングの時代から、官公庁や民間企業での数多くのプロジェクトを立ち上げてきた経験を持つ担当者たちで、その多くは「eラーニング・プロフェッショナル」資格を持っています。

なお、「eラーニング・プロフェッショナル」資格は、DLCが10年以上前から提供をしている資格制度で、ICTを活用した教育研修プログラム(「eラーニング)を導入・活用する際に必要な戦略策定や、導入の企画・設計・開発・運用・評価をする知識、スキルをもつeラーニングの専門家を育成するものとなります。

デジタルラーニングの困り事でまずは相談される存在を目指す

―DLCのホームページによると、「デジタルラーニングの活用により、自治体が持つ諸課題を解決している事例が増えてきている」とのことですが、どういった事例が挙げられますか。

中嶋氏 時間と場所の制約を超えて学びを届ける、デジタルラーニングの手法を活用した事例が増えています。例えば、自治体職員に向けたIT教育や、learningBOX社のソリューションを活用したふるさとWEB検定なども事例の一つです。

また、教育DXには、自治体内のDX人材育成、組織開発など「教育“で”DXを推進する」という側面と、教育委員会・教員のサポート、自治体内の人材育成へのeラーニング導入など「教育“を”DXする」という2つの側面がありますが、私たちはこの両方を推進するお手伝いを進めています。

秋山氏 DLCには、会員企業・ユーザ委員会などのメンバーが100社、メンバーのお客さまで含めると5,000社の知恵や事例が集まっています。また、私どものような公益団体の立場から事例や効果の説明をさせていただくほうが、自治体のご担当者自身が見つけて来た事例を元に提案をするよりも、お話が進みやすいというメリットもございます。

向日市ではlearningBOX社のソリューションを活用したふるさとWEB検定を展開
【参考】デジタル行政・【京都府向日市】ふるさとWEB検定にかける思いと自治体DXの課題[インタビュー](URL

―教育DX推進相談員制度における今後の展開や期待する成果については、どのようにお考えでしょうか。

中嶋氏 各自治体が推進しているDX化において、デジタルラーニングをもっと提案していければと考えています。また、自治体のご担当者が、デジタルラーニングを導入・推進したいと思った時に、DLCにまずは相談して頂ける存在になりたいと思っています。

そのためにも、各自治体の好事例をDLCのセミナーやWebサイトで広く紹介する事で、関心を高めていき、DX化全体の推進にも寄与していく事ができればと願っています。多くのセミナーはオンラインでも開催されますので、各自治体のご担当者様におかれては、DLCの主催する数多くのイベントにも積極的に参加頂ければと考えています。

また、将来的には各自治体の皆さまのネットワーキングも出来ればよいと考えています。その中で、私たちも自治体の皆さまのお話を伺い、より自治体に寄り添った制度に進化させたいとも考えています。

5月に自治体・ベンダー担当者が登壇するオンラインイベントを開催

―5月のオンラインイベントについてご共有ください。また、本イベントの開催にはどのような狙いがあるのでしょうか。

中嶋氏 自治体のご担当者にご登壇いただき、導入に関わる実際の生の声をご紹介する予定です。具体的には、3~4つの好事例について、自治体のご担当者・ベンダーの担当者双方にご登壇いただき、ご苦労された点も含めてご発表いただきます。

自治体の皆さまにおかれては本イベントを通じ、教育DXのイメージを作っていただくとともに、教育DX推進相談員制度の活用方法についてご理解いただき、実際にお使いいただければと考えております。

―改めて、読者および自治体職員へのメッセージをお願いいたします。

中嶋氏 まずはぜひ5月のオンラインイベントにご来場ください。デジタルラーニングは、時間と場所を越えて知識・教育・学びを届ける仕組みで、この仕組みを様々なDX化推進に役立てる事で、職員教育、住民へのサービス向上、自治体競争力の強化などを実現する事ができます。そのなかDLCは、NPOとして、業界全体の健全な発展のために尽くしてまいりますので、ぜひとも定期的に開催されている我々のセミナーにご参加いただき、知見を高めて頂ければと願っております。

星氏 DX相談員制度は敷居を下げて、何でも気軽にご相談をいただける場としてご用意をいたしました。DXも随分と広まりましたが、初歩的な話で今更恥ずかしくて相談が出来ない、あるいは二の足を踏んでしまっている等のお悩みをお持ちの方に、ぜひご利用いただければ幸いです。

大月氏 データやデジタルを使うことによって、自分たちが想像もしてなかったことが実現出来る可能性もございます。もしアイデアが無かったとしてもお気軽にご相談いただき、どんなことがDX出来るのか、学べるのか、お話出来ればと思います。公共の立場で対応をさせていただきたく思いますので、ご安心ください。

大野氏 自治体の方とお話をしてもDX化がなかなか進んでおらず、特に情報が無くてお悩みな状況は実感するところです。まずはどんなお悩みでも是非ご相談いただいて、解決策をご提示していきたいと考えております。あまり「DX化」という言葉に捉われず、業務を改善したいなど全般的なご相談をまずはいただけるとお力になれるかと思います。

北村氏 自治体のご担当者の皆さんも「何から相談していいか分からない」ということは多いかもしれません。我々のチームでも議論しているのが、特別に良い事例だけでなく、手のひらサイズの事例もお示しすることで「こんな簡単に出来るんだ」ということも共有していきたいと思います。

秋山氏 この20数年、DLCでは企業内教育を多く取り扱ってきましたが、そこで培ったノウハウを今回は、NPOとして自治体の皆さまにも惜しみなく提供していき、お役立ちが出来れば幸いです。