プレミアム商品券の電子化で利便性の向上を実感。別府市が推進するデジタルファーストのすがた[インタビュー]
大分県別府市は、コロナ禍に、外出制限で売上が減少した飲食店を“応援”するためプレミアム商品券「別府エール食うぽん券」をスタート。2020年12月からは「エール券」として、飲食店以外にも対象を広げた。2023年4月の第5弾よりデジタル版を導入。同年10月の第6弾では電子エール券アプリ「Sento」をリリースした。
地域通貨の活用まで見据えた戦略について、産業政策課の田崎直道さんと、情報政策課の明田舞子さんに伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)
―年齢に関わらず利用されたデジタル版商品券
大分県別府市のプレミアム商品券「エール券」は、昨年の第5弾より紙と並行してデジタル版が販売された。ただし、Webブラウザ上で開くため、立ち上がるまでに時間を要したり、都度ログインしなければならなかったりと、「アプリの方が使いやすい」との声が上がったという。そのため、地場のシステムベンダー(企業や行政の情報システムなど、大規模なシステムの開発・構築・運用などの業務を請け負う事業者)である株式会社オーイーシーを通して、株式会社フィノバレーが開発したアプリを採用。「事業者募集の段階で、第5弾ではアプリでなくてもスマートフォンで利用できれば可としていましたが、第6弾はアプリに限定。仕様も固めて、それを網羅できるところを選定しました」と産業政策課の田崎直道さんは話す。
第6弾のプレミアム率は30%。10,000円分購入すれば、13,000円分利用できることになる。利用できる店舗も募り、第1弾から徐々に数が増えて現在では1400店舗が登録している。「レストランやスーパー、大型商業施設から、畳屋さんや車屋さんまで、ありとあらゆる業種が揃っています。これを機にちょっと畳を張り替えようかという方もいらっしゃるようです」(田崎さん)
国や県からの補助金などで実施されているため、用意できるエール券の上限は決まっており、1セット5,000円が20万セット(13億円分)で、12万を紙、8万をデジタル商品券とした。上限に達したら販売終了となり、毎回完売している状況だ。また、市内に住んでいれば6セット30,000円、市外だと2セット10,000円までに購入制限を設けているため、購入者は市民がほとんど。しかし、紙、デジタル関係なく、期待して待っている方が多いのだという。
「紙は年配の方、デジタル版は若い方が利用するだろうという前提はありましたが、実際には思っていたほどの偏りはない印象です。スマートフォンを持っている方がこれを機にアプリを使ってみた、キャッシュレス決済に踏み出してみたといった声をよく聞きます。日用品にも使えるので、年齢に関わらず利用したいという方がいらっしゃいます」(田崎さん)
電子エール券アプリ「Sento」は、まだ確定していないものの次のエール券ではもちろん継続して利用する予定だ。さらに、将来の地域通貨や地域ポイントの実装も見据えて構築してもらったのだという。
2019年6月、別府市は「BEPPU×デジタルファースト」を宣言。全国の自治体に先駆け、トップダウンで市民サービス・観光戦略・行政運営にデジタルの視点を持って取り組んでいる。特に注目を集めたのは、RPA(Robotic Process Automation)の活用。ロボットによるパソコンの自動入力で、職員の事務作業の負担軽減を図るというものだ。その他にも、エール券に関する予約システムや販売システムは、ローコードツールやノーコードツール(システムやアプリ、Webサイトにおいて、ソースコードの記述を最小限に抑えるまたは書かずに開発を行えるツール)を使って、情報政策課で内製した。
部長同等の役職としてCDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)がいることが大きい、と情報政策課の明田舞子さんは言う。「元々IT系企業のシステムエンジニアだった方なので、事務職の私たちも指導を受けながら関わることができています」
課題は、デジタル化に尻込みする意識が存在すること。「デジタルによって楽になることが目標ですが、何かしらを変える必要があるので、腰が引けてしまう方はいらっしゃいます。どう一歩踏み出すかが大事だと思います。また、人的にも資源的にも限りがあるので、声をかけて頂いた課や担当者を徹底的に、手厚くフォローするというスタンスでいます。エール券のシステムに関しても相談があり、自分たちのできる範囲をお伝えして提案し、活用頂いたという経緯です」(明田さん)
―デジタルに不慣れな人をどうフォローしていくか
デジタルを進めることも大切だが、使えない人たちのフォローもとても重要だ、と明田さんは話す。エール券でも、デジタル版を申し込みたいけれどもどうすればいいのか、アプリのインストールの仕方が分からないという場合のために、サポート窓口を設けた。これに限らず、デジタルに不慣れな方に向けたスマートフォン講座なども実施しているという。
しかし、デジタルが使えればいいという話ではない、と明田さんは強調する。「デジタルを使える人が増えれば当然、市役所の窓口に来なくていい人が増えます。結果、来庁者数が減り、待つ時間が短縮され、今まで以上にきめ細やかな対応ができるようになるでしょう。必ずしもデジタルが全てではなく、使えない方たちをしっかりとフォローし、より手厚いサービスを提供できるようにしていきたいですね」