日本最先端クラスのデジタル県を目指して―その取り組みの全貌を群馬県DX戦略課に聞く[インタビュー]
群馬県では2021年度より「ぐんまDX加速化プログラム」を策定し、19の政策分野でDX化に取り組んでいる。また、DX推進本部を設置するなどの体制整備や人材育成に取り組んでいる。これらの取り組みは高く評価され、日本DX大賞「人と組織部門」では2023年に大賞を受賞した。
群馬県が目指す姿やその施策、さらにDX人材の確保などについて、群馬県知事戦略部 デジタルトランスフォーメーション戦略課 企画係 柴田 剛志氏に話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)
(ライター:同 渡辺 龍)
19分野112の事業でデジタル化の推進を目指す
―自己紹介をお願いします
群馬県庁DX戦略課の柴田です。入庁9年目になり、これまでは県の税金関係や障害者福祉関係の業務をしておりました。3つ目の配属先として現在の部署で業務にあたっています。
―ぐんまDX加速化プログラムについてお聞かせください
本プログラムは2021年の11月に策定をしました。群馬県庁内の代表的なDX事例を集めて、2021年度から3年間で取り組むための工程表として、いわゆるカタログのような形で作成したものになります。中身は「チャレンジ事業」と「ステップアップ事業」に分かれていて、全部で112事業が掲載されています。県の最上位計画に「新・群馬総合計画」というものがあるのですが、そこで定めている19の政策分野に沿った形で事業を掲載しています。プログラム作成にあたっては、県庁内の担当部局でDX事例を挙げてもらい、また、民間事例も一部掲載することで幅広く参考にしてもらえる作りになっています。
出典:群馬県
―加速化プログラム策定の背景はどのようなものになるのでしょうか
「新・群馬県総合計画」の中では、「年齢や性別、国籍、障害の有無等にかかわらず、すべての県民が、誰一人取り残されることなく、自ら思い描く人生を生き、幸福を実感できる自立分散型の社会」を目指すというビジョンを掲げています。それを実現するにあたっての道筋を考えたときに、デジタル化の遅れが課題の1つとして浮かび上がってきました。これが発端となり、2021年度から2023年度までの3カ年でデジタル化に集中的に取り組み、日本最先端クラスのデジタル県になるという目標を掲げて、プログラムを策定することになりました。また、群馬県として最先端クラスのデジタル県を目指すとなると、県だけが頑張っても県全体のDXが進むわけではないので、民間ベースや市町村にもDXを推進する上での見本にしてもらいたいと考えています。
―本プログラムの成果についてはどのように振り返るのでしょうか
プログラム自体が2023年度末までの計画になっているので、最終的な成果の検証はこれから検討していく部分になります。ただ、112の事業の状況はPDCAサイクルを回しながら3ヶ月に1回進捗管理をしており、現時点では約9割の事業が予定通り、もしくは前倒しで進んでいます。遅れている事業についても今年度末にはほとんどが完了する見通しとなっているので、当初設定した目標の大半は達成されると見込んでいます。
群馬県におけるDX人材とその確保
―計画を推進していくにあたっては、県としてどのような体制を組んでいるのでしょうか
DX推進本部という形で会議体を設置しています。県知事を本部長、副知事とデジタルトランスフォーメーション推進監(DX推進監)を副本部長、各部局長級の職員を構成員として設置しています。
また、DX推進本部の下部組織として幹事会も設置しており、ここではDX推進監が座長になり、各部局の主管課長を構成員としています。
全体像としては推進本部があり、幹事会があり、その下に設置されている各部局のDX推進係というものがあり、さらに私が所属するDX戦略課が一体となりながら取り組んでいます。事業自体はトップダウンで行うものもありますが、DX課題などは一番下の事業課が把握していることも多いです。そのため、事業課を起点としてボトムアップでDXが推進することもできるよう、双方向で進められる体制を整えています。
出典:群馬県
―群馬県ではDX人材の確保に向けてどのような取り組みをしているのでしょうか
基本的な考え方は今いる職員を人材育成の中でDX人材に育てていこうというものです。ただ、ここで言うDX人材とはプログラミングをはじめとした特殊なITスキルを持った人という意味ではありません。WordやExcel、PowerPointと同じようにMicrosoft 365の他の機能やチャットツールなど、各種デジタルツールを職員全員が当たり前に使えるようにしていくことが第一だと考えています。人材育成=研修とイメージしてしまいますが、事業者が提供する研修をただ受けるだけでは実務で応用できず一過性で終わってしまうことが多いです。あくまで毎日の業務でツールを使っていくことを念頭にスキルを身につけていくという形で取り組んでいます。
―外部のDX人材も採用しているのでしょうか
DX推進監として配置している職員は民間出身者で、常勤として群馬県庁全体のDXの指揮にあたっています。一般職員についても、令和2年度から民間企業等で5年以上ICTの経験のある方を既に採用しており、これまで4名が入庁しています。今年度からは、より多くの方に応募してもらうため随時採用といった形もとっています。4月からでなくても働き始められるよう入庁時期も柔軟化させ人材の確保に努めています。
県に求められる役割
―省庁、都道府県、市区町村で求められるDXの取組は異なると思いますが、DX推進にあたって県が持つ役割についてはどのようにお考えでしょうか
県としての役割は大きく3つあると考えています。1つ目は県がまず率先して集中的にDXに取り組むことで見本となるということです。その取り組みを県内の市町村や民間の事業者の方に参考にしていただくことで、群馬県全体のDXの推進が可能になります。地域社会と繋がりのある部署がそれぞれあるので、そういった部署を通じて、DXの推進の底上げを図り、最終的には県民の方の利便性向上、さらにその先にある幸福度向上に繋げていくことを目指しています。
2つ目は、県内市町村のDX支援です。住民の方と最も接点が多いのは市町村になり、そこで行政手続きのオンライン化などが進むことで住民の方の利便性向上に繋がります。しかし、市町村のみではDXの推進が難しい面もあります。そこで県としての支援策の1つが事例の共有です。県の事例だけでなく、ある市町村での好事例を他の市町村に横展開する形での事例共有もできると考えています。
また、市町村長を対象にした県庁の視察ツアーも今年度開催しています。DXを市町村で進めるにはある程度トップダウンで進めなくてはいけないこともあります。そこで県庁での取組を参考にしていただき、DX推進のきっかけ作りにしてもらうための企画になります。
―各市町村の状況はそれぞれ違う中で、どのように意見を拾い上げているのでしょうか
その点については自治体とやり取りができるよう、LoGoチャットというものを活用して随時市町村から相談が受けられる環境を整備しています。市町村全体に対してのサポートはもちろんですが、個別ニーズに応じた伴走支援体制も整えた上で、市町村のDXを進めています。
―市町村の新しい事例を他の市町村に共有するといった話がありましたが、最近ではどのような取り組みが話題になったのでしょうか
例えば、前橋市ではMaaSといわれる交通系の施策を推進しています。その取り組みを他の市町村にも同じように広げていくことを目的として、令和5年3月から「GunMaaS(グンマース)」という形で取り組んでいます。こういった事例を県がバックアップしながら横展開していくことが理想です。
―県の3つ目の役割についてよろしいでしょうか
場合によっては県が一括して全市町村に対応した取り組みを行うということです。市町村単体で独立して取り組むより県全体として取り組む方が効果が高い事業もあります。その事例の1つが、日本DX大賞「行政機関・公的機関部門」で優秀賞をいただいた「ぐんま大雨時デジタル避難訓練」というものです。これは群馬県の公式LINEアカウントを活用した、非対面で行う避難訓練ツールになります。通常、避難訓練はハザードマップの作成から訓練実施まで市町村が主体で行っています。ただ、県民の方は住んでいる市と職場がある市が異なっていたり、親族が複数の市にまたがっていたりと、生活圏を複数持つ方が一定数います。ある市ではデジタル避難訓練ができたが、別の市ではできないといった状況を避けるため、こういったツールに関しては県が取りまとめて事業を行っていくことが、求められる役割の1つだと考えています。