【山口県】データ利活用の意識向上を促しリスキリングで庁内のEBPMを活性化する
令和4年度 山口県デジタル推進局デジタル・ガバメント推進課の皆さん
山口県では、サービスデザイン思考に基づき、効果的な行政サービスを企画・立案するために、ヤフー・データソリューションが提供するDS.INSIGHTをはじめとした各種データ分析ツールを導入している。今回は庁内全体でデータ利活用を促進するために、どのような課題が存在し、課題解決のために、どのようなアプローチが行われているかを、デジタル・ガバメント推進課の試みを中心に紹介する。
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令和3年度に創設されたデジタル推進局
山口県では令和3年度にデジタル推進局を発足させた。山口県では、令和2年度に閣議決定された国の「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」および「デジタル・ガバメント実行計画(2020年改定版)」、総務省において策定された「自治体DX推進計画」などを踏まえ、県として進める社会全体のデジタル化に向けた取組を「やまぐちデジタル改革」と位置付けている。そして山口県知事を本部長とした改革を総合的に推進する全庁的な「山口県デジタル推進本部」を設置した。
デジタル推進局は、推進本部の事務局を担い改革全般のマネジメントなどを行う専門部署として位置付けられている。今回はデジタル推進局内において、庁内全体の行政DXを推進するデジタル・ガバメント推進課の動向を中心に紹介する。デジタル・ガバメント推進課のミッションは、行政手続きのオンライン化や、庁内の業務効率化に向けたRPA・AI-OCRの導入推進、庁内情報システムの標準化・共通化、デジタル人材育成のための研修の企画・実施など、デジタル・ガバメントの構築に向けた取り組みを企画・推進していくことだ。
なぜ「データ利活用」に注力するのか
デジタル・ガバメント推進課では「県民が満足するサービス」を常に考え、利用者目線に立った「サービスデザイン思考」に基づいて、新たなサービス提供に努めている。当課ではデータ利活用を効果的な企画・立案をするために必要不可欠であると認識し、全庁的な取り組みの強化を進めている。
具体的な取り組みとしては、サービス提供までの一連のプロセスに必要な各種データの利活用方法を学ぶ「山口データアカデミー」研修や、データ可視化ツール「Tableau(タブロー)」のハンズオン研修、県職員向け階層別研修として「データ利活用」研修などを実施しており、ヤフー・データソリューションが提供するデータの抽出・分析を簡単に実施できるセルフリサーチツール「DS.INSIGHT」も導入している。
数多く存在するデータ分析ツールのなかからDS.INSIGHTを選択したのは、令和3年度に県庁からヤフーに出向した職員からの情報提供がキッカケだった。もともと県がデータドリブンを推進するうえで、行政の収集するデータだけでは把握しきれない領域が課題の一つとして存在していた。一例をあげると、人々のニーズやトレンドの把握といった部分がこれに該当する。政策立案の質の向上を図るため、民間企業の持つ検索データや位置情報データの活用が必要であると考えていた矢先にDS.INSIGHTに出会い、求めていたものにフィットするという印象を強くもった。
データ分析の具体的利用イメージを想像するのは難しい
導入当初はDS.INSIGHTを使ったデータ分析の研修会を開催するなど、ツールの活用を積極的に呼びかけた。しかし、研修会を通じて、データ分析の具体的な利用イメージを想像することに苦慮している職員が少なくない印象があった。全国的にもデータドリブンやEBPM(データに基づく政策立案)の機運が高まりを見せてはいるが、データサイエンティストではない公務員がデータ利活用を積極的に行うのはハードルが高いというのが現場の率直な印象だった。
このハードルを乗り越えるために、まず当課発信でデータ分析を実践し、具体的な事例の提示を通して意識を変えていく取り組みを開始した。現在実施している「DS.INSIGHT月報」の配信などがこれに該当する。
DS.INSIGHT月報(山口県デジタル推進局デジタル・ガバメント推進課作成)
「DS.INSIGHT月報」でデータ分析の具体例を提示する
DS.INSIGHT月報では、山口県が利用できるDS.INSIGHTのPeople機能、Place機能、そしてオプションとして追加契約しているPersona(ペルソナ)機能について、毎月何かしらのテーマを決めて、それに基づいて簡単な分析の具体的なサンプルを作成し、県庁内のイントラで発信している。研修会などでDS.INSIGHTの使い方やデータ分析がいかに重要かを伝え、さらにデータが手元にあったとしても、それをどのように分析・解釈すればよいのか、どう担当業務に活用できるかをイメージさせることが、実は非常に難しい。
今年(2023年)2月に配信した月報から分析のサンプルを紹介する。ポイントとしては、1人でも多くの職員にデータ分析に興味を持ってもらい、その施策展開のイメージを持ってもらうことを目的とするため、あえて深い分析までは行わない。空いた時間にでも難しく考えずにサクッと読めるように意識し、構成している。
DS.INSIGHT月報2023年2月号のPeopleスライド(山口県デジタル推進局デジタル・ガバメント推進課作成)
上図はDS.INSIGHT Peopleの「検索キーワードランキング」機能を使った分析サンプル。「山口県」という3文字を含んだ言葉が、前月1月の一カ月間に全国的にどれくらい検索されているかを検索者数順にランキングで表示している。ここで注目したのが、第7位に推移している「山口県 温泉」というキーワード。前月比が191%と、約2倍の検索者数の上昇が確認できる。温泉のニーズは年始のタイミングで高まるものなのだろうか、例年以上に寒いから温泉のニーズが高まっているのか、いろいろとイメージが膨らむ。ここで、データ分析から仮説を組み立てるというアクションをイメージさせる。
データ利活用の基本的な考え方とスキームをアピールする
DS.INSIGHT月報2023年2月号のPeopleスライド(山口県デジタル推進局デジタル・ガバメント推進課作成)
続いて紹介するのはDS.INSIGHT Peopleの「検索推移」機能を使用したサンプル。これは「山口県 温泉」という言葉が、過去4年間においてどのような検索者数推移かを表示している。ここで分かることは、コロナ禍以前の2020年と今年(2023年)の1月は検索者数が前月比で増加しており、コロナ禍の2021年・2022年は前月比で減少していること。加えてイレギュラーなタイミングだと2021年10月に検索者数が大きく伸長している。
ここで一つ見えることは、コロナ禍の状況や社会の対応状況によって、温泉への関心が変動していること。Go To トラベルキャンペーンの一環である地域共通クーポンが開始された2021年10月のタイミングでも関心が高まっている。もちろん、厳密に考えれば、検索者数の増減の理由として、ここに表示しているものだけを根拠とするのは、いささか乱暴だと考えられる。増減理由を判断するためにはさらに深掘った分析を行う必要がある。
しかし仮説はいくつあっても問題はない。検索者数が伸長したタイミングが国の観光需要喚起策のタイミングと一致していることから相関関係が伺えるなど、事実は事実として捉え、仮説立てを行い、適切な判断を導き出していく。これがデータドリブン、EBPMを実現するためのスキームだ。月報では具体的なサンプルを提示することで、データ利活用の基本的な考え方とスキームをアピールするように心がけている。
DS.INSIGHT月報2023年2月号のPlaceスライド(山口県デジタル推進局デジタル・ガバメント推進課作成)
上図はDS.INSIGHT Placeの「人口推移」を示している。前述のPeopleで「山口県 温泉」の検索ボリューム前年比を見たところ、昨年(2022年)1月は減少、今年1月は上昇しているということが把握できるため、実際に山口県の代表的な温泉地「湯本温泉(山口県長門市)」にフォーカスし、人流の増減を分析してみる。
ここで見えたのは、湯本温泉への人口流入は基本的に前年よりも多く推移しているということ。月間トータルで見ると前年比約6,000人の増というデータとなっている。つまり、Peopleでの検索データに鑑みると、検索数の伸長と来訪者数の増加には相関関係があるということが分かる。検索行動を促すことが、人々を来訪へと導くと言えるのかもしれない。このように、さまざまなデータを比較・分析し深掘りをしていく、データ利活用の手法もアピールしている。
ターゲット設定に不可欠なデータ利活用
DS.INSIGHT月報2023年2月号のPersonaスライド(山口県デジタル推進局デジタル・ガバメント推進課作成)
最後にDS.INSIGHTのオプション機能であるPersona(ペルソナ)を使って「長門市」を検索する人々の人物像(ペルソナ)のサンプル。行政におけるあらゆる施策では、対象となるターゲットをあらかじめ設定する場合がほとんどだ。どのような方を対象として補助を行うのか、支援していくのか、サービスを展開していくのか、訴求する相手方を事前に設定しておくことが、効果的な事業を行う上で重要な要素となる。
しかし、このターゲット選定は簡単なことではない。行政サービスをより効果的にスピード感をもって実施していくうえで、アンケートや必要なデータ収集に時間をかけることが困難な場合もあり、ターゲット選定に苦慮することが現場では非常に多い。山口県ではDS.INSIGHTの Persona機能を、施策立案を補助する役割として人物像の可視化からターゲットを絞り込む目的で活用を促している。
月報で示したPersonaのサンプルでは、今年1月におけるデータから「長門市」と検索する人々の人物像の可視化を行った。これを見ると、50代の働く女性が多く検索していることが分かる。性年代別割合で見ると、男女差は小さいものの、40・50代の検索が多い傾向にある。また、人物像の参考として、その人物のイメージ画像が挿入されていることも、利用するうえで理解度を高めてくれる仕様だと考えている。
しかし、行政が抱える社会課題は非常に複雑なものが多いため、このPersonaだけでは一概に判断できない場面が多いのも事実だ。まずターゲット選定を適切かつ柔軟に行うスタート地点に立つ一助として、Personaによる人物像の可視化を活用することを全庁に促していきたいと考えている
庁内で起きている変化とラーニング・コミュニティー
現在は、DS.INSIGHTのIDを付与してほしいという声が毎月のように出ている。庁内で付与できるID数は100までのため、今後すべての希望の声に応えることはできないが、着実に庁内での関心が高まり始めている。
今後とも、この月報の内容をさらにレベルアップすることとあわせて、現在は新たな試みも始めている。それはDS.INSIGHTの利用者同士で相互に交流し、学びを深めるラーニング・コミュニティーの発足だ。データ利活用の活用事例や、各種セミナー情報などDS.INSIGHTに関する情報提供のほか、利用者間での意見交換などによる比較的自由度の高い情報共有を可能にするコミュニティーを目指している。
庁内職員にDS.INSIGHTを最大限に活用してもらい、これまで県が進めていたものに、さらに大きくプラスとなり、充実した行政サービス提供を支援していくことがデジタル・ガバメント推進課の務めだと認識している。また、各所管課のデータ利活用を当課が伴走支援する形で促していき、庁内におけるデータ利活用の事例を一つでも多く作っていきたいとも考えている。
ヤフーなどから発信されている他自治体の事例記事も大変参考になるが、庁内職員が一番心を動かされるのは、やはり同じ職場の身内の実践例だ。身近な職員が、自分にもできそうなデータ利活用を実践し、成果を生み出しているとなれば、それはデータ利活用推進の大きな原動力となる。職員の意識を少しでも変え、データ利活用が一層進んでいくようにしていきたいと考えている。
そして、これは行政DXに必要不可欠なリスキリングだと考えている。本来、データサイエンティストではない公務員がデータ利活用の基本的な考え方とスキームを身につけていく。困難はともなうが、その先にこそ、EBPM(データに基づく政策立案)の実現があると考えている。
山口県庁