笠岡市、SNS運用にヤフーのビッグデータを活用。きめ細かくニーズを捉えフォロワー数は前月比1.5倍!
※写真は岡山県笠岡市政策部定住促進センター 片山 詩央里様
基礎自治体の広報行政の一環としてSNSを積極的に活用する市町村が増えている。SNSは予算がそれほどかからず、運用面においても小回りが利く。そしてユーザーの身近なメディアとしての情報発信が可能で、効果測定も数値として把握をすることが可能だ。今回はシティープロモーションにヤフー・データソリューションが提供するDS.INSIGHTを活用する岡山県笠岡市・政策部定住促進センターの試みを紹介する。
記事提供:ヤフー株式会社
効率的に人々のニーズを理解したいという想いが出発点
笠岡市は、岡山県の南西部に位置し、人口は約4.4万人(2022年/推計人口)。市の南には広大な笠岡湾干拓地と、豊かな自然に恵まれ2019年に文化庁・日本遺産に認定された備讃諸島を構成する笠岡諸島がある。
笠岡市・定住促進センターの業務内容は大きくは2つ。1つ目は、移住検討者に対する業務として、笠岡市内の案内、お試し住宅の案内、空き家バンクのマッチング、移住・定住者に対する補助金の対応を行っている。2つ目は、いわゆるシティープロモーションで、移住を検討してもらうために、まず笠岡市を知ってもらうことを目的としたSNS運用やふるさと納税を通じた特産品のPRを実施している。
SNSの運用において、データ活用をはじめた背景は、いままで肌感を頼りに施策を進めてきたが、社会課題が複雑になるなか、業務は増えるが人は増えないという状況下で、もっと効率的に人々のニーズを理解したいと考えたから。そこでDS.INSIGHTを知り、根拠となるデータをもとに、的確にニーズをキャッチしたり、いままで思いつかなかったことを考えたり、事業や施策の説得力の強化を目的に導入を決定した。DS.INSIGHTはヤフー・データソリューションが提供するヤフーの保有するビッグデータ(検索情報と位置情報など)を分析するデスクリサーチツール。生活者の実態や行動の可視化を狙ったサービスだ。
SNSでの検索にもリンク⁉ データを活用したSNS運用における成果
笠岡市ではカサオカスケッチという名称のインスタグラムを運用しているが、現在はDS.INSIGHTの上昇キーワードや検索推移を参考に、ハッシュタグと投稿タイミングを設定している。
効果があった事例を2つ紹介する。1つ目は、6月中旬にDS.INSIGHTの上昇キーワードに上がってきた「お盆休み」というキーワードの活用。笠岡諸島の紹介動画を新規で投稿したが、前回投稿した別の島動画に比べて再生回数が伸びず、その要因として、ハッシュタグとサムネイル画像が要因ではないかと考えた。そこで、サムネイル画像はすぐに変更するのが難しかったため、ハッシュタグを見直すことを検討。
DS.INSIGHTの上昇キーワードをみたところ、「お盆休み」というキーワードが上がってきており、さらに検索推移を見てみると、毎年6月末から上がり始めて8月中旬にピークになるといった傾向があった。また「お盆休み」を含む検索ランキングを見ると前年同月比でも1.4倍に増えており、昨年と比べても人々の関心が高まっていることを把握できたため、すぐにハッシュタグを変更した。
「#お盆休み」「#お盆休みの過ごし方」をハッシュタグに追加したところ、頭打ちになっていた再生回数が変更後6日間で約2倍に増え、7月末の時点で変更前の3.2倍に上昇。また、保存数も動画では最多の保存数となった。通常、グルメ関連の投稿は保存されることが多いが、景色の投稿でここまで保存が多いのは予想外の結果だった。
上図は、ハッシュタグ変更前後のアカウント全体のインサイトを比較したもの。リール動画(Instagramにて最大60秒の短尺動画を共有できる機能)を投稿して6日間はフォロワーの閲覧が大半を占めていたが、変更後は、ほぼフォロワー外からの閲覧により約2倍近い流入があった。アカウント全体のインサイトではあるが、この時期のリール動画は、この投稿のみだったため、ハッシュタグの変更が、新規閲覧者を大幅に獲得できた要因として考えられる。
花火大会の事前告知投稿でも効果を発揮
2つ目の事例として、3年ぶりに開催された笠岡花火大会の事前告知投稿。ここでも上昇キーワードを活用した。6月3週目あたりから上昇キーワードに「花火大会」があがってきており、検索ランキングを見てみると前年同期比では2.7倍となっており、昨年よりも関心が高くなっていることがわかった。
検索推移では、毎年6月最終週から上がり始め、7月最終週にピークとなっていたため、8/6開催予定の花火大会の告知を6月最終週に実施。通常のイベント告知では「この土日に行けるイベントを探す、主にフォロワーや近隣住民に向けた内容」のため、約2週間前に投稿してアクションにつなげるようにしている。しかし今回はデータによって人々の関心も確認できたため、県内外広くさまざまな方に関心を持っていただくことを狙い、笠岡市公式アカウントを使用し、少し早めの1か月前に告知をした。
SNSの投稿後、「笠岡花火大会2022」の検索数は上昇し、結果として、広告配信をしていない投稿では過去最大の閲覧数を獲得。フォロー数は広告同等の効果があり、保存数については、広告配信を行った投稿も超えて過去最高数を獲得。このような結果の要因の一つとして、DS.INSIGHTで検索推移を把握し、最適なタイミングで投稿できたことで、SNSの発見タブからの流入が多かったことが挙げられる。
SNS上で検索される世の中のニーズが設定に反映できたこと、さらに投稿へのリアクションも良く、SNS上での検索上位に掲載されていたことがさらなる反響につながったと考えている。つまり、フォロワーも含めてリアクションをしてもらえるような情報発信こそが、新規へのリーチにもつながる。
もちろんクリエーティブやコンテンツなど複合的な要素も考えられるが、検索トレンドに合わせて反響があったため、第一義にはニーズを捉えた情報発信が成功要因として大きかったと考えている。
DS.INSIGHTを活用する前後の1カ月ではアカウントのフォロワー数は1.5倍の効果があった。この時期は広告配信している投稿もなかったため、データ活用の成果と捉えている。
データ活用によって得た“気づき”
今回、データ活用をしての“気づき”としては、web検索のデータとSNSの検索がリンクしていること。当たり前のことかもしれないが、検索している場所が違うだけで、世の中のニーズとしては同じということが実感としてわかった。
DS.INSIGHTの具体的な活用方法としては、上昇キーワードを毎日30分ぐらい閲覧している。上昇キーワードは1週間タームに設定して、全体も個別カテゴリも見るようにしている。よく見るのは、ニュース、レジャー・遊び、観光、妊娠・育児、地域名、グルメ、困りごとなど。時間があれば全部見るようにしている。
上昇キーワードで出てきたキーワードをそのまま使うときもあるし、SNSのトーンに合わせて変換して活用するケースもある。
具体的には
- 「暑さ対策」「熱中症」「暑い日の夕飯献立」→冷たいグルメ、涼しそうな写真
- 「夏バテ」「食欲ない」→土用の丑の日、スタミナグルメ
- 「自由研究」→カブトガニ博物館 など
そして、上昇キーワードで気になったものは、共起キーワード(※1)や検索推移、属性を深ぼりして見るという使い方をしている。検索推移をみて、ピークの大体1カ月前から2週間前には投稿するようにしているので、投稿スケジュールが立てやすいというメリットもある。前年比も投稿判断の参考になるし、属性割合は、笠岡市のシティープロモーションのターゲットに好まれるコンテンツを選ぶ参考にしている。
時系列キーワードで分かった年代特徴
DS.INSIGHTの他によく使う機能としては時系列キーワード(※2)。たとえば、「ひまわり畑」というキーワードを共起キーワードでみると、場所の情報以外にはあまり出てこなくても、時系列キーワードで調べると、年代ごとに特徴がある。
たとえば、20代では「カップル」「デート」「記念日」といったキーワードが多かったため「デートスポット」「カップル」というハッシュタグを設定。30代では、ファミリー系のキーワードが多かったので「子どもとお出かけ」を設定した。ひまわりは人気コンテンツのため目立たせるのはなかなか難しいが、DS.INSIGHTを活用してこういった工夫を試みている。共起キーワードでは出てこないことも、時系列だと発見できるのがメリットだと考えている。
データ活用によって変化するワークスタイルと今後の展望
毎日ルーティン化してデータを見る、使うという癖がついてくると「分からないから調べてみよう」「なんでこれが上がってきているんだろう」というように、物事に疑問を持つワークスタイルに変化していく。これまでの方法にのっとって仕事をするという働き方が、もっとこうしたほうがいいんじゃないかと、日々の業務のなかで考えて行動していかなければという思考に変わってきた。
今後の展開としては、まだ庁内全体としてはデータ活用がそれほど進んでいないため、土木や都市計画、子育てなど、いろんな部署でデータ活用を施策の見直しや検討の際に役立てたいと考えている。活用のイメージを多くの職員に持ってもらえるように、定住促進センターでも移住の事例などを作ることを検討中だ。また、今までは主に検索データ(DS.INSIGHT People)を参考にシティープロモーションに活用してきたが、これからは位置情報データ(DS.INSIGHT Place)で来訪者分析などを行って、移住や観光施策に活用していきたいと考えている。
※1 入力した特定キーワードと一緒に検索されたキーワードを確認する機能
※2 キーワードを検索したユーザーがその前後でどんなキーワードを検索しているのか分かる機能