ガクシーが描く、奨学金DX化がもたらす世界観[インタビュー]
自治体や教育機関などが運営する奨学金運営をDX化することをミッションに掲げ、2019年よりサービスの提供が開始された「ガクシー」と「ガクシーAgent」。
その告知から運営まで、旧来からの状態にある奨学金の流通をDX化により本来あるべき姿にしたいという強い想いから始めた同サービスの概要や、今後の方向性について、株式会社SCHOL 代表取締役社長 松原 良輔氏にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)
日本の奨学金制度にみられる課題
―簡単にご経歴をお聞かせください。
大学を卒業後化学メーカーに6年務めたのち、1社目の起業をしました。グローバル採用支援という、海外の大学にいる外国人や日本人の採用を支援する事業をしていました。
その後大手企業と合併して事業を売却したのち、2019年に当社を設立しました。
―サービスの提供を開始した背景をお聞かせください。
前職が海外の大学や学生と関わる仕事でした。海外の学生は、国や学校から奨学金や寄附を与えられて、学業や研究に集中できる環境が整っているのに対し、日本の学生は、アルバイトで生活費を捻出したり、人によっては多額の借金をして進学費用・授業料を支払っているなど、学生にとって不利であるという現状に対する課題意識が出発点にありました。
その後日本の奨学金や寄附制度を調べたところ、衝撃的な事実に直面しました。
確かに欧米ほど資金面でのバックアップが多くないのは事実ですが、実は日本国内で現状用意されている奨学金すらあまり活用されていなかったのです。
弊社の独自調査では、実際は、公共・民間の3000以上もの団体が様々な奨学金を提供されているのにも関わらず、受け手である学生や保護者はそのことをほとんど知りませんでした。奨学金の利用希望者は、他の選択肢を検討しないままに、約75%が最も有名な日本学生支援機構(旧日本育英会等)を利用しています。さらに60%以上が返済の必要な貸与型の奨学金です。
このように、せっかく各地方自治体、大学、財団などが若者を応援しようと機会を提供してくれているのに、それがユーザーにあまり届いていないことがあまりにもったいないと感じました。
我々の力で何か新しいサービスを生み出すことで、この現状を変えられるのではないかと考えて、サービスを作りました。
―海外の奨学金の仕組みや制度と、日本の仕組みとでは大きく異なるのでしょうか?
はい、海外と日本とでは大きく異なります。
海外は奨学金や寄附を提供する側と、提供を受けたい側を結びつける仕組みがある程度整っています。例えば米国では人々が奨学金に出資をしたり寄附をしたりすることが税控除の対象になっており、寄附をするのか納税をするのかを選択できるのです。このような社会的な仕組みが数十年にわたり成り立っています。
自治体や教育機関が抱える奨学金運営の課題を解決
―提供されているサービスについて、お聞かせください。
当社が提供しているサービス「ガクシー」は大きく二つに分かれます。
一つが「ガクシー」という、学生向けに日本全国の奨学金情報を集めた情報サイトです。日本全国にある奨学金の情報をランキングやコラムなど、いろいろな形で集めて情報発信をしています。登録アカウント数は10万を超え、月間PV数は平均40万の規模です。(2022年6月末時点) さらに登録アカウント数は毎月1万人程度増加していっています。
もう一つが、自治体、教育機関や財団のように奨学金を運営している団体向けの業務管理システムとして提供している、「ガクシーAgent」というサービスです。奨学金運営者の業務効率を高め、学生からの応募や書類提出、面接などもオンラインで対応することで、応募時の負担を軽減することが出来ます。
この二つが、当社が提供する主なソリューションです。
―地方自治体は奨学金制度を設けていますが、その認知度は高くないのが現状であるようです。背景にある課題についてお聞かせ下さい。
おっしゃる通り、認知率が高くない自治体が多いのが現状です。関係者の方とお話をしていて共通しているのは、これは自治体に限らずなのですが、奨学金の存在を広く知らせる手段がこれまでほとんどなかったということです。
従来の広報先としては、自治体のHPや学校の掲示板程度しかないという状況です。
また、奨学金を運営される方々からよくお聞きするのは、受付や管理がアナログで手間が掛かり過ぎるということが大きな課題になっており、これをシステムで効率化させる需要があります。
-自治体が「ガクシーAgent」を導入するまでの予算感や必要な手続きについてお聞かせください。
初年度は初期導入費用をいただきますが、その後は月額の使用料をいただくという料金体系です。月額料金は利用規模により様々ですが、さほど人数が多くなければ、数万~数十万円程度です。
申し込みをいただいた後は、概ね2か月程度の時間をいただいて、業務フローのヒアリングを踏まえてシステムのチューニング等導入準備をしたのちに、ご利用を開始いただけます。ご利用開始から1か月程度の導入研修があり、実務で本格的にご利用をいただけるまでには3か月程度の期間をみていただくことになります。
1アカウントあたりに弊社よりサポートの担当者を1名つけて、伴走させていただきます。
-大学などの教育機関における、奨学金制度の運営に関する課題についてはいかがでしょうか?
大学のような教育機関においても然りで、学内の掲示板などで、認知の手段が限られているのが現状です。大学の場合には、学生が在籍しているのでいろいろな奨学金を出す団体が、大学にお願いをして告知をしてもらっているという状況にもあります。なぜなら奨学金を提供している財団は、学生に奨学金の存在を知らせる術がないのです。
したがって、大学には様々な奨学金の告知の依頼が殺到しており、これを回していくマンパワーが不足しているというのが現状です。
大学は応募を受け付けて財団に推薦するための選考や、その後の管理をする業務が発生します。貸付型の奨学金の場合、10年から20年の長期にわたる返済を管理する業務が発生します。そしてこれらの業務はいまだかなりアナログな手法で行われています。
このように、奨学金の管理はとても業務が煩雑でその量も膨大です。
奨学金DX化によるもたらされる効果とは!?
―自治体や教育機関などが「ガクシーAgent」を導入することで、どの程度の業務効率が実現できるようになりますか?また、その他にも改善されることがありますか?
「ガクシーAgent」を導入していただくことで、奨学金を運用する担当者の方の業務量は現在の約1/5程度に削減される想定です。。
奨学金を提供する側もそうですが、応募する学生側も本当に助かります。紙を郵送して応募するとなると、応募用紙を印刷して用意して、封筒を用意して、封入して郵便ポストに投函して送る、という手間がかかります。
「ガクシー」では、PCで入力して添付ファイルを付けて送信ボタンを押せば応募完了です。
自治体の方とお話をしていると、業務効率が図れることもそうですが、応募側の負荷が大きく減ることに対して、メリットを大きく感じていただけます。
-サービスの今後の方向性についてお聞かせください
管理システムについては、奨学金を提供されている団体様の声を聴きながら、出来るだけきめの細かい機能開発を進めてまいります。
学生向けの「ガクシー」については、サイトを訪問してくださった学生や保護者の方々に寄り添った形を提供できるようにしていきたいと考えております。
現在も、いろいろな奨学金が並んでいて、検索機能で条件に応じた絞り込みをすることもできますが、最終的には、学生が自分の情報をある程度入力すれば、自分が申し込み可能なものが一発でリコメンドされて、ボタン一つですべての申し込みが出来るというようなものを開発したいと考えています。
そのためには「ガクシーAgent」を使っていただく団体を増やしていく必要があると考えております。
奨学金制度は、知るべき人に知られ、使われるべき人に使われる存在に
-奨学金制度は今後どのようにあるべきでしょうか?
いま提供されている奨学金制度に関する情報が広く届いておらず、一部の人に偏ってしまっているのが現状です。奨学金を求めている学生の方たちに広く等しく届けられる状態になるべきです。
奨学金は、様々な社会問題を解決する武器になりうると考えています。しかしこれを運営する現場では、効率的な運営が出来ない状況にあります。それに対して、「奨学金は簡単に運用することが出来ますよ」というようなソリューションをしっかりと世に出していけば、世の中の奨学金の総量ももっと増えていくことで、経済的な課題を持つ若者やその家族を社会全体で支えていくというような世界観になっていくべきであると考えております。