登山地図アプリ「ヤマレコ」の利用者を、いち早く“探す”ことができるシステム「SAGASU」助かる命を本当に助けるために[インタビュー]

登山地図アプリ「ヤマレコ」の利用者を、いち早く“探す”ことができるシステム「SAGASU」助かる命を本当に助けるために[インタビュー]

2005年、山専用のコミュニティサイトとしてはじまった「ヤマレコ」。登山の際のルートや写真を共有する山行記録の蓄積は2023年1月時点で420万件にも及び、多くの登山者の登山計画をサポートし、さまざまな疑問に応える情報のプラットフォームになっている。
2015年にリリースした登山地図アプリは、翌年、登山者がアプリの情報を家族や友人にシェアできる機能「いまココ」も追加し、2023年秋時点でのダウンロード数は100万を超えた。
そのヤマレコが2022年11月からスタートさせた「SAGASU」は、各県の警察や消防など、遭難者捜索に関わる行政機関との協定によって、救助の可能性を広げている。ヤマレコの今泉友恵さんに、概要と今後の展開について伺った。


(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)

―遭難者を迅速に、確実に見つけたい

山岳遭難の問い合わせは年々増加しているという。「昼間に遭難しても、家族が認識するのは夜。警察の届出も夜や夜間になることが多いのです」。そうなると電話対応が難しい場合がある。その点を考慮して問い合わせフォームを作ったが、結局緊急アラートに対応するのは今泉さん。業務時間外の時も、年末年始などの休暇時にも連絡が入ることがある。「もちろん、緊急なのですぐに対応しますが、寝ていて気づかずに朝になる場合もあるし、自分の電波が通じない時はどうしようという不安もありました」。これまで、それによって発見が遅れるという大事に至ったことはないが、いつ発生するか分からない。遭難者の早期発見は重要なミッションなので、迅速にすべきだという思いがSAGASUにつながった。

ヤマレコの拠点は長野県松本市。長野県警や長野県の山岳高原観光課とはもともとつながりがあった。「弊社が遭難防止や救助のための寄付をしていることもあり、以前から遭難に関する悩みを聞いたり、良いシステムがあったらという話をしたりする機会がありました。お互いに遭難をなくしたいという気持ちは一致していますから」

長野県警からの依頼を受け、新たに立ち上げたサービスが「SAGASU」だ。それまでも検索はできたのだが、エンジニアがサーバーにアクセスして探す必要があった。「私もエンジニアではないので、問い合わせを受けてエンジニアに頼むという流れ。どうしても時間がかかっていました。SAGASUでは、誰でも直接、電話番号やメールアドレスで簡単にアクセスでき、必要な部分だけを取り出せるようなシステムを作りました」

SAGASUの検索画面

遭難者がヤマレコを使っていれば、位置情報がつかめる場合がある。ただし、利用者がどこにいるか分かる機能が、捜索以外に利用されてしまうのは困る。そのために協定を結び、遭難者を見つけるためだけの検索の実施を徹底している。「協定を結ぶと、直接サーバーにアクセスして探してもらえるようになります。見つかればすぐに助けに行けるし、見つからなければ他を当たるなど、すぐに別の方法を取ることもできるでしょう」。警察はおそらく他にもあちこちに問い合わせをしているはず。それも大変だと今泉さんは話す。

―口頭で伝えるのは難しい位置情報を把握できる

登山者の最新の位置情報と軌跡が追える(青は予定ルート)

SAGASUで実際に救助された例が、埼玉県にある。遭難者は埼玉県警に直接電話をしたのだが、どうやら緯度経度を間違って伝えていた。また、携帯電話のバッテリーも3%しか残っていなかった。ただ、ヤマレコを使っているとの言葉があったために県警から問い合わせが入り、SAGASUで探したところ位置情報が出てきたという。「数字の羅列なので、緯度経度を伝えるのは結構難しいんです。小数点を間違えたりすると全然違う場所を示すことになります。とにかく、SAGASUが示した位置におられたということで、無事救助されたそうです」

さらに、今泉さんは次のように続ける。「実は埼玉県は、道迷いが多い地域でもあります。公共交通機関で行けて、気軽に登れる低山が多いためだと思います。長野県であれば、登山口まで車が必要な山がほとんどなので、大抵車は見つかるんです。どこに行ったか分からない場合には、まず車から探します。埼玉県の場合にはそれができないから、どこを探していいのか見当がつかないということがあるようです」

埼玉県警には、SAGASUの位置情報の通りの場所にまさに遭難者がいたという実績を高く評価され、すぐ協定を結ぶに至った。現段階では、長野県警察、静岡県警察、神奈川県警察、埼玉県警察、新潟県南魚沼市消防本部と協定を締結している。

ヤマレコのアプリは、電波が届かない場所であっても携帯電話のGPSをたどって位置情報を推移するため、事前にダウンロードしておけば地図上に位置が表示され、現在地を把握することができる仕組みだ。これは他の地図アプリも同様である。「定期的に位置情報をサーバーに送るようになっていて、5分おきなどの設定ができます。もし登山者が家族にその情報を共有しておけば、弊社に聞かずとも登山中の位置を確認できるのですが、そうされていない方は多いです」

また、最初はアプリの登山開始ボタンを押さないと位置が送信されなかったのだが、登山地図範囲内におり、アプリ上の地図を開いていれば送信されるように変更したという。「登山開始ボタンを押すと必然的にログを取ることになります。つまり継続的にGPSを追うため、電池を消費してしまうんです。電池を消費したくないために、地図だけを見るという方が多いようです。弊社としては、電池を節約することよりも、モバイルバッテリーを常備し、ボタンを押して常に位置情報を送ることを推奨しています。ただし、使い方は自由なので、地図を見ている時だけはどこにいたか分かるように変えたのです」

―情報の共有によってスピーディな対応を可能に

登山地図アプリのサイトトップ

SAGASUに寄せられる一番の反響は、単に近くにいたというのではなく、ピンポイントの場所が判明するということ。まさしく“探す”機能に求められている点だ。滑落の際にも、滑落ポイントと滑落後に遭難者がいた場所の両方が分かる。「滑落する時って、すごく転がってしまうんですね。400メートルくらい落ちることもあります。そうなると、どこに行ったか見つけるのが難しい。それでも、すべての軌跡を追うことができます」

今後は専用のホームページを作成し、認知度を上げていくことを目指す。「利用者の位置が分かってしまうので、情報の取り扱いは慎重にしなくてはなりません。そのために協定を結んでいただく必要があります。加えて、登山者自身にも、情報共有の意識を持ってもらえたらと思っています。家族が場所を把握しておいて伝えてくれれば、警察の方もすぐに動けますから。すばやく探索につながる流れができるのが理想です。そのための啓発の意味もあります」。ヤマレコとしては、利益につながるものではない。また実際に捜索活動をする部隊でもないので、スピーディな対応につながるスキームづくりをサポートしたいと今泉さんは言う。「最近になってようやく、地図アプリの有用性が理解されるようになってきました。以前は、登山なら紙の地図を持っていけというような風潮がありました」

2022年には28件だった問い合わせが、2023年には168件に増え、今年は1月の段階で21件にのぼっている。「助かる命が本当に助かることになるので、ぜひ協定を検討して欲しいです」

【YamaReco】
https://www.yamareco.com/