患者が医療ヘルスケアを使いこなせる未来へ
― メドレー、ドコモ、NTT Com、福井県へシステム提供 -後編- [インタビュー]

患者が医療ヘルスケアを使いこなせる未来へ<br>― メドレー、ドコモ、NTT Com、福井県へシステム提供 -後編- [インタビュー]

前編では福井県にて新たに設置された「陽性者・接触者サポートセンター」におけるビデオ通話システムの利活用について福井県健康福祉部健康予防課に話を聞いた。当ビデオ通話システムは「ビデオトーク」というシステムが用いられている。医療プラットフォーム事業を展開する株式会社メドレー(以下、メドレー)と株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)3社の協力によって無償提供された。そこにはどのような背景があったのか。各社の担当者に話を聞いた。

インタビュー対象者
・株式会社メドレー 事業連携推進室 佐藤 忠也 氏(右上)
・株式会社NTTドコモ ビジネスクリエーション部 ヘルスケアビジネス推進室 前田 留実 氏(右下)
・NTTコミュニケーションズ株式会社 プラットフォームサービス本部 事業推進部 井出 澄夫 氏(左)

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

簡単操作が自治体のニーズに合致した 「ビデオトーク」

――ビデオ通話システム「ビデオトーク」はどのような方々へ無償提供されているのでしょうか?

佐藤氏(メドレー):新型コロナウイルス感染症の療養者へのオンライン診療やオンライン健康観察のためのツールとして、全国の医療機関、医師会、自治体の皆様へ無償提供を行っております。コロナ対応では療養者と医療のつながりが途切れることによる重症化や往診時の医療従事者の感染リスクが課題となっています。本取り組みを通じて、それらの課題の解消につながると考えました。

きっかけとなったのは昨年のデルタ株の急速な拡大です。新規感染者や療養者数が急増し、8月には政府から「重症患者」「特に重症化のリスクの高い方」には入院医療を、重症患者以外は自宅療養を基本とする方針が示されました。それを受けて、自宅や宿泊施設で療養する患者の容態変化時に医療機関がオンライン診療を行ったり、自治体(保健所など)が新型コロナ療養者への定期的な健康観察をオンラインで行ったりする必要性が高まってきました。

これらの社会的要請に対して多様なサービスを展開するドコモグループとオンライン診療において豊富な実績を持つメドレーが連携することで早期に応えることができるのではないかと考え、NTTドコモ・NTTCom・メドレーの3社で緊急会議を持ちました。そして、コロナで苦しむ人を一人でも減らしたいという気持ちが重なり、取り組みが始まりました。

本プロジェクトにおいてNTT Comはメドレーへ「ビデオトーク(※)」の環境を提供、メドレーは自治体や医療機関への同システムの提供・サポートなど実務面の窓口、ドコモはタブレット等の通信機器の貸出・自治体のフォローアップの役割を担っています。


※「ビデオトーク」はNTT Comのグループ会社であるNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が提供するビデオ通話サービス

――なぜメドレーがこれまで提供してきた「CLINICSオンライン診療」の提供ではなかったのでしょうか?

佐藤氏(メドレー):確かに当社は2016年2月よりオンライン診療システム「CLINICSオンライン診療」を提供しています。

「CLINICSオンライン診療」は定期通院する患者の負担軽減などを軸に設計されています。そのため、WEB予約・事前問診・ビデオチャットでの診察・クレジットカード決済等の各種機能が備わっています。それにより、患者は医療機関への移動や診察の待ち時間がなくなり、予約や決済の手間が軽減されます。そのため、患者の治療継続率の向上が見込めるため、かかりつけ機能の強化を目的に導入する医療機関が多いです。

一方で、新型コロナ療養者が容態変化した際のオンライン診療で重要なのは、患者側・医師側ともに手間なく速やかにビデオ通話ができる環境です。いわゆる急性期対応においては、医療機関への事前予約のステップを踏まずに患者が医師とつながることが求められます。

また、新型コロナ療養者への医療は公費医療に該当するためクレジット決済機能も必要ありません。このように、容態変化した新型コロナ療養者と定期通院患者に対するオンライン診療は求められる要素は異なるため、今回のプロジェクトは総合的な判断から「ビデオトーク」を活用させていただくこととしました。

――ビデオ通話サービス「ビデオトーク」とはどのような特徴があるのでしょうか?

井出氏(NTTCom):「ビデオトーク」の最大の特徴は操作の簡単さです。通話を始めるためにアプリのインストールやアカウントの初期登録が必要ありません。また、受ける側もURLのクリックだけですぐに会話を始めることが可能です。患者のなかにはシニア世代の方々、スマートフォンに不慣れな方々も多くいらっしゃいます。機器を使い慣れていたとしても、具合が悪ければ難しい操作ができなくなる場合もある。今回のケースではどなたでも扱いやすいという点が非常に重要でした。

また、個人の身体に関わるやりとりがされることから高い情報の機密性が求められます。「ビデオトーク」にはIDS/ IPS(不正侵入検知)やWAF(Web Application Firewall)が導入されており、強固なセキュリティで情報漏洩を防止しています。またビデオ通話時の画像や動画はビデオトーク上に残らない仕組みとなっているため、安心してご利用いただけます。

「ビデオトーク」はNTT Comが開発した「SkyWay」とNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が開発した「空電プッシュ」という2つのサービスの技術が活用されました。

「SkyWay」は、ビデオ通話機能をアプリケーションに実装できるSDK、「空電プッシュ」は特定のメッセージをSMS(ショートメッセージ)で送信するサービスです。これまでNTT Comが積み重ねてきた技術やノウハウを活かし、より多くの方々が安心して相談ができる仕組みを目指しました。

「ビデオトーク」の利用手順。取材時に佐藤氏がURLを送信、編者が受信するという流れで通話のトライアルを行った。実際に会話ができるまで、ものの数秒。あっという間につながった。一般的に簡単に利用できるイメージがあるZoomやSkypeでもアカウント設定が必要。I-PhoneであればFacetimeが使用できるが、これもOSの種類によっては利用できない。「ビデオトーク」はすでに300以上の導入実績があるという。医療分野や行政分野に存在するニッチなニーズを捉えている。

パートナーシップを支える共通の価値観

テクノロジーの進歩により情報伝達のスピードは各段に上がり、消費者ニーズはここ数年でさらに多様化した。そこで重要性を増すのが組織間の連携だ。分野の垣根を超えたきめ細かいソリューションを提供するためには企業ひとつでは限界がある。自治体と企業あるいは企業同士が相互にリソースを有効に活かすことで、ようやく消費者に価値あるサービスが届けられるのだ。しかし、闇雲に手を取り合えばよいわけではない。長きにわたりパートナーシップを構築するためには、サービス間の相性の良し悪しを超えた、価値観の共有が求められるのである。

――2021年4月、ドコモ、メドレーの間に資本業務提携が締結されました。どのような背景があったのでしょうか?

前田氏(ドコモ):ドコモは10年以上前からヘルスケア分野での研究開発を続けておりました。日本ではDXが進んでいない分野のひとつとされており、我々が持つ通信技術やシステム開発技術が発展に貢献できるのではとの思いがありました。それが形になったのが2018年にサービスを開始した「dヘルスケア」です。同アプリではウォーキングで一定の歩数を達成したり、健康ミッションを達成することでポイントが付与されたり、ユーザの皆様に楽しみながら健康予防に取り組んでいただくことがコンセプトになっています。近年では、健康寿命の延伸や医療費の抑制などの社会課題解決に向けて、ヘルスケア分野のみならず医療分野にも力を入れています。
メドレーとはドコモグループのCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)、NTTドコモ・ベンチャーズから2017年に出資をさせていただいており、4月の資本業務提携以前から関係が構築できていました。オンライン診療は医療DXの中の入り口です。当分野のリーディングカンパニーであるメドレーとの提携は、ドコモの医療分野参入にとって、大きな一歩になると考えました。

――資本業務提携後、具体的にはどのような取り組みに着手しているのでしょうか?

前田氏(ドコモ):4月の発表後、最初に発表させていただいたのが、高知県宿毛市で行われた「SUKUMOオンライン医療実証実験」への参画です。メドレーは「CLINICSオンライン診療」「Pharms」を、ドコモはタブレット端末および通信環境を提供しました。
昨年12月からはオンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」の共同運営を開始しました。オンライン診療普及のためには医療機関側、患者様側の双方にサービスを広げる必要があります。メドレー様は医療機関への強固な顧客基盤を持ち、ドコモは通信キャリアとして国内でも有数の顧客接点を持ちます。相互のアセットを活かすことで、より多くの方皆様へサービスを届けられるでしょう。また、アプリケーション同士も連携も開始しています。オンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」はUIのリニューアルにより「dアカウント」と連携し、オンライン診療・服薬指導がよりスムーズに利用できるようになりました。

――資本業務提携はメドレーにとっては事業拡大の大きな契機となるのではないでしょうか?

佐藤氏(メドレー):資本業務提携において、両社は「患者が医療ヘルスケアを使いこなせる未来の実現」という共通の価値観を確認しました。その実現に向けて、NTTドコモの豊富なエンドユーザーの会員基盤と、メドレーの医療関連サービスの開発運営力、医療ヘルスケア領域の豊富な顧客基盤といったように、強みの異なる両社のアセットを活用していけると考えています。取り組みの一つに「オンライン診療の適切な普及推進」があります。
2022年度の診療報酬改定でオンライン診療の規制が大きく緩和されました。現場の医療機関からは好意的なご意見をいただいているからこそ、エンドユーザーへの認知拡大も含め”適切な普及”を行っていきたいと考えています。

メドレー、ドコモ、NTT Comが描く、地域医療への貢献

テクノロジーの進化が促した変化は人々の内面に留まるだろうか。答えは「No」だ。日本の人口は2004年をピークに減少を続け、残ったヒト、モノ、カネ、生活に必要な「目に見える資源」も軒並み都心部に移りつつある。残された地方はどうか。住民の減少から空き家は増え、高齢化率40%を超える地域も珍しくなくなった。財政のひっ迫から交通や医療、生活基盤たる事業にも見直しが求められ、ますます人は減っていく。「より良く過ごしたい」というヒトの本能が起こす人口動態の変化に、国も抜本的な解決策を見出せていない。そこに3社はどのようにアプローチするのか。

――地域医療に対して3社はどのように貢献していくのでしょうか?

佐藤氏(メドレー):例えば、オンライン診療の普及によって、世代や地域を問わずすべての地域住民が適切に医療にアクセスできる環境づくりにつながると考えています。また地域住民と薬局とのつながりも肝要です。薬局が服薬期間中の患者に対して適切に服薬フォローを行うことができる環境を提供することで、地域患者の長期的な服薬アドヒアランスの維持にもつながると感じています。また、地域住民が医療を受けるためには医療従事者がいないといけません。当社では求人サイトやオンライン動画研修サービスの提供を通じて、医師や看護師や薬剤師など医療従事者不足という課題の解決へ貢献していきたいと考えています。また、これまでも宿毛市のように地域の医師会や薬剤師会、そしてドコモグループなどと連携して複数の自治体事業(地域の医療課題の解決の取り組み)を支援してきましたが、今後も様々なご要望に応えつつ積極的に取り組んでいきたいと考えています。

前田氏(ドコモ):医療分野のDXを推進するためには、地域や年齢に限らず、多くの方がアプリケーションに馴染みを持っていただくことが肝要です。ドコモは総務省「利用者向けデジタル活用支援推進事業」の事業実施団体として採択され、昨年6月から「ドコモスマホ教室」を開催しています。当教室は高齢者を主な対象として、オンラインによる行政手続き・サービスの利用方法などの講座を無料で実施するものです。その一環としてオンライン診療についての講座も開催しています。現在はそこで得たノウハウを活かして、自治体の皆様と協力し、地域の公民館や健康センターなどに出張し講座を開催しています。ドコモはソリューション開発にとどまらず、利用者が快適にサービスを活用いただける生活環境の構築にも力を入れていきたいと考えています。

井出氏(NTTCom):超高齢化社会となり、国や自治体が抱える医療費は急速に膨張しています。罹患後の診察、治療、治療後の罹患再発は、より多くの医療資源が必要になります。そうした観点から、今後予防医療は重要性が増していくとみています。今、国や企業は医療データ活用の重要性を改めて認識し、関連制度の整備に動き始めました。今後は電子カルテやレセプトデータ、ウェアラブル端末から取得するバイタルデータなど、様々な医療データが活用できるようになるでしょう。NTT Comはデータ活用に必要なセキュリティ対策やプライバシー保護に必要な機能群を持つプラットフォームを準備しており、新しい付加価値を創造できるよう努めてまいります。