宿毛市長が語る、地域医療の課題とデジタル医療の活用―宿毛市・大井田病院「SUKUMOオンライン医療実証事業」 [インタビュー前編]
令和3年6月、高知県宿毛市はオンライン診療・服薬指導および地域医療情報ネットワークを活用した「SUKUMOオンライン医療実証事業」を開始した。医師不足や医療アクセシビリティなど、地域医療が抱える課題をオンライン医療で解消するため検証を行う。
オンライン診療・服薬指導とは、スマートフォンやPCなどのビデオ通話機能を活用して、医師の診察や薬剤師からの服薬指導を受ける受診方法のこと。2018年に初めて保険診療として認められ、とりわけアフターコロナでは対人の接触機会を減らす手段として普及が期待されている。宿毛市ではこれに加えて患者の医療、介護情報を電子的に共有・閲覧できる仕組みである地域医療情報ネットワークを活用する。
前編では地域医療の実情、デジタル医療の活用について、宿毛市長である中平富宏氏に話を聞く。
(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)
医療へのデジタル活用-宿毛市モデルの構築へ
―宿毛市における地域医療にはどのような課題があるのでしょうか?
宿毛市が属する幡多地域には、中核病院である県立幡多けんみん病院があり、医師の数や病床数は全国平均以上の体制が整備されています。一方で、本市は南北に長い地形であるのに対し、病院は東西に点在しているため、医療機関へのアクセスしづらい状況にあります。
高齢化率は全国平均や高知県平均よりも高く、定期通院を要する患者さんも多くいらっしゃるため、以前より治療継続や多剤服用・重複投薬の抑止が求められてきました。
―「SUKUMO オンライン診療実証事業」ではどのような検証が行われるのか教えてください。
本実証事業ではオンライン診療、オンライン服薬指導、地域医療情報ネットワークと3つのシステムを組み合わせて活用し、「市民の医療アクセシビリティ向上」「在宅医療における効率的な医療提供体制の構築」「市民の多剤服薬や重複投薬の抑制」の実現に向けて検証を行います。
従来、外来受診は時間的にも体力的にも患者さんの負担となっていました。オンライン医療を活用することで、患者さんは自宅からスマホやタブレット端末から診察、服薬指導、決済まで行うができます。また、診察した情報は地域医療情報ネットワークを通して幡多地域の調剤薬局や介護事業所などに共有されます。
オンライン診療やオンライン服薬指導はすでに多くの医療機関で活用されていますが、これに地域医療情報ネットワークを組み合わせるのが本実証事業の特徴です。我々はこれを「宿毛市モデル」と呼んでいます。
―実証事業を始めたきっかけを教えてください。
検証は市内の大井田病院にて行われます。大井田病院の方々とは日頃から交流があり、地域医療の課題について意見交換をした際に、同病院の大井田理事長、田中院長からオンライン診療が話題に挙がりました。本市としても地域医療の課題に共通認識があったため、市と病院が連携協定を締結し事業を実施する運びとなりました。
事業開始にあたっては、私自身がオンライン診療のデモンストレーションを経験しました。診察から決済まで非常にスムーズに診察を受けることができ、期待できると感じました。
―今後、市としてオンライン医療をどのように後押ししていきますか?
現時点では補助金制度等については検討しておりません。しかし、国で設けている補助金制度について医師会を通じて情報提供するなど、医療機関や市民のニーズに応じた施策を検討したいと考えています。オンライン医療は市民の利便性向上につながるばかりでなく、医療費の抑制にも貢献します。そうした視点も持ちながら独自の施策を検討してまいります。
マイナンバーカード交付率全国4位
―医療ICT普及のために重要なことは何でしょうか?
今回の実証事業が実施できたのは地域の医療機関と行政が日頃から緊密にコミュニケーションが図られ、そして相互の信頼関係が築かれ、地域全体に理解が得られる環境があったからだと考えています。医療に限らずさまざまな機関との関係構築は新しいことに着手するうえで欠かせません。
また、自治体がICT技術の普及を図る際には、マイナンバーカードが市民に行き届いていることも重要です。今後、マイナンバーカードを通して本人確認を行うシステムやアプリが増えていくでしょう。本市では「マイナンバーカード交付率向上事業」として、カードを交付された方に「宿毛市地域振興券」を配布し、地域経済の活性化を兼ねた施策を行っています。これにより現在ではマイナンバーカードの交付率で全国4位となりました。
―今後、宿毛市をどのようなまちにしていきたいとお考えですか?
デジタル化の推進により行政手続きを簡素化し、市民の利便性を向上させていきます。一方で、信頼関係構築のために市民と直接対話の機会を持つことの重要性は変わりません。オンラインとリアルを融合させ市民がより豊かな生活を送れる、そのようなまちづくりを目指したいと思います。社会情勢の変化が激しいなかで、さまざまな課題が出てきます。課題解決のためにデジタルの力をしっかりと活用していきます。