一人一台端末の普及と学校が抱える次の課題、ICTを活用した授業に必要な支援とは [インタビュー]
2019年12月に文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想は、2020年以降のコロナ禍も相まって一気に進展した。
端末と回線環境が整備される一方で、学校教職員の間からは「どうやって使ったらいいのか」「何をしたらいいのか」といった不安の声も多く、ICT支援員と呼ばれる、使い方や活用法を指導できる人材の重要性がますます高まっている。
株式会社ストリートスマートはICT支援員の派遣をはじめ、教育機関向けにICT機器の活用の計画・導入から、研修の実施、書籍などの出版、ICT支援員向けのトレーニングに至るまで総合的なサポート業務を行っている企業である。
また、2021年中には新サービス「Master Study(マスタースタディ)」のリリースを予定するなど学校教育のICT支援により一層力を入れている。
同社のEducation事業部部長の塩野氏に、ICTを活用した同社の学校教育支援の取り組みや、教育現場の現状と求められているICT支援のあり方についてお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 大野 裕貴)
※GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略称
※ICT支援員:学校における教員のICT活用(例えば、授業、校務、教員研修等の場面)をサポートすることにより、ICTを活用した授業等を教師がスムーズに行うための支援を行う者
Google を活用したサポートが強み
―会社紹介をお願いします。
株式会社ストリートスマートは企業や教育機関のDXを実現するために、それぞれに合わせたサービスを提供している会社です。
特徴としては提供しているサービスが Google のサービスに紐づいている点です。主として Google Workspace (旧 G Suite )の導入から浸透、定着までを一貫してサポートしています。
教育機関向けには学校のICT支援員をはじめ、ICTの活用を計画・導入から、研修の実施、書籍などの出版、ICT支援員向けのトレーニングに至るまで総合的なサポート業務を行っています。
―事業の強みや特徴を教えてください。
事業の特徴は Google のサービスに紐付いてサポートを行っているというところが、特徴であり強みと捉えています。
Google OS が搭載されている Chromebook 、アプリケーションでは Google Workspace for Education で、教育現場で必要とされている機能のほぼ全てを網羅することができます。
そして、Google の最大の魅力は学校がこれらのアプリケーションを無料で使用できるという点にあります。教育委員会には財政状況が厳しいところが多々ある中で、無償で使うことができるということは大きなメリットです。
Google Workspace for Education は特に協働学習を得意としており、授業で使用することで、新しい学びを学校に提供できると考えています。
―事業としてのこだわりやポリシーはありますか。
弊社では研修やICT支援員などをはじめ、すべてのサービスの質には特にこだわっています。
学校への支援を行うにあたり、特にこれからより重要度が増してくるICT支援員には3つの能力が求められます。
1つ目はツールの使い方を熟知していること。
2つ目は学校現場へ理解があること。学習指導要領などはもちろん、先生がどのような授業準備を行っているのか、どのような校務に追われているのか正しく理解していることが求められます。
3つ目にきちんと提案やプレゼンテーションを行える、コミュニケーション力です。
弊社では独自のトレーニングプログラムを作成し、すべてのスタッフにはこれら必要なスキルの習得を必須条件としています。かなりの数の練習と訓練を実施し、テストに合格するまで研修に登壇できない仕組みとなっています。中にはテストに合格するまでに数か月を要するスタッフもいます。
こうした徹底した質へのこだわりがポリシーです。
明日の授業の“準備”を支援することに注目した新サービス
―新サービス、Master Study とはどんなサービスですか。
新たにリリースする予定のMaster Study は、「Google for Education を使ったICT教育を進める先生の「あったらいいな」が見つかる総合プラットフォーム」として先生がICT教育を進めるための支援にフォーカスし、授業を作るための準備や授業でそのまま使える教材を提供するサービスとなっています。
―なぜ、授業の“準備”に注目にされたのでしょうか。
弊社では2020年1月から本格的に公立の学校でのICT活用支援の業務に携わっています。
日々先生から多くの悩みや困りごとの相談を受けていく中で、悩みの中心にあるものが『明日の授業をどうしたらいいか』という授業の準備に行きつくということに気付きました。
併せて、会社としても日々の業務を行っていくにつれて、だんだんと良い授業の型、ベストプラクティスと呼べるものが見えてきたという段階です。
そうした中で、先生の悩みであった“授業を作るための準備”ができるMaster Study の提供を決定しました。
Master Study は2021年の6月から無償トライアル版を開設しています。
―Master Study が個別サービスではなく、全国の先生が誰でも利用できるようになっている理由をお聞かせください。
理由としてはこれまで以上により多くの先生の悩みに応えていきたいというところからです。
弊社は2020年以前も教育の現場でICT機器の導入支援を行ってきました。機器やアカウントの初期設定といったアプリケーションを使えるようにする導入支援から、研修の実施、書籍の出版などコンテンツの提供でも支援をしていました。
しかし、これらは基本的に一方的な情報の提供に留まっていました。例えば、先生が質問したい場合でも我々に問い合わせることができず、質問回答できたとしても、それが他の学校や教育委員会に共有することができないといった問題点がありました。
研修やICT支援員による支援は実際に人が現場まで赴くサービスであり、マンパワーが足りず対応しきれないこともありました。
Master Study はそうした実際の人の移動を伴わない形での支援が可能であり、より多くの方へ支援を拡大することができるサービスになると考えています。
GIGAスクール構想で加速、教育現場のICT機器導入後の課題とは?!
―GIGAスクール構想の進展で教育現場にはどのような変化がありましたか。
GIGAスクール構想が始まる前の2019年の段階では、公立の学校では一部の特に熱意のある先生の授業を除き、ほとんどICT機器の活用はされていなかったと思います。
ICT機器を活用した教育を導入できていたのは特色を出したい一部の私立の学校、または大学がほとんどでした。
今回のGIGAスクール構想の進展で公立の学校へのICT機器の導入は一気に進み、公立と私立のICT機器の導入の比率は一気に逆転したと感じています。現在は多くの公立の学校、教育委員会からお問い合わせやご相談をいただいています。
―ICT機器の授業での活用の実態について感じておられることを教えてください。
GIGAスクール構想の進展によって公立の小学校、中学校への児童生徒一人一台タブレット端末の普及は一気に進みました。
しかし、学校の授業ですべての先生が活用しているという状態に到達するにはまだまだいくつかステップがある状況だと感じています。
私が一番懸念していることは、最初に少し使ってみたはいいものの使い方がわからず、“使えないもの”という認識が先生や児童生徒の間で広まってしまうのではないかと危惧しています。
鉄は熱いうちに打てという言葉もありますが、導入初期にICTが授業に活用できる、と思ってもらえるかどうかは非常に重要です。人は最初の印象で判断してしまう傾向がある と思うので、最初に“使えないもの”と認識されてしまうとその後の積極的な活用にはつながっていきません。現状は全ての地域で教育とICT機器の活用を十分にサポートできる体制が整っているかと言われるとまだまだ追いついていない状況です。
そのため、タブレット端末が普及したばかりの2021年度の動きは非常に重要です。
―そのような教育現場での状況を受けて、御社の業務への影響はありますか。
お問い合わせ等はものすごく増えています。
研修の件数などを例にしますと、2019年度から2020年度で件数は10倍くらいに増えました。2021年度は7月の段階で、2020年度の件数を優に超えております。
弊社の状況だけでも学校の関心の高さとお困りの状況を感じることができると思います。
加えて、今後高等学校についてのGIGAスクール構想によるICT機器の整備が進みますので、もう一段、需要の波がくると考えています。
歩調合わせが課題!?学校のICT機器導入と普及
―現在、ICT活用支援の業務の中で特に難しいと感じていることはありますか。
現在、公立の小中学校に対して支援を行っていますが、多数の学校を抱える教育委員会では学校の方針も様々でありICT活用の進捗も全く異なるというところに支援の難しさを感じています。
公立の学校では一部の学校が特色を持ちすぎたり、進みが遅かったりと大きな差ができてしまうことは好ましくありません。
各校によって進捗やICT活用への熱意が様々な中で、全体のバランスを取りながらICTの活用を進めていくということには苦労しました。
まずは良い事例を積み重ねて、それを全体に共有するという形でボトムアップを図りながら着実に前進してきました。
―学校への支援で注意していることなどはありますか。
学校におけるICTの活用については、ICTの機器を使うこと自体が目的とならないように注意しています。
我々が最も重視しているのは子どもたちにとって“いい学び”をつくること、これを心がけています。なので、無理にICTを使った授業をしようとして、逆に教育現場を混乱させるようなことが無いよう注意しています。
ICTを活用した授業が定着するには、時間をかけて着実にやっていくことが必要です。
まだまだ、導入は始まったばかりなので、とりあえず触ってみよう、使ってみようというところからスタートしています。
―実際に支援を進めていく中で気付いたこと、わかったことなど教えてください。
授業にICTを活用したいという先生の熱意は非常に高まっていると感じます。
特に若い先生や機械に慣れている先生は積極的にICTを活用していこうとしている傾向があるように思います。
一方、機械が苦手な先生はICTを使うメリットがわからないという回答もあり、良い事例を知ってもらうなどしてもう少しICTの活用に時間がかかるような印象があります。
また、小学校の先生と中学校の先生でもICTを教育に活用したいという意欲には差があります。小学校の先生の方が中学校の先生より熱意が高い傾向にあると思います。
変わりゆくICT支援員に求められる人材像と、人材不足の背景
―今のICT支援員には何が求められていますか。
今のICT支援員に求められている能力は、GIGAスクール構想が進展する前の能力とは異なっています。
GIGAスクール構想が進展する以前のICT支援員はいわゆるシステムのサポートデスクのようなお仕事でした。プロジェクターの不具合を直したり、新任の先生のアカウントを作成したりといった業務です。基本的に受け身で不具合が起きたときに対応する業務が主体であったと思います。
しかし、これからのICT支援員に求められる能力はそうではなく、ICT活用をリードする存在として、能動的な発信と支援を自ら行うことができ先生に寄り添うことのできる能力が求められると感じています。
学校でICT機器の導入段階では初期設定などを行いますが、設定が終わった次の日から先生がそれらを独学で使ってみてわからないところをICT支援員に聞いてみよう、ということにはなりません。
ICT支援員の方から、『先生、難しいですよね。まずはこのあたりから使ってみませんか?』『こんなこともできるんです。このあたりからやってみましょう』と“情報のシャワー”を浴びせることが求められます。
能動的に“こういうことができる”という未来像を見せなければなりません。
加えて、こうした情報をタイミングを見計らい、適切に先生方へ提案していく、そういった能力と技能が今のICT支援員には求められます。
上記を踏まえ、その学校の学習を本当に良いものにしていきたい、という示唆に富んだ人材が求められていると感じています。
―ICT支援員が不足している背景にはどういった課題があるでしょうか。
大きな要因としては、ICT支援員に対して現場が求めるスキルや能力が大きく変わってきていることが挙げられると思います。学校の先生方はどのように活用するのがいいのかまだまだ手探りの状態ですので、テクノロジーに対する豊富な知識と学校現場の現状を理解したうえで利活用促進のための提案ができるような人材が求められていると思いますが、その全てが揃っている人材は数が少なく、供給が足りていないように見受けられます。
―最後に学校、教育委員会へメッセージをお願いいたします。
弊社は長年、企業向けに Google のツール、機能の利活用を支援する業務を行ってきました。
教育の分野では学校の皆さまから様々教えていただきながらではありますが、Google のプロフェッショナルとして10年以上利活用の支援を行ってきたという自負があります。
Chromebook 、Google Workspace for Education の取り扱いは弊社が日本で一番であり、質にこだわった、先生お一人お一人に寄り添った支援を柔軟にできるという自信があります。
お困りごとなどありましたらいつでもご相談ください。全力でご支援させていただきます。