作成の記録だけじゃない。eポートフォリオ「まなBOX」と秘められた効果とは[インタビュー]
ポートフォリオという言葉は様々な場面で使用されるが、教育業界で活用が進んでいる、作品集としてのポートフォリオは、プログラマーやアーティストの間でも就職活動などで広く使われている。
eポートフォリオシステムは、文字通りポートフォリオを電子化したもので、成果物や作品がデータとして記録されていくシステムとして、近年では大学生の間でも活用が進んでいる。
小学校、中学校、高等学校向けのeポートフォリオシステム「まなBOX」は、生徒が自身の学習成果を容易に確認することが出来るようになることや、教員が学業成績をはじめとする生徒の情報を一括管理することが出来るようになり、関係者間での情報共有や引継ぎといった手間が軽減されるというような効果が期待されている。
まなBOXを開発した、株式会社NSDの鈴木氏と監修者である阿部秀高氏(森ノ宮医療大学教授)にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 デジタル行政 編集部 大野 裕貴)
eポートフォリオシステム「まなBOX」とは
まなBOXの特徴は学習成果物の蓄積とその活用のしやすさにある。特に多種多様な評価を行うことができる点、学習成果物をショーケース化できる点の2つは大きな特徴だ。
評価について、まなBOXでは教員はもちろん、生徒自身の自己評価、生徒同士の相互評価も可能となっている。
学習成果物のショーケース化については蓄積された学習成果物が、教員、生徒、保護者、学校が閲覧を認めた第三者と、設定次第で生徒以外も閲覧が可能となる。
こうした機能により生徒は学習成果物とその評価、フィードバックを常に受けることができ、生徒の課題に対するパフォーマンスを評価する際に有用なものとなっている。
現場での授業でこそ使いたい。まなBOXの更なる魅力
まなBOXの魅力はこれだけではない。
まなBOXの記録やフィードバックといった機能とパフォーマンス評価への活用のしやすさは教室での協働学習でも有効に機能する。協働学習においては、他者との意見交換、制作物作成、その発表といったものが学習のポイントとなる。
まなBOXはこうしたディスカッション、成果の発表、他者からの評価、その記録と振り返りを行うことができ、協働学習と非常に相性が良い。
GIGAスクール構想、このコロナ禍という特殊な状況での協働学習について阿部教授は「コロナ禍の今だからこそ、教室での協働学習が重要なんです。配られたタブレットとデジタルドリルがあれば一人での学習はできるかもしれません。しかし、協働学習は一人ではできないんです。教室での協働学習にこそまなBOXを活用してもらいたいです」と熱く語った。
自己表現とアピール力。まなBOXで養う新たな力
まなBOXの活用によって得られる効果について阿部教授は、自分自身の魅力を表現し売り込んでいくセルフプレゼンテーション能力が養われると解説する。
これは、蓄積された過去の学習成果物を活用することで、生徒たちは自信と根拠をもって自己を表現し、自分の魅力を売り込むことができるようになるということに期待するものだ。
変わる大学受験。求められるセルフプレゼンテーション能力
では、こうしたセルフプレゼンテーション能力がどこで求められるのだろうか。
一つには昨今大きな変化を遂げている、大学入試へ対応が挙げられる。
大学入試はこれまでのテストの点数を重視した評価から、生徒自身がそれまでに学んできたことや本人の作成物を重視するような方針へと変化している。
まなBOXに蓄積された学習成果物、学習の履歴を活用することで、こうした評価方針の変化にも対応できるようになるのである。
また、阿部教授は「学習成果物、学習の履歴を活用しようとすると、子どもたちにはその中から価値のあるものとないものを選別する作業が必要となってきます。そして、選別を日々行っていくことで取捨選択をしなければならないという思考回路が育ち、学びの価値判断を自分で行う能力が養われます。こうした経験を積み重ねることで子どもたちは先生から与えられたことだけを学ぶのではなく、与えられた情報を自ら取捨選択できるようになっていきます」とまなBOXがもたらすプラスの効果を語った。
こうした情報の取捨選択能力は大学受験のみならず、社会の様々な場面で役に立つ能力だ。阿部教授は続けて、「この作業や思考は、例えるなら、まなBOXという宝箱で、より良い宝物を選別していくようなイメージです。後でその宝箱の中身を振り返り、中身を吟味することで『自分はこれだけ学ぶ力をつけてきたんだ』と、自信と根拠もった自己表現が可能となります。自信と根拠はセルフプレゼンテーション能力の向上に繋がります。
このようなeポートフォリオを使いこなすスキルとセルフプレゼンテーションの能力は小学生のうちから訓練が必要だと私は考えています。」と小学校でまなBOXを使うことの意義を熱く語った。
ICTを活用した教育の未来
まなBOXを始め、ICT活用した教育は今注目のテーマだ。教育現場でのICTの活用と発展についてNSDの鈴木氏と阿部教授から教員、教育委員会に向けて以下のようなメッセージを受けた。
鈴木氏:「教育のICTの活用については前から話は出ていたものの、やっと実現したという印象です。
環境は整ってきましたので、これからは学習成果物や蓄積されたデータを生徒のためにどのように活用していくかという議論に移っていくことを期待しています。
難しい、苦手という印象が先行してしまうこともあるかもしれませんが、データをどう活用していくと子どもたちの学習にとって良い効果があるかという観点でまなBOXをはじめとしたICT機器を活用していただけたらと思います。」
阿部教授:「私は長年教育に携わって来ましたが、子どもたちにとって一番必要なものは自分が学んできた実感や達成感を感じる自己肯定感だと捉えています。そして、それを具現化してくれるものが学校で、授業で行われなければなりません。
これはどの成長段階の子どもにも言えることですが、特に小さいころからそうしたことを積み上げてきた子どもは自己肯定感も高く、自信をもって自分の力を発揮し、披露していくことができます。
そして、学校の先生はそれを望んでいます。そのニーズに応え、子どもも先生も共に成長していくコンテンツとしてまなBOXは高い可能性を秘めています。
非常に地道なステップではありますが、これが広まっていくことで、日本の教育が抱えている課題を解決する一助になると思っていますのでぜひ、多くの学校、先生に良さを知っていただきたいです。
日々、NSDの皆さんと先生の実際の指導に特化し、手間をなるべく減らし成果が上がるように日々改良を進めています。
先生たちに『これは便利だな』と思っていただけるようにこの関西から発信できたらと思います。」
(左:株式会社NSD鈴木氏 右:阿部教授)