茨城県五霞町 マイナンバーカードの普及を後押しする独自策[インタビュー]
五霞町(ごかまち)は、茨城県の西南端に位置し、首都圏から約50km圏内にある人口8,373人の町である。平成28年1月1日にマイナンバーカードの発行が開始されたが、同年3月末時点の全国的なマイナンバーカードの普及率が一桁台の中、五霞町は25%に上った。しかしその後の伸び率は鈍化。一方、国によるマイナポイント制度の開始などを契機に、全国的にマイナンバーカードの申請者が急増した。
そこで五霞町では、マイナンバーカードの普及率向上と交付事務業務の効率化を図るため、令和2年5月より「マイナンバーカード交付予約・管理システム」の運用を開始した。
この取り組みについて、まちづくり戦略課 広報戦略グループの矢島 征幸主幹にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 米谷 知子)
システム導入でマイナンバー普及率を大幅にアップ
―「マイナンバーカード交付予約・管理システム」導入の背景について教えてください。
矢島氏 平成27年にマイナンバー制度が施行され、平成28年1月1日にマイナンバーカードの発行が開始されました。当時自治体はその対応で休職や離職をする職員もいたほど非常に大変な思いをしたのですが、我々はその頃を第一波と呼んでいます。
五霞町では、平成23年に自治体クラウドに関する情報収集を行い、平成25年度から順次、茨城県内の4市町で共同運用を開始しました。丁度その頃、マイナンバー制度に関する情報も入手し、いち早く体制構築や準備に着手しました。マイナンバーカードの全国的な普及率が一桁台の中、全職員で協力し、人海戦術で職員が地域に出向いて写真撮影やカードの交付に尽力。その結果、五霞町の平成28年3月末時点のカード普及率は約25%になりました。全国に先駆けて一定程度普及したものの、その後は全職員が継続的に普及向上に当たることは難しくなり、普及率も鈍化しました。
一方国は令和2年9月にマイナポイント制度を開始しました。同年の5月には、新型コロナウイルス感染症対策として、10万円の「特別定額給付金」の支給も開始され、マイナンバーカードを使用すると「特別定額給付金」を早く受け取れる自治体も多かったこともあり、マイナンバーカードの申請が再び増加しました。この頃を第二波と呼んでいます。
さらに令和2年9月にマイナポイントサービスが開始され、カードの普及が加速しました。加えて令和3年3月からマイナンバーカードが健康保険証として利用可能になりました。令和3年10月に正式スタートが伸びたものの、令和2年12月末から令和3年3月末にかけて地方公共団体情報システム機構(J-LIS)から「QRコード付き交付申請書」が配布されたことにより、全国的に申請者が増加しました。令和元年秋から令和3年6月頃までこの第二波の余波の影響は続いていました。
五霞町では、この第二波に向けて専任者を配置し、体制構築に力を入れることにしました。時を同じくして、TKC社から、マイナンバーカードの申請・交付業務を支援するシステムを開発するにあたり、マイナンバーカードの普及率が高い五霞町の意見を取り入れたいという申出がありました。そこで同社と一緒にシステム開発に取り組み、令和2年3月から「マイナンバーカード交付予約・管理システム」の試行運用を行い、同年5月から本格運用を開始しました。
システム運用の鍵は使いやすさ
―「マイナンバーカード交付予約・管理システム」とはどのようなシステムですか。
矢島氏 「マイナンバーカード交付予約・管理システム」は、全国の市区町村が担うマイナンバーカードの交付・管理業務をトータルに支援するクラウドサービスです。
住民の皆さんはスマートフォンやタブレットを使ってインターネットからマイナンバーカードの申請、更新、受け取りの予約が可能となります。加えて、窓口等での申請受付事務、カード管理簿の作成から住民への交付(廃棄)にいたる一連の交付事務業務の負荷を軽減することができます。
―このシステムを活用した住民のマイナンバーカード申請方法について教えてください。
矢島氏 住民の皆さんがマイナンバーカードを申請する際の方法は主に2つあります。
1つはQRコードが記載された申請書をスマートフォンやタブレット等で読み込んで、自分自身で申請してもらう方法です。
もう1つは役所に足を運んで申請する方法です。スマートフォン等を使えない高齢者もいるため、役所では職員が本人に代わり顔写真を撮影し、Web申請のサポートを行います。一度に大勢が来庁し、予約なしで来られると準備が間に合わないため、役所に来て申請する場合は事前に来庁予約をしてもらいます。
マイナンバーカードの発行準備が整うと、手紙で通知します。自分自身で申請手続きを行った人も、役所で申請手続きをしてもらった人も、受領時は同様にWebで予約をしてから来庁してもらいます。事前に予約してもらうことで、いつ誰がどのような目的で来庁するか把握でき、それによりどういう対応が必要か事前に掴むことができるため、結果として手続きの時間を短縮できるというメリットがあります。他の自治体の例ですが、事前予約制度がなければ、来庁してから1~2時間待つことも生じます。そのような状況は住民にとっても、サービス提供者側の役所にとっても不利益になります。双方が時間を有効活用できるのが予約システムの良さだと考えます。
―職員側の交付事務管理機能について教えてください。
矢島氏 地方公共団体情報システム機構(略称:J-LIS)から出来上がってきたカード情報は、専用のスキャナで瞬時に読み込んでシステムに反映します。申請者の個人情報データとマイナンバーカード情報をシステムで管理できるため、相互データの認証時間の短縮や入力ミスの防止につながります。
システムを導入する前は、エクセルでデータ管理を行っていました。入力情報が多いと手間が掛かるため、以前は必要最低限の情報しか管理できませんでした。またエクセルでは、担当者が変われば運用が変わることもありました。システム化することで必要な情報を瞬時に取り込めるため、マイナポイントの申し込みをした日や保険証の申し込みの設定を行った日などの詳細情報もシステムで管理できるようになり、住民からの問い合わせにも的確に対応できるようになりました。
―「マイナンバーカード交付予約・管理システム」の担当部署について教えてください。
矢島氏 システムの担当は、実際にシステムを利用するのは町民税務課 町民グループです。
今年度からまちづくり戦略課 広報戦略グループが、マイナンバーカード関連の補助金や計画など、マイナンバー制度の対応を統括しています。
システム導入・構築は、担当課とまちづくり戦略課で連携して行い、担当課で運用をする形がシステム推進には必要であると考えます。
―システムの導入効果を教えてください。
矢島氏 令和2年5月から「マイナンバーカード交付予約・管理システム」の本格運用を開始しました。令和3年5月1日現在のマイナンバーカード交付率は53.4%。令和2年度だけで11.6%の伸びとなりました。それまでの伸び率は4.2~4.4%であったので急速に伸びました。
システム開発においては、使い勝手の悪い難しいシステムでは職員が使わなくなってしまうため、感覚で使えるような使いやすいシステムを目指しました。その甲斐もあり、非常に使いやすいシステムとなっています。システム導入前は、電話のみで予約を受け付けエクセルに入力していましたが、現在はシステムだけで管理できるので、非常に事務効率が上がっています。住民からも想定よりも短い時間で手続きができたと良い評価を得ています。
現場からの「こうしたい」という声を吸い上げ具現化していく体制づくりが成功の要
―今後のデジタル化の取り組みについて教えてください。
矢島氏 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、デジタル化が急速に進みました。今後DXの動きの中で、さらにデジタル化が加速していくものと思われます。自治体としては、住民サービスの向上という観点からも、デジタル化は不可避です。役所に足を運ばなくても手続きができ、手続き方法も分かりやすく、かつ短い時間で完了できるようにしていきたいと考えています。
今回「マイナンバーカード交付予約・管理システム」を導入しまたが、それ以外の手続きについてはデジタル化できているものはまだまだ少ないのが実情です。比較的待ち時間の少ない手続きから、来庁しなくても完結できる仕組みにしていきたいと考えています。
全てにおいて五霞町独自で投資してシステム構築していくつもりはありません。「デジタル改革関連法案」が成立し、今後オンライン手続きについても国の整備が進んでいきます。例えば、「ワクチンの予約管理システム」などは国が用意しています。また茨城県では県内の全自治体が共同利用できる電子申請システムを構築しています。このような国や県が整備するものも上手く活用していく予定です。
国は、地方自治体の情報システムについて、クラウド活用を原則とした標準化・共通化に向けた自治体の取組を支援し、令和7年度までに基準に適合した情報システムを利用する形態に移行することを目指しています。この標準化・共通化が進めば、オンライン化がさらに加速します。
行政手続きは多岐に渡るため、どこから何をやるべきかという問題はありますが、現場から「この部分はデジタル化できるのではないか」といった声が上がってくるようになれば、庁内のデジタル化も加速するものと考えます。
五霞町には、副町長をトップに課長級の職員で構成された「情報化推進委員会」があります。その下には実働部隊として、若手から係長級まで各課の職員で構成された「情報化推進サポートチーム」があります。「情報化推進サポートチーム」のメンバーが不便を感じているところや「こうしたい」と思うところを一緒に実現していくのがまちづくり戦略課の広報戦略グループの役割です。DX化に着手する上では、このような体制づくりが重要と考えます。システムにより課題が解決され、結果として住民や職員に喜ばれる、そしてまた次に挑戦したくなる。そういった好循環を生む仕組みづくりを目指しています。