行政DXの実現―スーパーシティ構想に向けた会津若松市の挑戦―[インタビュー]
福島県会津若松市はスマートフォンアプリ「LINE」を使ったAIによる自動応答サービスを2018年に導入し、継続的に活用している。2021年度からはスマートシティ推進室を局内で立ち上げると共に、市として国のスーパーシティ構想にも応募し、行政のDX化を更に加速させていく。会津若松市のデジタル化への取り組みについて、同市のスマートシティ推進室の本島靖室長と柏木康豪副主幹にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)
4月にスマートシティ推進室を立ち上げ
―自己紹介をお願いいたします。
本島氏 スマートシティ推進室で室長をやっております。会津若松市ではスマートシティ推進室を2021年4月に設置し、私自身はそれまでは別の部署で情報関係・システム分野を専門として30年ほど業務に携わってきました。今後はスマートシティ推進室として、広くまちづくりの面で事業に携わっていきたいと思っております。
柏木氏 スマートシティ推進室で副主幹をしております。異動前は公共交通を10年ほど担当しておりましたが、そのなかでもMaaS(ICT を活用してマイカー以外すべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとして捉えてつなぐ概念)を担当していたので、スマートシティ推進室内でもICTの経験や知見をうまく生かして、事業に反映させていきたいですね。
―今年4月に、新たに設置された会津若松市のスマートシティ推進室の概要についてお聞かせください。
本島氏 スマートシティの取り組みは、会津若松市が市の最上位計画として位置付けている「会津若松市第7次総合計画 (期間=2017年度から2026年度まで)」のなかでも大きな柱の一つとして進めてきました。2021年度には新たに国のスーパーシティ構想にも応募し、デジタル化への取り組みが本格化していくなか、本年は市として更なる体制強化を行うためにスマートシティ推進室が設置されました。
※「スーパーシティ構想」=医療や交通、教育、行政手続など、生活全般にまたがる複数の分野で、AI(人工知能)などを活用する先端的なサービスを導入することで、便利で暮らしやすいまちを実現していく構想。自治体は内閣府の「スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募」に応募することで、特区として様々な取り組み(構想)を行うことが可能となる。
スマートシティ推進室は私や柏木を含めた5人の専任体制ですが、各部署や現場同士の連絡調整も大きな役割の一つです。今後、会津若松市のスマートシティの取り組み自体を更に発展させられるよう、頑張っていきたいと思います。
24時間365日、LINEで自動回答
―会津若松市ではLINEを使ったAIチャットボットサービスを展開しております。こちらはどのようなサービスとなるのでしょうか。
本島氏 市への問合せは電話で受けることも多いのですが、市役所の窓口は受付時間内でしか対応出来ません。また、電話を掛けること自体にも心理的ハードルがあります。そこで、24時間365日、気軽に問合せが可能な仕組みを用意するために、市民の利用頻度も高いLINEアプリを使ったAIチャットボットサービスを始めました。
本サービスのお友達登録者数は8,478人(2021年6月23日現在)で、月1,000~2,000件程度の問合せに利用されています。画面上ではマッシュ君という見習い職員が、休日や夜間に当番制で開いている病院やゴミの出し方、窓口における証明書の取得方法など、様々な情報に答えてくれます。冬には除雪車が地図上でどこを動いているか、といった情報を提供しているのも、雪が良く降る会津若松市の地域性を表したものとなります。今はコロナウイルスの関連情報も提供していますが、運用を開始した2018年以降も、市民からの需要に合わせて様々な情報を網羅し、提供しております。
行政データ基盤を活用しアウトプット先を工夫
―LINEを通じて提供する情報の更新はどのように行っているのでしょうか。
本島氏 会津若松市では「Data For Citizen」というデータ基盤を用意しており、市の職員は日々の業務のなかで、そのデータ基盤上に各種行政データの登録・管理をしています。このデータは会津若松市の公式データカタログとして広く開放をしておりますが、LINE上の回答にも本データ基盤を利用しております。なお、回答自体は「会津若松プラス」というデジタル情報基盤のビジネスロジックAIが行っており、このAIがLINEの問合せ内容を把握したうえで、オープンデータの内容から回答を持ってきています。
同じ情報をそれぞれ別のシステムに対し何回も入力をしていくのは運用上煩雑になってしまいます。そのため、データ基盤に情報をひとまとめにしたうえで、様々なアウトプットに対応可能にし、情報の流れを整理するよう意識しています。
例えば、当番医の情報ひとつを取ってもLINEだけでなくウェブサイト上にも同じ情報は掲載していますし、メールでの配信サービスも行っています。市として色々な情報チャネルを持ちながら、受け取りニーズに合わせた手段を取れるようにしたいと考えています。
市役所内の各部・課にICT人材を配置
―自治体内にはテクノロジーが苦手な職員の方もいると推察しますが、自治体職員に対してのトレーニングやサポートはどのように行っているのでしょうか。
本島氏 「ICTの人材の育成と各部の配置」と「庁内の横連携・情報共有を図るための組織づくり」という大きく二つの取り組みを行っています。
まず市役所内の各部署に、情報統計課でシステム運用管理を経験したことがある人材を配置することで、市全体としてICTを利活用しやすい体制を整備しています。また、デジタルツールをうまく利用してもらうためには、部だけでなく各課で引っ張ってくれるリーダーの存在が不可欠という認識から、各課にITリーダーを配置する取り組みも行っています。
セキュリティに対する意識の向上にも力を入れており、全職員を対象とした年1回の「情報セキュリティ理解度チェック」も実施しております。こちらはオンラインテストとなっており、100点満点中50点未満の職員は補習となります。また、補習の対象となった職員は、指定された期限までに補修を受けないと、業務上でPCを利用することが出来なくなります。
人材育成の一環としては「情報化政策検討チーム」も設けており、こちらは4つの勉強会(チーム)があります。人材育成に関しては、職員から出来るだけ自発的かつポジティブな形で参加してもらいたいので、業務時間内に任意で参加できて、内容についても自身の業務分野に関わらず選択出来るようにしております。
スーパーシティ構想に挑戦。新たなデジタルサービスを作り上げる
―会津若松市のデジタル化への取り組みにつきまして、今後の予定についてご共有ください。
本島氏 これまで会津若松市では10年ほどスマートシティに取り組んで来ましたが、これからはスーパーシティ構想に挑戦をしていきます。
推進する過程においては旧来のデジタル化を想定して作られていなかった制度を変える必要も出てくるでしょう。それを前提とすれば、証明書取得の際に押印を無くすだけでなく、例えば本人確認(個人認証)の情報がスマートフォン内に入っていれば手軽にオンラインで様々な手続きが出来るようになることは勿論、手続きそのものを不要とすることまでスーパーシティ構想では挑戦が可能になるのではないかと考えています。
会津若松市は、行政手続きのデジタル化については他の先行的に進んでいる自治体に比べると遅れている実感はあるので、そこは重点的に対応していかなければならないと思っています。またその際は、“デジタルサービス”として、行政手続きを最初から最後までデジタル上で完結できるような仕組み8にしていくことが理想かと思います。
―行政手続きをデジタル上で全て完結出来る仕組みを目指すのはなぜでしょうか。
本島氏 「行政手続きをする上で今、本当に困っている人は誰なのか」と言えば、それはデジタルネイティブとして日常の様々なサービスをデジタルで受けているなか、行政に限ってはデジタル化がなされていないため、窓口に行かなければサービスを受けることが出来ない人々かと思います。
デジタル化の話では「デジタル機器を使えない人は恩恵を受けられないのか」という、いわゆるデジタルデバイド(インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差)の話も合わせて出てきます。しかし、デジタル機器を使えない人たちは逆を言えば、従来の方法で手続きが出来ているので、今は困っていません。
まずはデジタル化を最優先で進めて、今困っている人たちの利便性を上げながら、デジタル機器をうまく使えない人には従来の方法で手続きを行ってもらう、もしくはデジタル機器についてのサポートを順次行うなど、デジタルとアナログの視点を持ち合わせながらデジタル化への対応を優先的に進めたいと思います。
小さな失敗は恐れずにチャレンジ
―デジタル化の取り組みを市として進めていくにあたり、組織や職員として、どのようなことを意識する必要がありますか。
本島氏 今まさに会津若松市でやろうとしているスーパーシティ構想についてもですが、行政のデジタル化は今までの自治体業務の枠組みを超えた業務です。そのような意味では、多少の間違いや失敗は起こりうる前提でアクションを起こしていなかければなりませんので、担当する職員も意識レベルから変えていく必要があるでしょう。
意識レベルを変える、というのは言葉としては簡単なようで実際はとても大変です。しかし、このようなチャレンジは民間のベンチャー企業やスタートアップ企業は日々行っているはずです。また、我々は公務員という立場でもあるので、ある程度身分や環境も安定しています。
このような状況に置かれていることを生かして小さな失敗を恐れずに、業務を変えていくためのチャレンジをしていくような勇気を持てることが大事ではないかと思います。
柏木氏 我々もここ数年は小さい失敗を恐れずに事業を継続してきました。事業というのはなかなかすぐ形にはなりませんが、トライしないことには始まりません。今回、会津若松市ではスマートシティ推進室が立ち上がりましたが、我々が率先して前を進み、市の職員を引っ張っていければと思っております。