システム標準化に向けた、神戸市ならではの取り組みとは[インタビュー]
令和7年度末に向けて全国の地方自治体が取り組んでいる20業務の基幹システム標準化に向けた取り組み。とりわけ人口規模が大きい指定都市においては、大規模かつ独自のカスタマイズが施されてきた業務システムの標準化への移行は、各事業部門における業務フローの大幅な見直しを伴うものであり、困難を極める。
そのようななか神戸市では、副市長をトップとする組織横断的な推進本部を組織して、全庁体制で取り組んでいるという。
この独自の取り組みは、標準化に向けた取り組みにおいて、どのような目的でなされて、また現場でどのような効果をもたらしているだろうか。
神戸市企画調整局 企画調整局 デジタル戦略部課長(システム標準化) 中村功氏、同 デジタル戦略部係長(システム標準化)藤原 慎氏にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)
-20業務標準化に向けて、現在の進捗状況についてお聞かせください
神戸市は20業務のうち12業務(住民記録、印鑑登録、戸籍、戸籍附票、選挙人管理名簿、就学、健康管理、障害福祉、児童手当、児童扶養手当、子ども子育て支援、後期高齢者医療)については、令和7年度中の稼働に向けて順次進めています(令和6年8月取材時点)。
それ以外の8業務(生活保護、国保、年金、介護、税関連業務)については、移行困難システムとして国に報告をしており、令和8年度以降の移行を予定しております(令和6年8月取材時点)。
また、システム標準化移行と同じタイミングで、ガバメントクラウドへの移行も予定しており、令和7年度中に標準化移行を完了することが出来るシステムについては、順次進めていくことを予定しています。
移行困難システムについては、当市はマルチベンダーでシステムを構築していますが、事業者側のほうで令和7年度中に神戸市のような規模のシステムを移行することとなると、リソースの確保等で対応が難しいという回答がありました。事業者側のリソース不足が原因であると認識しています。
-神戸市では、システム標準化に向けて庁内全体で大規模な組織を作り対応を進められているとお聞きしております。体制構築時に、特に検討・配慮されたことについて、お聞かせください。
システム標準化の目的になりますが、これまでは自治体がそれぞれ個別開発をして部分最適の形で投資がされてきましたが、これをシステム標準化によって全体最適として行政運営を効率化させることが求められていると思います。
それを達成するためには神戸市はもとより各自治体で、標準仕様書に合わせて独自のカスタマイズを解消して業務の見直しをやっていかなければいけません。しかし、各システムの所管課だけに任せてしまうと、自分の業務システムだけは現状を維持したいという力が働いてしまいます。そうするとなかなか業務見直しが進まないのではないかという懸念がありました。
そこで、まずは副市長をトップに、全庁を巻き込んで、システム標準化の推進本部を組織化しました。システム標準化を対象とする全庁規模での組織体制は、神戸市独自の取り組みであると認識しております。システム標準化に向けて必要となる業務の見直しは、所管課に任せがちになるのですが、デジタル戦略部が入り、一つ一つの機能について議論をして、結論を出すというような仕組みを作りました。
デジタル戦略部で標準化の専任は、中村と藤原の2名のみですが、そのほか、共通基盤やネットワークなどの担当や外部人材であるデジタル専門官と共に一つのチームで標準化に向けた取り組みを行っています。
さらに、各業務システム所管課においても、大きなシステムを扱っている部署においてはシステム専任の職員がいる状況です。その他の部署については、我々が委託先のコンサルティング会社の担当者と一緒になり、特別支援という形でフォローをしながら取り組んでおります。
―標準化を全庁で推進していくための組織をしっかりと作ったことによる効果について、お聞かせください。
トップを副市長として組織を作ったことで、神戸市として全庁で標準化に取り組んでいくという方針が、各業務所管課及びシステム所管課に共有されたということが一番大きいかと思います。
大変な業務ではありますが、将来に向けて一緒にやっていこうメッセージが、少しずつ浸透されていった結果ではないかと思っております。
―全庁規模での推進体制のもと、部署間で連携をするうえでご苦労されることはどのようなことでしょうか?
仕組みやルールがないと、何を正として業務を進めて行くべきかを判断するのが難しいかと思います。推進本部において、システムのカスタマイズは原則不可であるというルールを作りました。その上で、もし、標準仕様書外で機能実装が必要ということであれば、他都市の状況調査をして、札幌、横浜、名古屋、京都、大阪、福岡の6都市中、4都市で同じような機能を実装している、あるいは、今後実装する予定である場合には、カスタマイズ機能の実装を認めることとしました。4都市に満たない場合でも、やはり機能が必要という場合においては、なぜ他の都市では必要ないけれども神戸市では必要なのかというところをしっかりと推進本部の会議で議論をして、決めていくこととしました。こうしたルールを作って進めたというところは、良かったのかなと思っております。
このようなルールは、我々の知る限りでは、神戸市ならではのユニークなものであると認識しております。
―標準化を進めていく中で、他自治体との連携や情報交換などはされているのでしょうか。
カスタマイズ解消の件では、6都市に調査をかけさせていただいていて所管課との意見交換をさせていただいております。
また、兵庫県が市町村を集めて定期的な意見交換の場をセッティングしていただいており、そこに参加をさせていただいて、他の自治体と情報共有をさせていただいております。
また、デジタル庁の共創プラットフォームも毎日のように拝見して情報収集をしております。
―2023年11月に指定都市市長会からデジタル庁に対する、「地方公共団体情報システム標準化基本方針の改定に関する指定都市市長会緊急要請」を出されました。この背景や意図についてお聞かせください。
標準化の取り組みは神戸市だけがやっているものではありません。特に指定都市の20市は人口規模も大きく、これまでのシステムの作り方からしても、カスタマイズがどうしても必要で作りこんできたという経緯があります。そこでまず挙がってきた課題は、標準仕様に指定都市向けの要件を含めてもらうことでした。
皆が、同じ課題をもって国に対して要望をしていく必要があるという機運が、指定都市の間で特に高かったということになろうかと思います。
ガバメントクラウドについては、セキュリティー面や災害対応などでは、効果やメリットがあると認識し、当市でもAWSを導入することにしましたが、やはりコスト面においては想定より高くなることが見えてきました。この件についても指定都市の担当者と意見交換をすると、同じ認識であることが見えてきたため、ガバメントクラウド利用料の低減については要望すべきであるということで、昨年度の市長会において、デジタル化推進を担当されている堺市様がとりまとめをされ、会長市である当市も連携をしながら、国に対して要望をしたというのが経緯です。
国においては、ボリュームディスカウントや長期継続割引などの対応により、現行の費用よりも高くならないようにしていただきたいですし、自治体サイドでもクラウドサービスで提供されるサーバーのスペック見直しや稼働時間の短縮と言ったコストを下げていく取り組みをしていく必要があると考えています。
-指定都市要件に関して、一部機能において国との間で協議が続けられておりますが、これに関する認識や対応の考え方についてどのような相違があるのでしょうか。今後どのような解決策が想定されますか。
指定都市要件に関しては、2022年度より検討がされましたが、そこで追加された要件だけでは不十分という受け止めがあったため、指定都市市長会で再検討の要望を行いました。その結果もあり、デジタル庁の主導により、各業務の所管省庁との連携がなされ、再度、要件を追加いただいたという経緯があります。指定都市要件については、ある程度の部分は実装していただいているという受け止めをしています。
ただし、個別に見ていくとまだ不十分なところはあると感じており、例えば、多くの指定都市で実装されている機能については、指定都市必須機能として実装がされるよう仕様書の変更を要望しているところです。
-移行困難システムに関する、現状のご認識と今後の対応についておきかせください。
移行困難システムの中でも、ベンダーの確保のめどが立っているシステムと、そうではないシステムとがあります。ベンダー確保が出来ていないシステムについては、まずはベンダーの確保が第一ステップになると考えております。
ベンダーのめどがついているシステムについては、カスタマイズを解消できるように、本部会議の中でしっかりと対応をしていきたいと思っています。また、他都市の状況を調査しておりますので、他都市でも必要な機能については、国に対して標準仕様書に機能を追加してほしいという要望を上げていく、といった取り組みも必要になってくると考えております。
-システム標準化が進むことによる、神戸市の業務改善の結果と、行政サービスの今後についての見通しをお聞かせください。
これは国においても言われていることですが、これまでは制度改正の度に、多額の改修費用がそれぞれの自治体でかかっていました。標準化されることで軽減が図られるものと見込んでいます。研修やテストなど、制度改正に伴って生じる人的な負担についても軽減されるものと期待しております。そこで生まれた財政効果、あるいは軽減された負担部分を新たな住民サービスにつなげていくことが期待されます。
また、神戸市ではEBPMの取り組みの中で、これまでも行政データを収集してきましたが、システム標準化により、各業務の連携が意識された基本データリストを容易に集めることできるようになると考えます。これにより、今まで以上にデータを活用した政策立案を行っていくことが可能になるものと考えています。