長野県・飯綱町が導入したLPWAが町に与えた影響と未来の効果とは[インタビュー]
飯綱町企画課企画係DX推進室長の笠井竜介さん
長野県北部の丘陵地にある飯綱町。山間部や林も多く、電波が届かなかったり、電源が確保できなかったりする地域もあるという。そのため、配水池や河川などの管理には、職員の足を使うしかなかった。この課題を解決すべく導入したのが、TOPPANデジタルが提供するLPWA(Low Power Wide Area:省電力かつ長距離での通信が可能な無線通信技術の一つ)である。導入に至った背景や活用法、今後の展望について、飯綱町企画課企画係DX推進室長の笠井竜介さんに伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)
遠隔でのデータ取得が可能に
2020年、TOPPANデジタルは飯綱町「いいづなコネクトEAST」内にDX開発拠点として、全国第一弾となるサテライトオフィスを設けた。地域と連携した新事業創出、現地雇用拡大といった地域活性化も目的に掲げており、その頃から関わりが始まったと笠井さんは話す。「デジタルを推進し課題を解決していくにはどうすればいいのかというところから、さまざまなソリューションの紹介もいただきました。LPWAの導入についても、TOPPANデジタルの社員さんと町の職員と一緒に一から相談しながら進めていきました」
冬の間は雪も深く、人の足で毎日水位や状況を確認するのは非常に大きな負担だった。LPWAによって、現地に行かずとも遠隔でデータを取得することができる。「役場にいながら確認できる点には大きなメリットを感じています。また、最初にセンサーや基地局、中継機の設置費用はかかりますが、ランニングコストがほとんど必要ないので助かっています」
雨量計測にも効果を発揮
雨量についても、明確に把握できるようになった。「災害が発生しても、災害基準を満たす雨量が広範囲で観測できないと、国庫補助で災害復旧をすることができません。センサーを新たに設置したことによって、国庫補助を受けて災害復旧することができた箇所もありました。昔と比べて雨が局地的になっているので、観測地点を増やすことは必要だと思っています。飯綱町では雨はそれほど多くなく、台風による被害も少ないのですが、局地的に降ればやはり土砂が流れたり、田んぼが崩れたりする可能性がありますから」
データ閲覧システムをアプリと連携
さらに、TOPPANデジタルのPosRe®︎というWebサービスによって、収集したデータをダッシュボード的に集約して見ることができる。「特に防災の担当者からは、災害対策がしやすくなったという声を聞いています」
災害が発生した時、多くの災害情報を取りまとめて整理しどう対策を練っていくか、また、防災対応をどう職員に伝えて動いてもらうか、あまりうまくできていなかったと話す。「情報はエクセルで入力していくしかなかったのですが、PosRe®︎では地図上にまとめて職員への伝達までが非常にスムーズにできます。これからもっとうまく活用していきたいですね」
また、2022年度よりスタートした町の公式アプリにPosRe®︎の情報を公開する形にしたため、住民から災害情報がつぶさに見れて便利というコメントが聞かれているという。「アプリのダウンロード数もそこから増加しましたので、住民の皆さんの関心も高いのではと思います。基本的に災害はあまり多くない地域ですが、事前の対策として多くの方に見ていただき、有事にはぜひ活用いただきたいです」
現在では基地局13台、中継機27台、河川・配水池・ため池の水位監視、雨量・積雪量・狩猟罠の監視、育苗ハウス・サクランボ圃場の管理のほか、飲食店の混雑状況確認や独居老人見守りなどを含む77台のセンサーを設置している。
他自治体との情報交換から得るもの
今年で3年目を迎えたDX推進室だが、笠井さんは立ち上げ当初から担当。2022年10月にDX推進計画を策定、2025年度までその計画に沿って進めている。「今のところ順調に進捗している状況ですが、生成AIなどの新しいソリューションが反映されていないので、都度修正を加える必要が生じています」
外部協力企業からのヒアリングはもちろん、自治体同士の横のつながりから情報を得ることも増えているという。「『一般社団法人まるごとデジタル』に加盟し、週に1度くらいのペースでミーティングを設けています。現在20自治体ほどが参加しています」
そこで得た各自治体のさまざまな取り組み情報を、担当課に繋いで導入すべきかを相談している。「まるごとデジタルの中にも、避難所の開設状況や混雑状況などが分かる防災アプリを開発した方がいて、そのアプリの導入を検討するという話も出てはいたのですが、PosRe®️で全てカバーできそうなので見送りました。鹿児島県のある自治体では、早速運用を開始しているそうです」
デジタル化については、DX推進室だけではなく、職員全体の意識の醸成が必須だと話す。便利になったという声の一方で、抵抗もあったという。「何でもデジタルでいいのか、アナログでできる部分も大事だろうといった意見もあります。デジタルは目的ではなくあくまでも手段であり、課題解決のためだと話をしています」
DX推進室は笠井さん一人だが、企画課に所属しているので協力体制もある。
広く活用するために住民の声を聞く
PosRe®️では、道路が壊れていて通れなくなっているといった情報を住民から寄せることも可能だ。今後は、そうした情報も伝えていきたいと考えている。「PosRe®️には、住民から寄せられた情報にどう対応したかをWEB上に公開できる機能がありますが、現在は運用できていません。今後は公開できるように進めていきたいと考えています」
町内全域でさまざまなセンサーデータを拾えるインフラは整った。どう広く活用していくかはまさにこれからで、住民の声を聞きながら、実証実験を重ねて進めていきたいと言う。
「飯綱町はリンゴなどの果樹園が多いので盗難防止に生かすとか、不法投棄の防止とか、有害鳥獣対策を図るとか、このソリューションを活用して、色々な課題解決ができると思っています。農業の後継者不足も深刻です。LPWAでスマート農業が実現できないかとも考えています。職員を巻き込んで、住民のためになる多様な取り組みをしていきたいです」