初代アンバサダーに聞く「デジタル改革共創プラットフォーム」の活用法とは(後編)[インタビュー]

初代アンバサダーに聞く「デジタル改革共創プラットフォーム」の活用法とは(後編)[インタビュー]

デジタル改革共創プラットフォーム 初代アンバサダーの一人 神奈川県小田原市子育て政策課 金原悠さん


前編に続き、「デジタル改革共創プラットフォーム」のこれからについて、初代アンバサダーである岐阜県下呂市デジタル課の長尾飛鳥さん、神奈川県小田原市子育て政策課の金原悠さんと、デジタル庁の冨岡佳子さんに聞く。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴史子)

フラットな対話が変革を推進する原動力に

―アンバサダーとは?

冨岡:共創プラットフォーム内外での活動等を踏まえ、いくつかの要素から候補者を絞り、まず15名にお願いしました。定期的な入れ換えや増員を予定していますが、1年間務めていただきます。共創プラットフォームにおける自治体のリーダー的存在として、ユーザーをサポートいただけると期待しています。

―アンバサダー制度のメリットは?

長尾:これまではデジタル庁が主導でしたが、アンバサダーメンバーが主体的に活動し、参加者を増やしながらコミュニケーションを活性化させる動きが広まっています。また、アンバサダー制度を通じて出会った方々の知見や手法を活用することで、オンラインホワイトボードを用いたワークショップなど、自治体業務に役立てられる点も大きなメリットだと感じています。
共創プラットフォームを通じて、多くの方々とつながったことで、それ以来、さまざまな場所でセミナーや講演を行い、「新しい働き方」として、活用すべきツールであることを広めてきました。ただの一方向的な情報発信ではなく、双方向でつながることができるツールであることを強調しています。これまでの経験と熱意を生かして、アンバサダーの中では”営業部長”的な役割を担いながら、さらに広報活動を進めていきたいと考えています。

長尾さんの講演会の様子

金原:私にとっても、アンバサダー 15 名と、運営側であるデジタル庁20 数名の方々と知り合えたことが一番のメリットです。各分野で活躍されている皆さんなので、刺激を受けています。アンバサダーのミーティングも定期的に開催しており、Slackを活用したコミュニティ運営について意見交換できるところも、普通の参加者とは違うメリットなのかなと思います。当面の目標としては、一人でも多くの方に直接お会いしたいですね。

―共創プラットフォームの今後の可能性については?

長尾:共創プラットフォームでは、豊富なチャットのリアクションボタンの絵文字が非常に役立っています。特に「承知しました」「お疲れさまです」といった絵文字を使った気軽なやり取りが参考になります。このような文化を積極的に取り入れ、自組織や他の自治体にも広めたいと考えています。
また、DX分野に限らず、さまざまな担当者や政府機関間でのつながりを促進し、多様な人々との情報交換を活性化させていきたいと思っています。共創プラットフォームを活用することで、私個人的には組織を超えた新しい働き方を生み出せる可能性があると感じています。

金原:絵文字がどんどん増えていて、それも楽しいですよね。私も絵文字を作るワークショップの資料を拝見し、追加しています。
いくつかの投稿を見てみると、私が担当している子ども医療費助成に関しては、今年の12月2日より紙の健康保険証の新規発行が停止され、健康保険証が手元になくなってしまうので、「どうやって資格情報を確認しますか?」「国からオンライン説明会の案内が出ましたよ」など、やり取りが盛り上がっています。マイナンバー制度の情報連携については、「詳しい使い方を教えてください」「この資料の見方が分からないのですが」などの問いかけに対して、回答が寄せされています。こうして共創プラットフォーム内で得た内容を資料としてまとめ、プラットフォームで配布していく循環もできつつあり、可能性を感じています。

共助から共創へ

―課題を感じられているところはありますか?

長尾:通常、問い合わせは自治体から県へ、そして県から国へと進み、回答は国から県へ、県から自治体へと返されます。この長いやり取りがなくなることで圧倒的にスムーズになりますが、一方で、政府職員の発言が組織の公式見解として受け取られる可能性もあります。そこで、発言はあくまで個人の意見であるとの認識を広め、参加者全員がフラットに意見を交換できるプラットフォームにしたいと思っています。

金原:自治体職員側は気軽に発言できますが、政府職員の方が参加しやすくするにはどうしたらいいか、答えが出ないところはありますね。
自治体職員でも、何らかの課題について聞きたい時、今の自団体の運用がもしかしたら間違っているかもしれないと、公開チャンネルでの質問の難しさを感じる方もいるようで、ダイレクトメッセージをいただくことがあります。この点も課題だと思います。

冨岡:政府職員の登録はまだ20%弱です。デジタル庁が多く、省庁のばらつきもあります。自治体職員の皆さんが活発に情報交換をされているのに比べて、政府職員の方にとっては向き合い方が分からないという状態かも知れません。「返信してもらえますか?」というコメントをいただいても、今は答えられないということもあります。ただ、共創プラットフォームへの思いは同じなので、模範を作っているところです。ありがたいことに、アンバサダーの皆さんから「政府職員を追い詰めるようなことはしたくないので、答えないという権利も残した方がいいのでは?」と言っていただいているので取り入れながら、参加者同士でいい関係を築いていきたいと思っています。
また大変嬉しいことに他省庁からも、メーリングリストではなく共創プラットフォームを使うことを検討しているというご相談をいただくことも増えてきています。

金原:政府職員の皆さんは忙しく、人手不足の部分もあるのではないでしょうか。共創プラットフォームの中で、自治体同士で解決できれば負担が減るかしれません。そうした役立ち方もあるのかなと思います。

新しい働き方のモデルとして、組織を超えた共創を

―今後の展望について教えてください。

冨岡:国の予算をかけているので、成果も重要です。助け合いの精神からさらに進めて、もっと一緒にプロジェクトを生み出していきたいと思っています。窓口改革はすでに成果の一つとして評価されています。「書かないワンストップ窓口」を導入したいという自治体には、まず共創プラットフォームに登録してもらい、該当するチャンネルから全ての資料を確認してもらいます。窓口改革に精通した自治体職員も多く参加しており、必要に応じて気軽に質問できる体制も整っています。窓口改善によってこれだけ時間が短縮された、同時間でこれだけの件数に対応できたといった報告も共創プラットフォーム上で行われます。アウトプットを共有し、それを参考にまた新たなアウトプットが出るという良い流れが形成されています。

長尾: 単に場を提供するだけでは不十分です。DX時代はチャレンジの時代なので、共創プラットフォームの中から、ちょっと試してみようという自治体が出てきたり、同じ課題を抱えた自治体同士が協力して取り組むことができれば、新しいサービスや価値を創造できるのではないでしょうか。

金原:参加人数が増えたことで、発言を躊躇している方がいるのではという懸念があります。初心者の方が発言したい時に発言できるような工夫が必要だと感じています。また、そもそも共創プラットフォームを知らない、知っていても参加する気になれないという方に良さを伝えていきたいです。特にデジタルの分野は、各自治体の環境が異なることもあり、業務の所管省庁から知りたい情報のすべてが自動で来るわけではありません。今までのルートでは必ずしも得られない情報が得られる場は貴重だと思います。

―検討している方へメッセージをお願いします。

長尾:共創プラットフォームは、自宅でも職場でもないサードプレイスだと思っています。行政はよく縦割りと言われますが、実際には縦にも横にもつながっていない自治体が多いのが現実です。組織や立場を超えたフラットな対話はこの場ならでは。自治体間や自治体と国の間だけでなく、市民との対話にも重要な役割を果たすのではないかと考えています。
最初に書き込むのはハードルが高いので、まずはリアクションボタンを押してみるところから始めてみるのをオススメします。しかし、課題解決に向けては聞くことも大切です。その結果として、さまざまな情報が得られることになります。自治体の規模に応じて調整しながら進めれば、独自の価値を創出できるはずです。ぜひ、積極的に参加していただきたいです。

金原:必ずしも投稿者になる必要はありません。まずは情報収集の場として、登録してみてくださいというのが一番ですね。もし困ったことがあれば、ここで情報が探せるとか、質問したいならこちらのチャンネルがいいといったアドバイスもできるので、お気軽にメッセージをいただければと思います。できる限りサポートします。

◼️アンバサダープロフィール

岐阜県下呂市
デジタル課
長尾飛鳥さん

新卒で下呂市役所に入庁し、窓口業務やマイナンバーカードなど現場中心の業務をしながら、情報システム部門も一年間担当。2022年からデジタル課へ。利用者目線だけでなく職員目線でDXを推進し、2024年度から下呂市最高デジタル責任者(CDO)補佐官を委嘱。マイナンバーカードを活用した処分通知等のデジタル化が評価され、2024年6月に総務省の東海総合通信局長表彰を受賞。

神奈川県小田原市
子育て政策課
金原悠さん

小田原市役所に入って約20年。下水道の水質規制・使用料担当、例規審査担当を経て、現在は子育て政策課の手当・医療係で、主に児童手当と子ども医療費助成2つの業務を行っている。デジタル部門には一度もいたことがなく、デジタルに明るいわけではないと話す。共創プラットフォームは情報システム部門所属者が大多数のため、少数派ながらも自市でまとめた資料などを積極的に共有している。