AIと共存する社会で大切なのは ? 中学生で起業した近藤にこるさんに聞く[インタビュー]
「AI時代の教育を創る」というビジョンを掲げ、2024年7月に創業したEdFusion。立ち上げたのは、中学2年生の近藤にこるさんだ。人とAIが共存する世界で、私たちはAIとどう向き合うべきか。忘れてはならないマインドは何か。若き起業家の言葉から探る。
(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)
教育とAIを軸に起業
愛知教育大学附属名古屋中学校に通う近藤さん。起業に興味を持ったきっかけは、2023年11月に総合学習の授業で行われた起業家体験プログラムだったという。10回ほどに渡り、グループで起業のアイデアを考えるという内容。「自分たちで課題を形成し、どう解決していくかを学びました」
このプログラムでは、最優秀賞を手にする。その後、先生に紹介され、STATION Ai株式会社(※)が開催する学生起業家育成プログラム「STAPS」に参加。実際に起業を目指す大学生たちが集まる中、ともに1か月半、全6回の講習を受け、最終ピッチで特別賞を受賞する。これをきっかけに、さまざまなところから声が掛かるようになった。「生成AI EXPO in 名古屋」には運営者からオファーを受け、ブースを出展。開会式および閉会式でモデレーターも務めた。「AIの進化スピードを目の当たりにしたイベントでした」と振り返る。教育AIサミット2024登壇の話もあり、教育とAIを軸に起業したいという思いが高まっていったという。そうして2024年7月、EdFusionをスタート。「Education(教育)とFusion(融合)を組み合わせました」。ウェブサイトも自分で制作、勉強との両立は大変と言いながら、夏休みには本格的にEdFusionの活動に取り組んだ。「今はとにかく、やりたいことをやりたいと思っています」
※愛知県・名古屋市にある国内最大級のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」(2024年10月30日オープン)を運営する。
学校には無限の可能性がある
学校内でも活動したいと起業部を立ち上げた。「若い世代から変えていきたいと思ったんです。だから中学生同士で一緒に学ぶ環境があればいいなと」
参考にしたのは、子どものためのプログラミング道場として世界各地に展開する「CoderDojo」だ。「小学生から高校生まで参加する無料のプログラミング講座に通いました。スクールという感じではなく、みんなで学び合っている様子を目の当たりにして、その良さを実感しました。小学生が中学生に教えることもあります。AIに出会ってからはこのような教育が必要なのではと思うようになりました」
「STAPS」でプレゼンテーションしたのも、学びを共有できるアプリだった。「学校には無限の可能性があると思っています。だた授業に行って帰るだけではなく、みんなで共有できる場所が欲しいと考えました」
EdFusionの第一歩として、自身で初めて主催したのが「にこるのAIアフタースクール」だ。名古屋市内のカフェで開催、講義というよりハンズオンセッションで、「ChatGPTを使ってAIと会話する」というテーマで実施したところ、非常に盛り上がったという。2回目はAIを使って音楽を生成。「オリジナルの曲が作れたと、年配の方にも喜んでもらえました」
その後も好評を博し、第3弾、第4弾と継続している。「さまざまなテーマを掲げ、一緒に作りながらAIに触れてもらうことを大切にしています。オフラインなので、参加者の方が次の方へとつないでくれている感じです」
また毎週木曜日には、AIに関するセミナー運営やコンサルティングなどを事業とするYMMD合同会社の代表である齋藤潤さんと一緒に「AIM教」配信。毎回ゲストを招き、AI時代の教育について語り合うメディアだ。「さまざまな人たちと関わりつつ、つながっていけることを実感しています」
全国の中学校に起業部を広めたい
2024年8月には、デジタル田園都市国家構想応援団が運営する地域DXプロデューサーに認定。2024年9月に開催された「JAPAN DX Player AWARD 2024」(デジタル田園都市国家構想応援団主催)では、地域を盛り上げるアイデアを発表した。「起業部では、メンバーでアイデアを出し合い、ホワイトボードに書き出してまとめて、さまざまな大会にトライしています。AIが進化し、AIと協働する社会では、主体的であることがとても大事だと思っています。私が求めていたのは、みんなで、しかも同年代でコミュニケーションをとりながら、自ら動いていくことじゃないかなと。起業部は大学では増えてきていますが、中学にはまだありません。全国の中学校に起業部を増やし、起業部の人たちが自分の地域を知って全国に発信していくこと、AIを活用して地域を盛り上げ魅力を交換し合うことを提案しました」
AIは必要だと認識していても、どうすればいいのか分からない。そうした人たちが第一歩を踏み出せるよう後押しをしたい、とも話す。「私自身、とりあえず色々なことに挑戦しました。だからこそ一歩ずつ進んでいくことが、本当に大事だと思っています。授業で起業家体験プログラムを受けてからこれまで、1年弱という短い期間ですが、さまざまな場所に行くことができ、多くの方にお声がけをいただいて、さらにつながりが広がっていきました。まずはAIに触れる機会を作ってほしいと思います」
AIを主体的に楽しむ
2024年11月に開催される生成AI EXPO in東海にも携わることになっている。「どんなことを伝えたいか?」との問いに、こう答えた。「とにかくAIを楽しむこと。私もそうだったように、きっとすごいなって思えることがたくさんあるはずです。それから、アントレプレナーシップ(起業家精神)についても伝えていきたいと思っています。自ら課題を作って主体的に取り組み、みんなで協力して解決していくことが、楽しさにつながっていくと信じています」
これからは、AIを次世代につなぐことも考えていきたいと続ける。「地域DXプロデューサー、起業部、EdFusionのサービス自体も、若い世代、今後の日本を支えていく人材をターゲットにしたいと考えています。AIの時代に必要となる知識とスキルを、もっと広めていきたいです。AIに追いつけてないところに課題を感じています」
2024年10月には、一般社団法人地方web3連携協会(web3技術を活用して、 地方に眠る資産を生かした地域ブランディングを推進)のアンバサダーにも就任。AIの活用とアントレプレナーシップを伝え続け、子ども同士が学び合える環境を提供しコミュニティをつなげる活動から目が離せない。