山形県酒田市、ノーコード開発プラットフォームを活用して、次々に申請業務のオンライン化を実現[インタビュー]

山形県酒田市、ノーコード開発プラットフォームを活用して、次々に申請業務のオンライン化を実現[インタビュー]

kintoneで作成した初のシステムアプリ「定期船とびしま乗船予約システム」


”最上川”の下流地域に位置し、庄内平野の豊かな自然と肥沃な土壌を有する、酒田市では、2020年10月1日にデジタル変革戦略室を設置し、「住民サービスのデジタル変革」「行政のデジタル変革」、「地域のデジタル変革」をデジタル変革の三本柱として進めてきた。取り組みの一環として、ノーコード開発プラットフォーム「kintone」を導入し、申請業務のオンライン化を実現。100個以上のアプリを運用しているという。コロナ禍以降、ローコード・ノーコードツールを活用する自治体が急激に増えつつある。同市ではこれまでにどのように取り組んできたのか。導入から運用にいたるまでの経緯や実際の取り組み、その想いについて伺った。

(聞き手:新井 なつき)

-デジタル変革戦略室の業務についてお聞かせ下さい。

コロナ禍に行われた、特別定額給付金のオンライン申請事業を通じて、その利便性やDX化の必要性を前市長が強く感じたことがきっかけとなり、デジタル変革戦略室(以下、DX室)が新設されました。
DX室では、窓口改革といったフロントヤードの業務改革をはじめ、GIGAスクールやそのサポート支援等、全庁的なデジタル変革に係る業務や支援を行っています。2020年11月にNTTデータ、NTT東日本、東北公益文科大学と連携協定を結び、外部の専門家から知見や知識をもとに助言をいただきながら、酒田市全体のDXに向けた取り組みを進めています。

-申請のオンライン化を進めていくために、kintoneを導入されたとのことですが、その経緯についてお聞かせください。

酒田市では、従来システムのブラックボックス化が課題でした。年度が変わるごとに必要な項目が変わり、それに伴いシステムを改修しなければないことが多く、その度に事業者に依頼していました。加えて、事業者に依頼することで発生する費用や時間が妥当なのかどうかという部分について庁内で把握できないことが問題になっていました。
そこで、職員自ら改修できるシステムを探していたところ、サイボウズ社からkintoneをご紹介いただいたこともあり、検討の結果酒田市がやりたいことを実現するためにkintoneを導入しました。

-具体的にどのような業務にkintoneを活用していますか。

主に、「酒田市病児・病後児保育登録(変更)申請」のような申請業務のオンライン化に活用しています。その他、本土と有人離島飛島間を運航する定期船の予約システム「定期船とびしま乗船予約システム」や、「新規採用職員試験申込フォーム」、オンラインアンケートなどの様々な業務活用しています。

-これまでに開発したアプリの総数はどのくらいに上りますか。

100個以上になります。開発の進め方として、オンライン化できる全ての業務を洗い出すために、令和2年度から全庁的な調査を実施しました。例規集から全ての申請業務を抽出し、その中から法令や条例によりオンライン化できないものを除き、オンライン化できる業務を抽出しました。そのうえで、申請業務のオンライン化を進めるべく、担当部署ごとに四半期ごとの目標を立ててもらい、DX室が支援する形で申請業務のオンライン化を進めました。

-どのような体制でアプリ・システムを開発されたのでしょうか。

基本的に担当部署でアプリを作成し、アプリの管理、改修も各担当部署で行っています。不明な点等があれば、DX室がサポートしています。

-「定期船とびしま乗船予約システム」、「酒田市病児・病後児保育事業登録(変更)申請」、「新規採用職員試験申込フォーム」について、それぞれのアプリを開発するなかで、特に工夫されたことや気を付けていたことはありますか。

【定期船とびしま乗船予約システム】

電話予約とオンライン予約の2通りの予約方法を前提にしていたので、市民と職員がどちらも使いやすようなシステムになるよう構築しました。最近では、予約システムを発券機と連携できるようにしたため、kintoneで乗船料金の計算もできるようにしました。

【酒田市病児・病後児保育事業登録申請】

酒田市病児・病後児保育登録(変更)申請フォーム

登録申請する際に申請者が手間をかけずに入力できるよう工夫しました。
本事業は、病気または病気の回復期のお子さんを専用の保育所において一時的にお預かりするものです。利用するには事前登録が必要になりますが、個人情報の他、アレルギーや離乳食など多岐に渡る情報の記入を求めていたため申請者にとっては手間がかかるものでした。今回、登録申請時に求める情報の必要性を見直し一部の情報を、登録時に求めず利用時に保育所へ提出するよう変更したり、文字入力ではなく画像添付による申請に設定したりしました。
また、本事業は酒田市と専用の保育所が連携して行っているため、登録された情報を保育所も確認する必要があります。情報を酒田市が一元管理し、保育所へ必要な情報のみ適切に共有出来るよう工夫しました。さらに使用できる機能を活用し、より手間をかけずに正確性の高い領収書を作成することが可能になりました。

【新規採用職員試験申込フォーム】

新規採用職員試験申込フォーム

工夫した点は、受験票の郵送業務などを省略できるような仕組みを検討したことです。これまでは、応募者から申込用紙を受け付け、担当部署が紙の受験票を送付するというフローであったため、事務作業に時間を要していました。そこで、申込を受け付けた後の自動返信メールにて申込内容の確認ページが確認できる仕様にして、受験票を内容確認ページからダウンロードできるようにしています。

また、上記の仕組みで受け付けるためには、申込内容確認ページが確実に申請者に届く必要があります。メールが届かないという人がいないよう、申込フォーム回答前に一度メールアドレス登録をして、届いたメールから本申込に進むよう二段階制にしたことで、申込者は必ず自動返信メールを受け取ることができるようにしました。

-実際に、業務の変化や市民からの反響はありましたか。

全庁的には、職員自らアプリを開発・運用する人が増えたと実感しています。たとえ自分で作れなくとも、「こういうことをしたいんだけどkintoneでできないか」という相談も増えました。

【定期船とびしま乗船予約システム】

以前は電話予約で日々の業務に手が回らないということもあったのですが、オンライン申請が増えたことで、他の業務に当てる時間が増え業務効率が向上しました。職員自らkintoneを操作しているので、他の業務にもkintoneを使えるのでないかという新しい発想が生まれるなど、利便性向上や経費削減を検討するなど、意識改革にも繋がりました。
市民は予約がオンライン化されたことで、いつでも予約可能になったことや、元々記入が必須だった乗船名簿の記入が省略できるようになったため、乗船手続きが簡単にできるようになりました。このように、職員と利用者双方の手間が削減されました。

【病児・病後児保育事業登録(変更)申請】

kintoneで情報を一元管理したことによって、保育所でも常に最新の情報を閲覧することができるようになり、市の職員においては保育所へ情報を共有する作業が削減されたため、業務の効率化につながりました。

また、オンラインで申請する人が増えたことで、市の職員はこれまで窓口業務に充てていた時間を他の業務に費やすことができるようになりました。同時に、申請者としても、申請のたびに窓口に出向く手間が無くなったため大きな改善になりました。

【新規採用職員試験申込フォーム】

申込から受験票の送付・受け取り等の作業が全てメールで完結できたことで、受験者側の申込書を手書きで作成する手間がなくなりました。また、職員は、紙の郵送業務が無くなったことで、業務の効率化につながりました。職員と受験者双方に大きな効果が出たと実感しています。

-今後の目標や展望についてお聞かせください。

現在は、オンライン申請業務にkintoneを活用していますが、今後は内部業務でも活用し、業務の効率化を推進できればと考えています。

また、これまで紙の業務をオンライン化してきましたが、やはり今までの業務フローのままオンラインで受け付けても、業務の効率化にはつながらないという課題があります。業務のBPRを検討しながら、職員の業務効率化のために今後もkintoneを活用できればと考えています。
また、今後もオンライン化を推進し、さらなる市民の利便性向上につなげていきたいです。