都城流、Well-being指標の読み解き方と活かし方 [インタビュー]
マイナンバーカードの高い普及率や、これを活用した様々な市民目線の施策を打ち出し、全国的に高い注目を集めるデジタル行政の先進都市である都城市。
デジタル庁がその普及を促進している、自治体のWell-Being指標において公表されている、都城市の「行政サービスのデジタル化」に対する市民アンケートから得られた回答は、極めて高い水準の数値を叩き出している。
都城市ではWell-Being指標から得られたこの結果をどのように受け止めており、また今後どのように活用していこうと考えているのか。
同市でDX施策を担当する総合政策部 デジタル統括課 佐藤 泰格氏にお話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)
都城市政の方向性と一致する、幸福度指標が持つ思想
―都城市では、幸福度指標(Well-Being)の活用を始めていますか?
はい。池田宜永市長も高い興味を持っており、内部で分析して活用していくフェーズに入っています。Well-Beingの指標に関しては、指標ができた時から注視していました。令和5年度からは、都城市のWell-Beingの指標に新たに主観データも導入されたことにより、より指標を活用しやすくなりました。今後本格的に活用していく予定です。
―都城市がWell-Beingを導入されようと考えられた背景をお聞かせください。
幸福度指標というものが、市長の考え方と一致していたからです。池田市長は、「自治体も経営する時代」との考えに基づき、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を有効に活用し、市民の幸福と市の発展を実現しようとしています。そのため、市長が目指している市民の幸福を実現するために、私たち行政職員も、この地域幸福度指標を大きな目安となる指標として意識していく必要があると考えています。
幸福度指標から読み取れる、伝わったデジタル行政
―実際に指標を確認すると、都城市は行政サービスのデジタル化に関する数値がとても高いですね。
ありがとうございます。デジタル化とは違う分野ですが、兵庫県の明石市の子育てを確認してみましょう。どうでしょうか? 非常に高いのです。
明石市は日本一子育てに優しいまちというイメージを皆さんお持ちだと思うので、肌感覚としても間違っていないのではないでしょうか。
そういった観点から、都城市の行政のデジタル化指標が高いことを考察しますと、私たちが進めてきたデジタル化は、市民に便利な取り組みとして実感を持って受け入れていただいていると考えています。
デジタル化とは、行政主導で「進めました!」と言っても自己満足になってしまいかねませんが、こういった指標があることによって、私たちとしてもデジタル化の取り組みが、市民に実感を持って伝わっていることを定期的に確認することが出来ます。
重要なのは、市民目線であること
―市民にデジタル化の取り組みが浸透した理由を教えてください。
広報誌でデジタル化特集をしてきたことやSNSを活用した情報発信などに加えて、2023年の日本DX大賞で最優秀賞である大賞を受賞したことなど、対外的に都城市のデジタル化が評価されていることを市民にもアピールできていることも、指標が高い理由だと考えています。
実は、我が国のデジタル敗戦と呼ばれたコロナ禍における10万円の特別定額給付金について、都城市では申請開始日の午後にはオンライン申請分の給付を始めるなど、オンライン申請の良さを活かした取り組みで、全国ニュース等でも取り上げられた実績があります。
また、デジタルデバイド対策として、高齢者・小学生・中学生向けのデジタル講座やデジタルリテラシー講座、デジタル活用支援を、さまざまな場所で年間200回以上開催するなど、市民に寄り添うデジタル化を進めてきました。
また、都城市が掲げる都城市DX推進計画に「デジタル化は市民目線になっているか」という項目があります。
この考え方が私たちの目指すデジタル化推進の肝の部分で、ただデジタル化を進めるのではなく、どうやったら市民が使いやすい形でデジタル化を推進できるか、またデジタル化の恩恵を届けることができるかを考えています。市長の想いもあり、マイナンバーカードの普及であれば、1人の方のためにマイナンバーカード出張申請サポート車「マイナちゃんカー」を活用する等、アナログ的な手法も厭わずに、市民に寄り添ったデジタル化を進めています。
【都城市DX推進計画】
https://www.city.miyakonojo.miyazaki.jp/uploaded/attachment/30148.pdf
また、都城市では以前、高齢者に配布する温泉券を毎年20枚、紙のチケットで発行していました。しかし、紙ですと無くした場合に再発行ができない、また精算のために、温泉施設は請求書に温泉券を添付しますし、それを市の職員が1枚1枚数える必要がある。デジタル化して、サーバーで回数管理すれば、毎年の配布や管理が容易になるばかりでなく、利用回数などを把握することが可能となり、施策効果の分析をすることもできます。そのために、都城市の強みでもあるマイナンバーカードを活用することも考えましたが、利用者へのヒアリングで残回数を随時知りたいとの要望やなくしてもすぐに再発行してほしいとの要望を把握することができました。そのため、マイナンバーカードではなく、高齢者の要望に応えることができる磁気カードを使ったシステムを構築することにしたのです。
一方で、子育て施設の入退館管理も同様に、紙管理からデジタル化を図ったのですが、そこでも磁気カードシステムを使うのか?というとそうではありません。子育てということで、利用者は若い世代だから、磁気カードではなくスマホに格納できるQRコードの方がいいのではないか?と施策毎に誰が使うのかを想像し、デジタル化の手法を考え抜いています。
公共施設予約システムにスマートロックを組み込んだ際にも、スマートロックの主流はタッチパネル式である中、タッチパネルに高齢者は慣れていないとの視点でボタン式を調達する、暗唱番号も高齢者等がATM等で慣れており覚えやすい4桁にするなどしています。
このように、ただやみくもにデジタル化を進めるのではなく、利用者の利便性が向上するよう、市民目線で施策を検討することが、市民に利便性を実感いただけるデジタル化に繋がるのだと信じています。
情報発信をすることの大切さ
―デジタル化の取り組みを発信することなど、市をPRする広報活動で心がけておられることはありますか。
デジタル化の取り組みに関しては、1か所で実証実験を行ってから、実証場所を増やしていくスモールスタートが受け入れられやすい場合も多々ありますが、広報の面で考えると一斉スタート、全庁導入とした方が市民に伝わりやすい場合もあります。
最近、港区さんが、行政手続きをすべてオンライン化したというニュースを拝見しましたが、都城市も今年度末にすべての行政手続きオンライン化をやる予定です。
しかし、「何千とある行政手続きの数十個、数百個をオンライン化しました」と発信しても、市民の皆さんには、インパクトやわかりやすさが足らず伝わらないと思っています。
すべての手続きでオンライン化というインパクトがありかつわかりやすい広報発信をした方が、その後の利用率も大きく変わってくるとの思いから、都城市ではすべてのオンライン化にこだわり、全庁的に取り組みを進めています。
また、PRタイムズを他の自治体よりも先に使って情報を発信していたというのも、本市の一つの特色です。
PRタイムズで情報を発信すると、地元以外のテレビや新聞に情報が取り上げられて、それを市民が見て、都城市の取り組みを知っていただくことも多々あります。また、通常のプレスリリースと違い、数か月後に記事化したいという連絡が来るなど、長期間にわたって広告効果がある点も魅力です。これまでは県内をイメージした情報発信を行ってきましたが、PRタイムズで県内はもちろん、県外にも情報を発信することの意義は大きいと思っております。
都城市が薦める、Well-Being指標の読み解き方
―Well-Being指標は、東京や大阪など大都市の方が、全体の指標が大きくなることに関してどう感じていらっしゃいますか?
Well-Being指標の項目をすべて見ていただくと、買い物、飲食、医療、交通などがあるのですが、この項目からもわかるように、Well-Being指標は行政の評価だけではなく、住んでいるエリアの評価に左右されることが多分にあります。そうなると、やはりインフラの整った大都市に小規模自治体は、指標の部分で悪く見えることもあろうかと思います。しかしながら、むやみやたらに他の自治体と指標を比べて、一喜一憂するのではなく、そのまちの特徴・強みを活かしたまちづくりを目指していくことが大切だと考えています。
今後私たちが目指すところは、市民が心から都城市に住み続けていたいと思ってくれるまち、そして今はリモートワークでどこでも仕事ができるから、都城市にいても大きな仕事はできるよね、都城市で仕事をしよう! と市外の人に思ってもらえるようなまちづくりです。もちろん今までも意識してきたことですが、本指標の活用により、より具体的な施策を展開しやすくなるとの期待を持っています。
静岡県の浜松市さんは、Well-Being指標を市民に見てもらうワークショップをされているとお聞きしていますが、Well-Being指標は自治体の白書のようなものだと考えています。そのため、職員はもちろん、市民にも見ていただいて、一緒にまちのあり方を考える機会にできたらいいなと思っています。行政だけでなく、市民、地元企業が力を合わせて、Well-Being指標を上げる取り組みをしていければ、素晴らしい成果が出るでしょう。そして、市民の幸福度を上げるためには、市民との対話、そして地元企業との共創は欠かせない要素なのです。
都城市が考える、Well-Being指標の活かし方
―今後Well-Being指標をどのように市政に活かしていかれますか。
主観指数と客観指数の絶対値も参考にするのですが、ギャップがある部分を重点的に確認しています。客観指数が高くて主観指数が低いのであれば、施策やまちの魅力を市民に知っていただく取り組みが必要だと考えているからです。
各自治体がこの指標を見て、低い指標を伸ばさなければいけないと思ってしまうのではないかと危惧をしています。低い指標を高める施策ばかり行うと、どこも同じようなまちになってしまうように思えるからです。そのため、高い指標をさらに高めるための施策といった、地域の特色を活かしたまちづくりの必要性もあるのではないかと考えています。しっかりと特色を活かしたまちづくりを進めることが、国が構想するデジタル田園都市の実現に繋がるのではないかと考えています。
―デジタル庁の村上敬亮統括官も、Well-Being指標は他の自治体と比べないでとおっしゃっていましたね。
そうですね、ランキングにすること等は厳に慎むべきだと思っており、他自治体の指標を見るときもあくまでも、都城市の特徴を掴むための参考として見ています。例えば、人口規模や産業構造、施策の類似性等が似た自治体を見ることで得られる気付きも多いです。
これまで、私たち市民アンケートは取っていますが、全国的な取組として、細かく分かれた指標が経年で見ていける仕組みができたことは、非常に意義があることだと思います。加えて、年代別・地域別等に細かく分析できる仕組みには、良い意味で衝撃を受けました。指標の活用を進めることで、都城市が講じた施策が本当に市民の幸福に繋がっているのか、施策の評価もより明確になるものと期待しています。
地域経済分析システム(リーサス)等と連携した分析等、分析の幅も今後広げていけると確信しています。
指標の算出についても、客観指標に関して、因子が少ない項目の因子を増やす対応や、主観と客観の全国的なギャップを踏まえて根拠とする因子を変更する等の調整が進んでいくことで、より納得感がある指標となっていくのではないでしょうか。
今後の、さらなる指標の進化に期待をしつつ、都城市がこの指標の活用に係る良事例を創出できるようさらなる研究を進めてまいります。