利用者の約75%が10代~20代の若年層
千葉県柏市が全国に先駆け導入した「悩み相談AIチャットシステム」[インタビュー]

利用者の約75%が10代~20代の若年層<br>千葉県柏市が全国に先駆け導入した「悩み相談AIチャットシステム」[インタビュー]

全国初の取り組みとして注目される千葉県柏市の「悩み相談AIチャットシステム」。専門のカウンセリングAIを使用し、利用者は健康、恋愛、いじめなどの幅広い悩みをパソコンやスマートフォン、タブレットから相談することができる。相談相手がAIという気軽さもあり、利用者の多くが10~20代という若い世代に受け入れられた新しい行政サービスについて、「悩み相談AIチャットシステム」の担当である柏市福祉政策課にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 町田 貢輝)

若年層に受け入れられた新しい悩み相談の形

――福祉政策課の業務内容について教えてください。

主な業務内容としては、地域健康福祉計画、自殺対策計画の策定・進行管理、重層的支援体制整備事業(*1)の制度設計、民生委員・児童委員の業務、また、ラコルタ柏(教育福祉会館)の管理・運営を行っています。

(*1)「属性を問わない相談支援」、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施することで、市町村全体の支援機関・地域の関係者が断らず受け止め、つながり続ける支援体制を構築することをコンセプトにした取り組み。

――自治体では全国初の取り組みである「悩み相談AIチャットシステム」について教えてください。

「悩み相談AIチャットシステム」は、公認心理師が監修したカウンセリングAIを使用したシステムです。パソコン、タブレット、スマートフォンなど、さまざまなデバイスからアクセスでき、24時間待ち時間なしでカウンセリングAIに、健康、恋愛、いじめなどの相談をすることができます。

――「悩み相談AIチャットシステム」を導入しようと考えたきっかけを教えてください。

先ほど福祉政策課の業務として、重層的支援体制整備事業というものを挙げました。この事業の相談支援のひとつとして、「福祉の総合相談窓口」というさまざまな相談を受け付ける窓口を設置しています。市民の方一人ひとりを取り巻く環境は変化しており、相談窓口に来ることが難しい方もいます。そういった方が孤立してしまうことがないように、相談窓口の間口を広げることを目的に、今回の「悩み相談AIチャットシステム」を導入しました。
また、本システムは導入前に実証実験(2023年8月22日~11月21日まで)を行いました。その結果、行政サービスが届きにくい若年層からのアプローチが多かったことも、導入を考える大きな要因になりました。

――実証実験を行った際、市民の皆様からはどのような反響がありましたか? 

多くの前向きな反響を得られました。「悩み相談AIチャットシステム」を利用後、簡単なアンケートに答えてもらいましたが、「AIだから気軽に話せた」「AIに話したことで気分が晴れた」「心が軽くなった」との意見をいただきました。
また、今回システムを開発した株式会社ZIAIの調査によると、平均満足度は82.5%を記録したそうです。
相談者の年齢層も10代が62.4%、20代が15.5%と、相談者全体の7割以上を10~20代が占めたことは、当初想定していませんでした。人には話したくない恋愛や性、いじめなどの悩みを、AIだからと気軽に打ち明けてくれたのは、取り組みとしてもよかったと考えています。

――相談の内容についてもう少し詳しく教えてください。

相談の割合としては、健康やメンタルが20.8%、恋愛や性が20.3%、学校やいじめに関することが15.1%、仕事や職場に関することが6.3%という結果になっています。

10代の相談者が60%以上ということもあり、学生生活で生じる悩みが多い結果に。
若年層の相談割合の多さに、福祉政策課の方たちも驚いたという。

一般的なカウンセリングと同じ方法で悩みを聞く

――「悩み相談AIチャットシステム」は、どのように利用者をサポートするのでしょうか。

本システムは、悩みに対して回答・提案をするのではなく、対面面談と同じように悩みを傾聴することに重点を置いています。悩みに対する同意や、悩みに直面したときあなたはどう思いますか? など、対面でのカウンセリングと同じように、AIによる復唱と自分の気持ちを答えてもらえるように誘導し、利用者の心が軽くなるように、サポートしています。

――「悩み相談AIチャットシステム」を利用する年齢層と、福祉の総合相談窓口を利用する年齢層は違いますか。

違います。福祉の総合相談窓口を利用する10~20代の割合は15%程度ですので、「悩み相談AIチャットシステム」とは利用の割合が逆転しています。
今の10~20代は幼いころからスマートフォンやタブレットなどの、デジタルツールに慣れ親しんだ世代ですので、対面や電話で人に悩みを相談するよりも、AIに相談するハードルが低かったと推測しています。

――先ほどもおっしゃっていた福祉の総合相談窓口の間口を広げるという意味では、「悩み相談AIチャットシステム」は大きな効果を上げていますね。

はい。福祉の総合相談窓口に来てくださる方は30代以上の方が大半で、10~20代の方はなかなか来てくださらないという課題がありました。「悩み相談AIチャットシステム」で、今まで支援が届きにくかった若年層の悩みも拾い上げる、相談できる体制を取ることができたのは、非常によかったです。

――私も利用させていただきましたが、AIが相手ですので、あまりかしこまらずに相談できました。

福祉の総合相談窓口の場合、初対面の人に、対面で悩みを相談するというのは、10~20代の方にとってはハードルが非常に高いと思います。どこまで自分のことを聞かれるのか? 福祉の総合相談窓口には親も連れて行かないといけないのか? など、考えすぎて相談する行為そのものが、新しい悩みになってしまう可能性もあります。AIであれば、そういった部分は考える必要がないので、皆さん気軽に利用してほしいです。

絵文字も使用した明るい文面のため、気構えずに相談できるのがうれしい。

デジタルとアナログ両方を駆使して市民の悩みに寄り添う支援を

――「悩み相談AIチャットシステム」を本格導入するにあたり、変更・改善した部分はありますか。

導入にあたり、大きく変更・改善した部分はありません。実際に利用してもらいながら、相談しやすさ、受け答えの部分のチューニングを行い、より便利に利用してもらえるよう改善していきます。

――個人情報の保護やプライバシーに関して、どのような対策をしていますか。

最初にニックネームの設定はありますが、相談に関しては、個人情報を入力しなくても行える設定にしています。個人が特定されることはありませんので、心配せず利用してください。

――「悩み相談AIチャットシステム」の今後の展望を教えてください。

今後は、「悩み相談AIチャットシステム」と福祉の総合相談窓口を連携させる取り組みをしていきたいと考えています。「悩み相談AIチャットシステム」に相談することで、気分が晴れることが一番ですが、気分が晴れない場合の対面相談や悩みを解決するために適切な支援窓口への誘導など、1歩進んだサポートを受けられる形にしていきたいと考えています。

――「悩み相談AIチャットシステム」を通して、福祉の総合相談窓口の予約などもできるようになると、すごく便利だと思います。

そうですね。行政にはさまざまな問題に対応するための相談窓口がありますが、どこに相談したらいいかわからない方も多いと思います。また、悩みは1つの問題ではなく、さまざまな問題が絡み合っていることが多いので、そういった悩みを「悩み相談AIチャットシステム」が解きほぐしてくれれば、スムーズな窓口案内も可能になると考えていますので、今後強化していきたいです。
福祉事業は、対面し直接話すというアナログ的なことも大切だと考えています。気軽に相談できる「悩み相談AIチャットシステム」と、寄り添った支援ができる対面の両方を駆使して、悩みを抱えた市民の皆様の心を軽くできるように、今後も業務を展開していきます。