福岡県北九州市が進める“書かない”“待たない”“行かなくていい”「スマらく区役所サービスプロジェクト」とは[インタビュー]

福岡県北九州市が進める“書かない”“待たない”“行かなくていい”「スマらく区役所サービスプロジェクト」とは[インタビュー]

北九州市デジタル市役所推進室DX推進課DX推進担当係長の有永健司さん(右)と、同課企画係長の加藤睦美さん(左)

政令指定都市の一つ、福岡県北九州市。減少傾向にはあるものの、2023年10月1日時点での人口は916,241万人と、政令指定都市で13番目に位置している。2021年12月に北九州市DX推進計画を策定。市民サービス提供体制の将来像として、“書かない”“待たない”“行かなくていい”区役所を掲げた。7つの区、7つの区役所を横断して推進するDX化について、北九州市デジタル市役所推進室DX推進課 DX推進担当係長の有永健司さん、同課企画係長の加藤睦美さんに伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)

市民に寄り添い、職員の負担を軽減するプロジェクト

「スマらく区役所サービスプロジェクト」は、2021年度に発表された北九州市DX推進計画を受け、窓口業務を見直すためのワーキンググループを立ち上げたところからスタートする。関係各局が参画し、どのような区役所を目指すのか議論を重ねた。そうして2023年7月、副市長をトップに各局区を横断するプロジェクトチームを立ち上げ、本格的に稼働。「システム標準化も見据えながら新しい区役所窓口を作っていこうと、各区役所の窓口関連部署、市の保健福祉局や子ども家庭局などからメンバーが集結。局長、部長、課長級までを含めた約170名で構成されています」と有永さんは話す。3年後に“書かない”“待たない”“行かなくていい”区役所の実現を目指しているが、できるところから前倒しで進めていきたいという。

まずは“行かなくていい”にフォーカス。昨年度は、通常コンビニに設置してあるマイナンバーカードで証明書交付ができるキオスク端末を、7区役所に導入した。「コンビニ交付の告知はしているものの、使い方が分からないという方がまだ多数いらっしゃいます。コンビニには職員が常駐しているわけではないので、もっと広げていくために、区役所で使い方を伝えていければと考えました」(有永さん)

キオスク端末

オンライン申請にも力を入れており、申請件数ベースでの手続き可能件数は9割に達している。とはいえ、利用率は2022年度で24%。2023年度は利用促進に向けた取り組みを実施した。「オンライン申請などのポータルサイトとして、デジタル窓口というページは用意していたのですが、昨今はスマートフォンを使われる方が主流になっています。当時のページはパソコン画面を想定した形になっていたので、スマートフォンでより見やすく、使いやすく、探しやすくをコンセプトに、2023年12月に『スマらく窓口』に作り替えました」(有永さん)

合わせて「スマらく区役所サービスプロジェクト」の紹介ホームページも作成。そこから「スマらく窓口」へとリンクさせたり、SNSで「スマらく窓口」のPRを行ったりと、広報の取り組みも充実させた。「そのかいもあって、2024年3月の『スマらく窓口』へのアクセス数は3〜4倍ほど上昇しました。オンライン申請に抵抗がない方は、SNSなどをよくご覧になられている方でもあるので、これからもターゲットを絞りながら、より多くの方に利用していただけるように努めていきたいですね」(有永さん)

スマホ講座の様子

一方で、高齢者などスマートフォンをあまり使い慣れていない層に向けては、デジタル・デバイド対策を実施。2023年度は、市内約140館の市民センターでスマホ講座を開催し、延べ約4000人が受講した。「スマートフォンの使い方から、インターネットの利用方法までお伝えしました。またこのプロジェクトは、市民に寄り添うだけでなく、職員の負担軽減も目指しているので、職員からの意見も大いに反映しながら進めていきたいと思っています」(有永さん)

実証実験をもとに進化するオンライン予約構想

実証実験時のスマートフォンのオンライン予約画面

“待たない”の部分では、窓口のオンライン予約を今年度中に実装したい意向だ。すでに2023年度に実証実験を実施しており、手応えを感じたという。「どうしても区役所にお越しいただかなければならない場合があるので、そうした時でも待つ必要がないようにしていきたいと考えています。予約した方が並んでいる方々の間に割り込むというような仕組みではなく、例えば15時から15時10分などというように時間枠を設定する予約システムの導入を考えています」(有永さん)

この予約システムでは、窓口の状況をリアルタイムで把握する職員側での調整も可能だ。「受付から終了までの時間が測れるので、職員が10分間隔の枠を7分でも可能だと判断すると、すぐに変えられるようになっています。常に状況を見ながらコントロールできれば、来られる方のバランスも取れるし、窓口数なども整えることができるでしょう」(有永さん)

区役所に設置された発券機

実証時には、スマートフォンだけではなく、AIを活用した電話予約も受け付けた。実装の場合にも同様の仕組みを予定している。また、番号発券機とも連動しているため、一部の区役所窓口では発券サービスとしてすでに活用をはじめているという。「予約している方は予約時間を目がけて来ていただけるし、予約していない方でもその場で予約すれば、時間までは一旦区役所を離れて用事を済ませていただくこともできます。実証時に実施したアンケートでも、長時間待たなくて済むことが先にわかるので良いと思ったとの声をいただきました」(有永さん)

政令指定都市初となる取り組みも

北九州市DX推進計画では、これまで述べてきたマイナンバーカードの普及促進、行政手続きのオンライン化、デジタル・デバイド対策、丁寧で分かりやすい広報・PRに加え、業務の効率化、それを支えるデジタル人材の確保・育成、テレワークやペーパーレス化の推進による働き方改革などを含む12の集中取り組み項目を定めている。「2023年12月末時点で、マイナンバーカードの取得率は73.5%。証明書のコンビニ交付は、2022年度までの実績で17万枚を超えており、それだけ市民が窓口に来る必要がなくなっているということになるので、かなり効果は上がっていると見ています。行政手続きのオンライン化も進んでおり、一例としては、妊娠届を提出できたり、出産後の予防接種通知が受け取れたりする子育て応援アプリなどがあります。テレワークについては、自治体の業務は、インターネットとは異なるクローズドネットワーク下で行われるため、高度なセキュリティを確保した安全なモバイル端末を導入して、職員がどこにいても仕事ができるよう環境づくりをしています」と加藤さん。

2021年度には100%の回収率で業務調査をし、BPR(業務改革)にも積極的に取り組む。セキュリティ担当ラインの新設(政令指定都市では初)や、ローコードツールの導入も特筆すべき点だ。2023年11月より全職員にローコードツールのアカウントを配布し、システムの内製化が可能な環境を整えた。「2023年12月時点で226のシステムを内製化しており、6万9700時間の年間作業時間を削減。効果を実感しています」(加藤さん)

変革しやすい風土づくりを

2023年10月には、DX人材育成プロジェクトを立ち上げる。市役所内全課(約350課)からDX変革リーダーを2人ずつ選出し、その合計約750名に研修を受講してもらっている。また、全職員向けの研修も主にオンラインで実施。連携協定を結んだIT企業数社から研修プログラムを提供してもらったり、民間の状況をレクチャーしてもらったりしながら進めているという。

ブロンズ(DXを活用する全職員)、シルバー(各職場のDX実行人材)、ゴールド(市役所全体のDX戦略人材)の3層に分け、それぞれにアプローチすることで、効果的な人材育成を目指す。2023年度はブロンズとシルバー向けの研修をスタート、2024年度はゴールドにも広げる予定だ。ただし、それぞれの層に何をどのレベルまで学んでもらうのか、設定が難しいと感じているそう。また、シルバー約750名もレベルがまちまちなので、同じ研修を受けても満足する人と物足りない人が生じている点も否めない。「それでも、DX人材を育成するという方向性は間違っていないと思うので手探りで進めているところです。シルバー・ゴールドメンバーが3年間で2400人育てば、全職員の約3分の1がDXを実行できる人材になりますから。ワードやエクセルのように、ローコードツールもいずれ誰でも使えるのが当たり前になって、各職場で自律的にDXに取り組める環境ができたらいいなと思っています」(加藤さん)

有永さんは、「研修を通して知識や技術を得ることで、DXを使ったさまざまな変革を進めてほしい。そのいい事例がどんどん生まれてくるようサポートするとともに、変革しやすい雰囲気づくりも大切になってくるでしょう」と続ける。

人材確保の部分では他にもデジタル専門人材枠を設け、IT企業などで5年以上働いた経験がある人を採用しているほか、総務省の「地域活性化起業人」制度を活用して、民間からの人材を受け入れている。

単純なデジタル化ではなく、面で捉える

テクノロジーの進歩に伴い、市民と接する場所は窓口、オンラインと多様化している。区役所に行かずに簡単に手続きができる “行かなくていい”を目指しながら、デジタルに不慣れな人をどうフォローしていくか。「どうしても区役所に来る必要がある方もいらっしゃいますので、窓口で“書かない”“待たない”場面を増やせるよう、トータルで見ていきたいですね。『スマらく区役所サービスプロジェクト』は、さまざまな事象を点で見るのではなく、点と点をつなぎ合わせた面で捉えて進めていかないと。昔ながらの手続きをデジタル化するだけでは何も変わらないと思うんです。オンライン化するのであれば、関連するフローも見直しながら、丁寧に進めていきたいと考えています」(有永さん)