「3ない窓口」の実現が、デジタル行政の肝-TKCが語る自治体窓口デジタル化への取り組み[インタビュー]

「3ない窓口」の実現が、デジタル行政の肝-TKCが語る自治体窓口デジタル化への取り組み[インタビュー]

市区町村自治体において、窓口のオンライン化が進みつつある。該当の領域におけるITソリューションベンダー最大手の株式会社TKC地方公共団体事業部 営業本部副本部長の吉澤 智氏に、自治体が取り組むデジタル化を支えるソリューションの導入状況や、その背景の動向について、お話を伺った。

(執筆:デジタル行政 編集部 野下 智之)

必要なのは「書かせない」、「待たせない」、「来させない」

―貴社の行政サービスオンライン化支援のお取組みについてお聞かせ下さい。

市町村においては、様々な手続きがありますが、申請に基づいて許認可をしたり、給付をしたり、場合によっては証明書を発行したり交付したりというように、市区町村の仕事の多くは住民や事業者からの申請に基づいて色々なことが行われています。

これらを大きく分類すると、オンライン化が出来るものと、出来ないものとがあるといわれています。これは、法律上の問題や業務プロセスの特性などが理由となります。

現時点で完全にオンライン化できないものとしては、住民異動にかかる申請手続きがあります。

一方で、役所に行かなくても手続きが出来てしまうものはこの先全てオンラインで完了させてしまえばいいのではないかというのが、行政手続きのオンライン化に対する基本的な考え方です。しかし、すべての住民や事業者に行政サービスの利便性を実感してもらうには、デジタルデバイドへの配慮も必要です。

そのため、オンラインで出来る手続きを全てオンライン化することで住民や事業者を窓口に“来させない”ようにするとともに、窓口で手続きをする場合についてもデジタル化を進めることで申請書を“書かせない”、窓口で“待たせない”ようにしていかなければいけない――つまり「書かせない」、「待たせない」、「来させない」という「3ない窓口」の実現がデジタル行政の肝であるというのが私どもの考え方です。

そのためには「住民や事業者の利便性向上」と「窓口業務の効率化・最適化」の双方を一緒に実現することが不可欠です。ここで重要となるのが基幹系システムとのスムーズな連携で、当社ではこれを実現する「行政サービス・デジタル化支援ソリューション」を開発・提供しています。

-具体的にはどのようなソリューションを提供しているのでしょうか?

手続きの検索から、署名、決済、交付まで行政サービスの一連の流れをオンライン上で完結する「スマート申請システム」と、窓口業務のデジタル化を支援する「かんたん窓口システム」の大きく二つが挙げられます。スマート申請システムは2020年8月に提供を開始しました。かんたん窓口システムについては2018年8月に提供を開始しました。これらを組み合わせることで、「3ない窓口」を実現することができます。

そしてこれらの行政サービス・デジタル化の基盤となるのがマイナンバーカードであろうということで、その普及拡大と利用促進を支援する「マイナンバーカード交付予約・管理システム」も提供しています。

優先順位をつけて進められる、手続きデジタル化

-導入事例について、お聞かせください

沢山の導入事例がありますが、例えば手続きの申請書を「書かない窓口」を実現した事例としては、栃木県真岡市様の事例があります。同市では新庁舎の建設を機に市民サービスの向上を図るため組織横断によるプロジェクトチームを立ち上げて検討を重ねた結果、当社のかんたん窓口システムを採用されました。特に同市は当社の基幹系システムを長年利用されており、双方を連携することで窓口改革を実現されています。

奈良県奈良市様では、かんたん窓口システムを活用して、死亡手続きに特化した「おくやみコーナー」を設置され、ワンストップサービスを実現されています。これにより半日かることもあった死亡手続きが一つの窓口で40~50分ほどで完了できるようになり、遺族の方の利便性向上につながっています。

茨城県筑西市様においても、各種行政手続きのデジタル化の先陣を切って2020年3月からかんたん窓口システムを活用した「おくやみ手続支援窓口」を開設し、必要な手続きの案内と、それらの申請書作成を補助するサービスを開始しました。

「来させない窓口」という点では、大阪府大阪市様の事例があります。実は、当社のスマート申請システムの開発にあたっては、大阪市様にご協力いただきました。

大阪市様では2025年度までに1500手続きのオンライン化実現を目指して、スマート申請システムを活用してさまざまな手続きのオンライン化を進めておられます。

その一例が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた営業時間時短協力金の支給申請で、現在の利用率はほぼ100%となっていると伺っております。

市区町村により異なりますが、一般的には市区町村における手続き数はおよそ3,000から5,000に及ぶといわれております。このうち全ての手続きがオンラインに向いているかというと、向いていないものもあります。大阪市様においても、約3400件ある手続きの中には年に数回しか利用されないものもあるとのことで、最終的には全てをデジタル化することを見据えつつも、優先順位をつけながらオンライン化を進めていかれるとのことです。

大阪市様では、2021年4月時点で431の手続きがオンライン化されています。以前の電子申請サービスでは、手続きの種類ごとにばらばらに申請を受け付けていたそうですが、スマート申請システムを活用して「大阪市行政オンラインシステム」として申請手続きのポータル画面を一つにまとめました。

また、このポータル画面から目的や住所などの属性に応じた検索も可能にするなど、利用者の方がまた使いたくなるように工夫しています。

コロナ禍で前倒しされるデジタル化

-自治体の導入の流れについてお聞かせください

行政サービスのオンライン化は、これまでにも多くの市区町村が公共施設の予約など厳格な本人確認が不要な分野で電子申請サービスを提供していました。それが2019年5月のデジタル手続法の施行により、マイナンバーカードが個人認証の方法として認められたことが大きな転換点となりました。これにより、住民の方が来庁しなくても、オンラインで申請手続きを受け付けられるようになったわけです。

加えて、コロナウイルス感染拡大が、自治体による行政サービスのデジタル化、オンライン化推進に弾みを付け、昨年12月25日には総務省が『自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画』を公表し、2026年3月末までを推進期間として〈地方自治体の業務システムの標準化・統一化〉〈マイナンバーカードの普及促進〉〈行政手続きのオンライン化〉などへ重点的に取り組むことを明言しました。現在、各団体が計画を推進されており、情報システム部門と関係する部門を統合した専門部署の新設も相次いでいます。

コロナ禍にあって、住民の方にいかに来庁をしていただかないで手続きをしてもらえるかということが緊急の課題であると認識されている首長も多く、人口減少に伴う職員数の減少に備えた窓口業務改革と合わせて、行政手続きのデジタル化・オンライン化の検討は急速に進んでいくと見ています。

実際、そのような動きを受けて、当社システムへの問い合わせも急増しています。

-注目されている国の政策動向についてお聞かせください

国が基幹システムの仕様を統一し、期限までに国の用意するクラウド環境(Gov-Cloud)に移行することについて、当社のビジネスに相当大きな影響があることを想定しております。

これまでは各団体が創意工夫の下、色々と使い勝手を良くするため、便利な機能をつけてきました。それにより多種多様なシステムが出来、カスタマイズによりコストが高止まりしているといわれています。しかし、それは大規模団体など一部の団体の話で、多くの市区町村ではパッケージシステムをノンカスタマイズで利用することで、これまでもコスト削減に努めてきました。

当社としては、従来から全国の市区町村が単一のパッケージシステムをノンカスタマイズで利用できること――という発想に立ち、まさに標準化されたシステムを提供してまいりました。当社の基幹システムの採用団体は現在160団体を超えていますが、全て同じパッケージが利用されております。

国が進める「業務システムの標準仕様」については、当社としてもしっかりと対応していこうと考えております。具体的には、標準仕様に完全準拠する次世代版システムの開発に着手しました。Gov-Cloudへの円滑な対応も図り、全ユーザーを対象に 2024年度から順次新システムへの切り替えを予定しています。

また、当社の強みである基幹系システムと行政サービス・デジタル化支援ソリューションの連携を一段と強化するとともに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を意識した新たなシステムやサービスの調査・研究にも注力する考えです。