商店街×富士山の風景がインバウンドや若者を虜にする山梨県富士吉田市。街に人を循環させる仕組みづくりがスタート[インタビュー]

商店街×富士山の風景がインバウンドや若者を虜にする山梨県富士吉田市。街に人を循環させる仕組みづくりがスタート[インタビュー]

山梨県が進める「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」は、リニア開通に先駆けて“選ばれる街”を目指し、全国の企業から企画を募集して、地域の課題解決や魅力づくりのための実証実験を行うというもの。最先端技術やサービスを有するスタートアップを含め、さまざまな案が採択されてきた。今年2月に実施されたのは、スカイファーム株式会社(神奈川県横浜市)がエナジェティックデザイン株式会社(東京都港区)とともに提案した「街の活性化 プラットフォーム構築プロジェクト」である。山梨県 知事政策局 リニア未来創造・推進グループ ビジョン・未来創造推進担当の高村致徳さんに、その概要と期待値について伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 手柴 史子)

人やものが循環するフィールドを活かす

本町通りからの眺め。夕方も美しい

富士吉田市の中心部を通る本町通り。通りに沿うように並ぶ商店街を今、多くの外国人が訪れている。昭和レトロな街並みと、通りの先に見える雄大な富士山とのコンビネーションが、彼らを惹きつけている理由だ。この商店街を実証実験の場として、①富士吉田市の特産品をリアル店舗(ポップアップストア)とECサイトで販売、②地元飲食店から宿泊施設へのオンラインによるルームサービスを行った。

採択に至った背景を、高村さんは次のように話す。「スカイファームさんのOMO戦略がどれくらい商店街の活性化につながるのか、非常に興味を持ちました。空き店舗の有効活用、インバウンド対応としてもこのプロジェクトはマッチするのではと」
山梨県の空き家率は全国トップであり、富士吉田市の商店街も半分ほどが空き店舗になっているという。一方で、海外からの観光客には人気が高い。いずれにも効果をもたらすかもしれないと考えたのだ。「もう一点、県全体で見てもこの場所は人や新しいものが循環するいいフィールドだと思っているので、すばらしい実証実験になるのではという期待感がありました」と続ける。

約2週間で130万円近くを売り上げる

ポップアップストア外観

ポップアップストアは、市内にある富士急行線の駅2か所(下吉田駅・富士山駅)に併設する形で設置。いずれの駅からも商店街は徒歩圏内だ。「最初は商店街内の空き店舗を考えていたのですが、ハードを整えるのは時間的にハードルが高かったので、一定期間カフェとして使われている場所など、駅近くを選定しました」
オペレーションには市役所や、市のイベント運営などを手がける地元の合同会社OULOのスタッフも入ってくれた。取り扱う商品に関しても、市に全面的にバックアップしてもらったという。ふるさと納税の返礼品関連事業者(数十社)から、御朱印帳、ミネラルウォーターやコーヒー豆といった飲食物、小物、アパレル関連品などまで、充実したラインナップが集まった。「富士吉田市は県下でふるさと納税の返礼率が高く、全国的に見ても実績があります。商品としての価値が高いものを置かせて頂けたと思っています」
結果、2月10日から2月25日までの間で、トータル約130万の売り上げになった。「実際に1日あたり10万円に迫るような売り上げが出せたのが、やはり今回やってみて一番良かったポイントですね。思っていた以上の数字で驚きました」
来場者は9割以上が海外の方で、特に事前告知をしなかったにも関わらず、お土産感覚で購入する姿が目立った。

富士山をイメージしたものが特に人気だった

ルームサービスは、地元のゲストハウス FUJIクロスゲートに協力してもらった。スカイファームのモバイルオーダーシステムNEW PORTに商店街の飲食店情報を掲載し、宿泊者が注文するという流れだ。「3店の飲食店にご参加頂き、期間中に数件のオーダーがありました。理想としては、ウーバーイーツのようにゲストハウスまで届けたかったのですが、富士吉田地域にはそうしたシステムがないのでなかなか難しく、できたものを取りに行ってもらう形にしました」

ゼロスタートで現地を巻き込んでいく

商店街を起点にすることは提案にあったものの、具体的な場所や事業者はまったく決まっていない状態からのスタートだった。「スカイファームさんには、一軒一軒飲食店を回ってもらったり、事業者さんを訪ねてもらったりと、幅広く動いてもらいました。市役所にも相談しながら、足を使って飛び込み営業にも行きました。そうして多くの方にご協力頂けたのは、本当にうれしいことです」
スカイファームからも、市役所の方に精力的に動いてもらえたことが大きかったという声があった。「地元の皆さんの協力や信頼がないと実現しない内容でしたので、ふるさと納税を通して市と地元の関係が築けていたことが、想定以上の結果を生んだのだと思っています」
ふるさと納税の返礼品そのもののPRにつながった、商店街の活性化としても一定の成果を見ることができたと、市からもポジティブなコメントが寄せられている。また、商店街の店舗にはポップアップストアのチラシを飛び込みで置いて欲しいとお願いしたところ、6店舗ほどがその場で快く受け入れてくれるなど、好意的な反応があったそうだ。

ECサイトが商品価値を伝えるカタログに

ECサイトトップ

ポップアップストアと並行してECサイトも立ち上げたが、100%がリアル店舗での売り上げとなった。「ECサイトが全然機能していなかったのではという印象を受けられると思うのですが、オーダーこそなかったものの、多言語(英語・中国語・日本語)に対応していたため、商品の価値をしっかりと海外の方に伝えられたという意味で、非常に大きな役割を果たしたと考えています。ふるさと納税はストーリーを大事にしてブランディングしているという背景がありますから」

ポップアップストアでの接客の様子

ECサイトは、接客の場面でも活用された。言葉がしゃべれないと、商品の魅力は伝えられない。だが、「商店街全体としてインバウンド対応がなかなかできていない中で、EC内の情報を使ってストーリーを説明しながら販売することができた、うまく商品価値が伝えられたと、売り手の方から伺っています」
ECサイトからの購入がなかった要因には、商品が自宅に届くというサービスが国内に限定されていたためではないかと、高村さんは分析する。また、ポップなどを使ってECサイトに誘導するアイデアがもっと出せれば、売り上げにつなげることができたのではとも話す。

コミュニケーションも循環させる

ポップアップストアでは、丁寧な説明が添えられた

「この事業は地元との信頼関係の構築が非常に重要。今回は市に全面的にフォローして頂きました。また、県外の企業が現地に足しげく通うのは大変だったと思いますが、スカイファームさんにも毎週山梨に来て、市役所や商店街の方との関係づくりに尽力して頂きました。ただし、仮に今後、富士吉田市以外の場所で横展開していくとするならば、進め方のカスタマイズが必要になってくると感じています」
スカイファームでは今後、山梨県の他の観光地での展開も視野に入れている。「加えて、富士吉田市の商店街とも一定の関係値ができたので、今回は一部に限られていた店舗をもう少し広げていくことも検討されています」
空き店舗でのポップアップも想定はしているが、実証実験の気づきとして、駅やバス停など、人が流入してくる場所にデジタルを導入することによって、相互送客が生まれる可能性が見えてきた。下吉田駅、富士山駅にはバスツアーで多くの観光客がやって来るのだが、滞在時間は1時間ほど。ECサイトで商店街をもっとアピールできれば、ツアーのパッケージに組み込まれるだけでなく、観光体験も向上することが見込まれる。「駅の待ち時間にちょっとECサイトをのぞいてみて、そこに商店街が反映されていれば、街の玄関口から街の中に流していく形にできる。空き店舗を中心にとこだわるより、タッチポイントにフォーカスしていくことも考えられています」

県の実証実験としては一旦終了するが、これからもスカイファームとの関係は続けていきたいという希望とともに、今回の縁を継続して大切にし、さらに輪を広げていってほしいと望む。「そこに、事業の意義があると思っています。サービスが街全体に浸透し、最終的には商店街全体に観光客が流動するようになって売り上げが上がっていくところまで実現するのが最高の形ですね」
 
市が密に事業者とコミュニケーションをとり、それに対してスカイファームは感謝を伝える。そうしたいいコミュニケーションの連鎖が、満足のいく成果に結びついた。「市には他の業務もあります。負担をかけてしまった部分も大きかったでしょう。それでも、市全体を見た時にはプラスになるサービスだと思ったと言って頂きました。これからはスカイファームさんと市や商店街が直接タッグを取り組んでいかれることを期待しますが、県としてもできる限りフォローしていくつもりです」

商店街×富士山の風景は、TikTokやInstagramの投稿によって、インバウンドのみならず若者も呼び寄せているという。しかし、リニアが通るだけで、人が集まるとは言い切れない。単なる中間駅にならないように、「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」で、山梨を訪れるきっかけづくりを続けていく。

山梨県 知事政策局 リニア未来創造・推進グループ ビジョン・未来創造推進担当の高村致徳さん