富山市とunerryが、中心市街地の移動とイベントの賑わいを人流ビッグデータで「見える化」<インタビュー編>

富山市とunerryが、中心市街地の移動とイベントの賑わいを人流ビッグデータで「見える化」<インタビュー編>

富山市役所 活力都市創造部 まちづくり推進課 中心市街地活性化推進係 課長代理 佐伯哲弥氏

月間400億件超の人流ビッグデータを蓄積するunerryのリアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank」は、自治体における課題解決にも活用されている。

本記事では人流ビッグデータを活用し、富山市中心市街地の徒歩移動の実態評価やイベントの賑わい評価などに取り組んだ富山市役所 活力都市創造部 まちづくり推進課 中心市街地活性化推進係 課長代理 佐伯哲弥氏に、取組みを通して得られたことや今後のデータ活用などについてお話を伺った。 

分析結果についてはこちら

記事提供:株式会社unerry

歩行者交通量では困難だった、徒歩移動距離と「賑わいの質」を評価可能に

――「まちづくり」にあたり、本取組みの前に感じていた課題はありましたか?

富山ライトレール

富山市は平成19年2月に国から「中心市街地活性化基本計画」の第一号認定受け、これまで「公共交通の利便性向上」、「賑わい拠点の創出」、「まちなか居住の推進」の三本柱を中心とした政策に取組んでおり、現在はコンパクトシティの更なる深化に向け第4期目の計画を遂行中です。これまでも施策実行と効果検証は行なってきましたが、検証手法は人がカウントする歩行者通行量調査が主でした。そのため各地点の通行量は把握できても、どこから来て、どのルートを辿りどこまで歩いているか、という移動に関する検証ができていないという状況でした。また、歩行者通行量からは、同じ場所にどれくらい滞留しているのか?という点も把握できません。人々がただ通り過ぎるのではなく、街中に留まるということは、買い物をしているとか、公園で家族と遊んでいるとか、何らかの経済活動など質の高い時間を過ごしていると想像されます。頭数だけではそうした「賑わいの質」の評価ができないと感じていました。

――今回の取り組みを通して、どんなことが得られましたか?

サクラセントラム

集客を目的とした賑わい創出に関する事業は、実行して終わりというケースが多いのも実情です。しかし今回は運営側の狙いに対して、移動距離やその手段、滞留も含めてどれ程の効果があったのかが明らかになり、次回に向けての具体的な方策のヒントを得られました。『MACHI MEGRI』は広いエリアの中に数多くのイベントを点在させる形で開催しました。“600mの壁”解消には効果が見られましたが、イベントスペース間の回遊にはさらに改善の余地があると感じられました。イベント数を充実させるだけでなく、簡単にイベントスペース間を移動できる仕組みやイベント同士に繋がりあるストーリーを持たせることができれば、各会場を移動しながら楽しんでいただけるなど、街全体をイベント会場としたスケール感のあるイベントにできるのではないかと考えました。

私自身の経験という点でも本取組みはとても貴重な機会でした。unerryのご担当者と本件をご一緒する中、たとえばそのデータは絶対的な視点で見るべきなのか、それとも相対的に考えるべきなのかという視点の違いや、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)のノウハウを学ぶことができました。富山市ではコンパクトシティの実現を目指す中、データ活用にも力を入れていきたいと考えています。しかし、実際にはデジタル人材の不足が課題です。行政マンとして、データを扱う経験やノウハウを得られる機会は大変価値があり、今後も施策に還元していかなくてはと思いました。

報告会ではステークホルダーの関心の高さを実感した

――検証レポートは、どのように活用されましたか?

今回の検証結果については、青年会議所のメンバー約200人の前で報告会を実施しました。みなさん非常に興味をもってくださって、質問はたくさんあがり、その後の発展的な議論にも繋がったと思います。レポートの一部は地元新聞紙にも掲載されており、市民も含めてこの分野への関心の高さを感じました。

――今後、佐伯様がデータ活用でやってみたいことを教えてください。

富山市が描く次の20年のためには、街を常に分析可能な状況にしておくことが重要だと考えています。人流データと地価、業種・出店数、売上など、さまざまなデータを重ね合わせ、中心市街地への投資効果や賑わいの質について検証してみたいです。

また今回の取組みから、課題を立体的に捉える重要性に気づきました。データを通じて全体を俯瞰し、さまざまな視点、角度で街の状況を分析することで、目の前にある課題に対する断片的な方策だけにならないようにすること。課題設定そのものの精度を上げ、政策の方向性を誤らせないことが何より重要だと感じています。人流データや公共交通機関の乗客数、歩くことや公共交通の利用でポイントがたまるスマートフォンアプリ「とほ活」の歩数データなど、街のデータの蓄積は進んでいるので、それらを組み合わせた立体的な分析を実施できればと思います。

スマートフォンアプリ「とほ活」

[取材日] 2023年9月26日 ※記載内容は取材当時のものです。