富山市とunerryが、中心市街地の移動とイベントの賑わいを人流ビッグデータで「見える化」<分析編>
富山市<立山連峰を臨む特等席>
月間400億件超の人流ビッグデータを蓄積するunerryのリアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank」は、自治体における課題解決にも活用されている。
本記事では、コンパクトシティ戦略の深化に向けて継続的に施策を実施している富山市と、unerryによる富山市中心市街地の徒歩移動の実態評価やイベントの賑わい評価など分析結果を紹介する。
記事提供:株式会社unerry
ダイナミックな景観に囲まれる富山市
富山市は富山県のほぼ中央から南東部分までに位置する約1,200k㎡、人口約41万人の都市です。水深約1,200mにも及び豊富な魚介類を育む富山湾から、3,000m級の山々が連なる北アルプス立山連峰までが約30km内のエリアに併存するなど、起伏の激しい非常にダイナミックな自然景観は、訪れる人々を魅了する。
また都市部では日本初の本格的LRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車)である「富山ライトレール」が市民生活の足として活躍しており、温室効果ガス排出削減に資するLRTは「環境モデル都市」である同市の象徴的存在にもなっている。
「ウォーカブルなまちづくり」に重点
富山市では、多様化する住民のライフスタイルへの対応に向けて公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり「お団子と串の都市構造」を基本方針とし、施策の3本柱「公共交通の活性化」「公共交通沿線地区への居住誘導」「中心市街地の活性化」を展開している。
また同市では高齢社会への対応や脱炭素に向けた取組みとして中央市街地における「ウォーカブルなまちづくり」に重点を置き、「富山市歩くライフスタイル戦略」を策定。都市アセットの活用や主要導線へのベンチ設置、歩くことを楽しめるイベントの実施といった街中の回遊性向上を図る施策を展開し、自動車に依存した生活から歩くライフスタイルへの転換を促している。
※本記事は、unerryがpublic dots & Company社とともに支援した、環境省「令和3年度 移動データを活用した地域の脱炭素化施策検討業務〜データ駆動型脱炭素まちづくり〜」および「令和4年度人流データを活用した脱炭素まちづくりのための支援ツール(脱炭素まちづくりダッシュボード)(仮称)作成に係る調査検討委託業務」における富山市への支援内容から一部を抜粋して紹介する
中心市街地への来訪者は、到着地点から「600m付近」を境に徒歩移動が大きく減少していた
中心市街地における2大集客エリアである富山駅前と「グランドプラザ」間の徒歩での回遊を増やすことをテーマ(「中心地の活性化」と「ウォーカブルな街づくり」)に掲げる中、令和3年度に実施した人流データによる検証調査では、徒歩移動の限界点=“600mの壁”が存在することが顕在化した。
「富山駅前」「グランドプラザ」に車で訪れた人を対象に、来訪後にどの程度の距離を徒歩移動しているかを調査した結果である。600m付近を境に徒歩移動が大きく減少していることが分かる。地図上で可視化したところ、松川周辺の市役所・県庁、城址公園・桜木町エリアがちょうど富山駅・グランドプラザの両方から500~600m地点となっていることが分かり、このエリアの回遊性を高めることが南北の徒歩回遊の促進に繋がることが示唆された。
またスポット来訪後の移動交通手段の距離別分析でも、徒歩割合は500~600mで減少することが明らかとなった。
本調査では、unerryの「Beacon Bank」と連携するスマートフォンアプリを利用するユーザーにおける利用許諾済のGPSデータを活用した。データソースより抽出した条件数等は以下の通り。
対象期間:2021年5月~9月 / 抽出人数: 車での中心市街地来訪者数 来訪人数(ユニーク) 18,552人 のべ来訪人数:137,247人
『MACHI MEGRI』イベント中は徒歩移動の距離が増加 賑わい指数は普段の週末よりも1.5倍程度、増加した
『MACHI MEGRI』とは?
『MACHI MEGRI』は令和4年10月31日〜11月6日に富山市で開催された、まちなかをめぐる都市型フェスティバル。富山駅、グランドプラザ、環水公園、城址公園といった富山市中心市街地における賑わいの拠点となるスポットでトークイベントやマルシェ、音楽ライブなど、さまざまなイベントが行われた。
”600mの壁”は『MACHI MEGRI』においてどの程度解消されたのか?スポット来訪後の移動距離別の交通手段割合を見ると、「富山駅周辺」への来訪者は普段の週末と比較してどの距離帯においても徒歩割合が増えている。また「グランドプラザ」の来訪者は、「〜600m」で普段32%程度が徒歩割合であるのに対し、イベント時には49%以上が徒歩になっているなど、普段よりも歩いて移動する範囲が広がっていることがわかる。1,000m以上の徒歩移動も増加した。
来訪人数で表現しにくい「賑わい」は滞在時間で可視化。来場者の居住地や回遊状況も明らかになり、次年度以降の方策のエビデンスに
「賑わい」の可視化 (ヒートマップ)
市街地の人流をヒートマップで可視化し、特に人が増加した(賑わった)スポットを分析。赤色ほどより多くの人の移動を示しており、普段の週末と比較して 『MACHI MEGRI』 期間中は駅周辺、城址大通り、グランドプラザ周辺の反応が顕著である。
賑わい指数(総滞在時間)
中心市街地への来訪人数と併せて各スポットの賑わいを表す指標として総滞在時間も分析した。来訪者の総滞在時間を普段の週末の平均を1とすると『MACHI MEGRI』 では1.5倍程度またはそれ以上の増加が見られた。
居住地分布/居住地ランキング
イベントに訪れた人の居住地推定を行ったところ 『MACHI MEGRI』 は高岡市、射水市など隣接市からの来訪が多く見られた。一方、県外からの流入は目立たなかった。
主要スポット間の回遊率
イベント主要スポット間の移動を回遊率(基準地点来訪者のうち、同日に比較地点を訪れている人の割合)で可視化。普段の週末と比較してグランドプラザ周辺への回遊が増加。また環水公園からの回遊傾向にも増加が見られた。
本調査では、普段の週末の状況と比較することで、「MACHI MEGRI」のイベント評価を検証しました。各所での本格的なイベント開催は11月3日であることを考慮し、11月3日〜11月6日を調査対象期間としている。比較対象となる「普段の週末」は2022年9月1日〜11月13日の間の土日(連休・雨の日を除く)とした。
富山市担当者へのインタビューはこちらをご覧ください。