「オンライン型アセスメント」で自宅端末から生徒の基礎学力・学習状況を判定―ベネッセとlearningBOXの目指す教育DXの未来とは[インタビュー]
株式会社ベネッセコーポレーションでは、基礎学力と学習状況や進路志向性を測定するアセスメント「スタディーサポート」を提供している。そのなか、同社は学校法人角川ドワンゴ学園の私立通信制高等学校であるN高等学校・S高等学校(N/S高)に対し、生徒の自宅端末からも受験可能な「オンライン型アセスメント」を提供し、2023年度は生徒6,500名以上に対して、自宅端末からのアセスメント実施とデータを活用した進路指導を実現した。オンライン型アセスメントの取り組みや教育DXの未来について、ベネッセコーポレーションの久冨一平氏と種村一識氏、オンライン型アセスメントのシステム開発を担ったlearningBOX株式会社の森和宏氏に話を聞いた。
(聞き手:デジタル行政 編集部 柏 海)
(Sponsored by learningBOX)
※写真左から役職等は下記の通り(敬称略)。
・株式会社ベネッセコーポレーション
久冨一平 事業基盤変革部 部長
種村一識 基盤推進部 処理運用基盤課
・learningBOX株式会社
森和宏 取締役
テスト結果を通じて生徒の苦手分野もサポート
―自己紹介をお願いします。
久冨氏 ベネッセでは「進研模試」など、大学受験対策の模擬試験をメインで担当しています。また、文部科学省のGIGAスクール構想をはじめとして、時代の変化・多様化にも対応を進めていくなかで、当社が展開をしてきたサービスや事業基盤の変革へも取り組んでおります。
種村氏 私は主に高校生向けの模擬試験・アセスメントの企画・開発を担当しています。今回のオンライン型アセスメントについてはlearningBOX社と共同で、紙で提供してきたベネッセのマーク式のテストをどのようにCBT方式(Computer Based Testing。コンピュータを使った試験方式)で提供していくべきか、検討を続けております。
森氏 learningBOX社ではプロダクトオーナーとして、当社が提供するeラーニングシステム「learningBOX」の機能管理を担当しております。
ベネッセさんとはlearningBOXサービス提供開始当時、2016年からのお付き合いとなりますが、2017年以降は取り組みが加速し、2022年には資本業務提携契約を締結したうえで、学校現場での教育データ利活用に向けたCBT化ニーズに応えるサービスの開発・提供を進めております。
―ベネッセの「スタディーサポート」とは、どのようなサービス・コンテンツですか。
種村氏 スタディーサポートは、国語・数学・英語の3教科を対象にしたマーク式のテストで、生徒の現在の学力や苦手な分野を把握し、フィードバックをするものです。
また、学力テストをするだけでなく、勉強時間や学習習慣などの学習状況についてもアンケートをとっています。学力テストと学習状況の結果を組み合わせることで、先生も三者面談の時などに「今の学力に課題はありますが、学習習慣がしっかりしているので今後伸びて行くと思います」など、単純な学力評価だけでは測ることの出来ない視点からの分析やアドバイスも可能となります。
また、事後学習問題を生徒に対して提供しており、スタディーサポート受験後の復習だけでなく、弱点と診断された項目・分野の補強も可能で、先生にご確認いただくだけでなく、生徒に対しても積極的に学習のサポートをしております。
インターネット上でもスタディーサポートの学習講座を公開(URL)
全国各地からオンライン上で受験、即時にフィードバックが可能に
―スタディーサポートをネットの高校であるN/S高においては、「オンライン型アセスメント」として、どのように提供されたのでしょうか。
種村氏 生徒の学力および学習状況を分析したうえでフィードバックをする、というサービスの価値はそのままにCBT化をしたものとなりますが、そこにはN/S高の生徒が全国各地の自宅で学ぶ通信制高校であることを踏まえたうえで、様々な機能も追加されています。
テストの中断機能もそのうちの一つで、生徒は生活状況・生活習慣に合わせて受験を中断し、再開をすることが出来ます。また、生徒の学習環境に合わせて、PC・タブレット・スマホなど各デバイスでの受験が可能となっているのも大きな特徴です。
森氏 特に、スマホのみを保有する生徒に向けた「スマホ受験対応」については、非常に大きな課題でした。例えば、国語には長文理解のテストもありますが、テストの長文をスマホ上でどのように見せて、どのように解いてもらうかは、しっかりと検討・検証をしたうえで実装をいたしました。
これらのノウハウについて、learningBOXでは誰でも無料でオリジナルのクイズ・問題が作れる「QuizGenerator(URL)」を2011年から展開しており、テストのスマホ対応における知見が社内に蓄積されていたので、本事業とも非常にマッチが出来たと考えています。
種村氏 オンライン型アセスメントならではの新たな提供価値としては、フィードバックの即時性も挙げられます。紙のアセスメントの場合は、テストの回収および当社からのフィードバックまで、紙での郵送でおこなっているため時間がかかってしまいますが、テストのフィードバックは本来、出来る限り間隔を空けないことが望ましいです。
生徒がテストに挑戦をしたうえで、テスト後には結果を即時に確認し、復習にも取り組み、今後の学習計画にも生かすことができるので、非常にスピーディな形でPDCAを回すことが出来ます。
角川ドワンゴ学園の担当者からは「今回、オンライン型のスタディーサポートに参加できるようになったことで、客観的に基礎学力や進路志向性などを測ることができただけでなく、進路を考えるきっかけになったという生徒の声もアンケートから得られており、大きな手応えを感じています」との声もいただきました。
また、全国のさまざまな学校現場には、不登校生や保健室登校など、教室まで通えない生徒も一定数います。オンライン型アセスメントならば受験の自由度は非常に高く、全ての生徒が平等に同じ条件で受験することが可能となっております。
「オンライン型アセスメント」のイメージ(プレスリリースより・URL)
learningBOX社の開発力が企画・サービスに寄与
―ベネッセがlearningBOX社との業務提携やサービスの採用を決定した理由は。
久冨氏 ベネッセとlearningBOX社は2022年の11月に業務提携を結びましたが、その背景には、learningBOX社で提供されているサービスが、これから当社が進めていくアセスメントのデジタルシフトに必要なサービスだと感じたからです。特に、learningBOX社はサービスの立ち上がりも早く、今回のオンライン型アセスメントにおいても、テスト結果に基づいた評価・振り返りサービスの提供を迅速にご対応いただきました。
また、学校現場は紙から新たにデジタルツールが増えたら、既存の紙教材と一定期間は並行してデジタルツールを利用することが多いですが、その分の追加の予算を用意することは難しいです。ただ、learningBOX社は非常に安価な価格帯でサービスを提供していただいており、そこも現場が予算面でも取り組みやすい状況の実現につなげられる可能性があると感じています。
森氏 当社の特徴の一つには高い開発力が挙げられます。しかし、高い開発力を自負する一方で、実際の教育現場やマーケットには遠い関係にあるため、課題やニーズ、市場を把握することは困難なのが現状です。
そこをベネッセ様は現場の声を聞いたうえで正しく課題やニーズを理解し、それらを企画・サービスに落とし込むことを得意とされているので、我々はそれらを具体的にシステム化するお手伝いさせていただいております。
教育DXは持続可能な形で提供することが肝要
―2019年に「GIGAスクール構想」がスタートしましたが、教育DXの現場の実態については、どのようなご認識をされていますか。
久冨氏 日本教育のDXは大きな転換期を迎えていますが、急激なDX化に伴う学校現場のご負担も非常に大きなものとなっています。
DX化が進んでも従来からの授業形態がいきなり変わるわけではありません。それこそ、先生方は従来の授業をおこないながらも、新しい技術やツール、評価方法なども日々キャッチアップされています。
生徒・児童の学びがDXにより個別最適化されていくことは大事ですが、今後は持続可能な形で先生方のご負担も減らしていかなければなりませんので、そこの支援・ファシリテーションの必要性は強く感じております。
―LMS(学習管理システム)を学校が導入することの重要性については、双方のお立場からどのようにお考えですか。
森氏 通信制高校など、全ての授業がオンライン化されている学校においては非常に高い効果が見込めると考えています。
例えば、生徒自身が生活スタイルに合わせてLMS上で学習やレポートの提出をおこなえば、教員も採点やレポートのフィードバックが出来るだけでなく、生徒の学習状況に応じた学習コンテンツの作成や提供も可能となります。
ただし、LMSは「オンライン上で教育をどのように最適化させていくべきか」という視点は不可欠となるので、ベネッセ様のご協力のもと、現場の声をしっかりと把握したうえで、サービスの開発・提供をしていかなければならないと認識しております。
久冨氏 LMSの基本は児童・生徒の学びをしっかりと管理、そして支援していくことと思います。そして、先生方は児童・生徒個人だけでなく学年・学校全体を俯瞰して見ていくことも必要です。今後は保護者や自治体にまで至るまで、LMSの利用が広がっていくことも想定されます。
そのような未来を見据えながらも、異なる学習教材やツールを使って学んだとしても、最終的には日々利用されるLMSから各種教材やツールへの接続や、学習歴を管理できる形が望ましいですね。学習状況の確認・管理を先生だけでなく児童・生徒自らも可能としたうえで、教育DXの命題でもある、個別最適な学習方法の提案をしていければと思います。
「learningBOX」もオンライン上での採点・成績管理が可能となっている(URL)
今後は教育格差の解消含めて学校現場を引き続き支援
―DXに限らず、今の学校および教育現場が抱える課題については、どのようにご認識をされていますか。
久冨氏 現場の先生方が非常に多忙である、という点に尽きるかと思います。従来の校務が多岐にわたるなか、先生方も目の前の変化に対応するだけで精一杯で、個人の個別最適化までは十分に手が回り切らない状況です。
当社としても、個別最適化への学びはアセスメントや学習トレーニングツール等を含めて支援をしておりますが、そこから更に一歩踏み込んでいくならば、校務の負荷を下げられるよう、今までにない新たな価値を提供していく必要があると考えております。
また、DX化により、取り扱うデジタルデータの種類や数も増えており、それらをいかに安全に管理するか、セキュリティの担保も同時に進めていかなければなりません。当社も模擬試験などを提供してきた歴史のなかで、データ管理には社内でも取り組んできましたので、これからは学校や自治体にもその知見を生かしていきたいと思います。
―最後に、教育事業にかける想いや読者へのメッセージについてお願いいたします。
種村氏 教育のDX化は教育格差を解消するものとして期待されています。その一方、学校の地域性や規模感、通信環境なども様々あり、デジタル化を進めていくことで、新たな教育の格差が生まれかねないとも考えております。
当社でも教育現場が抱える悩みや課題については引き続き、学校・先生方と一緒に考えていきながら、我々が提供する新しいサービスを通じて、あらゆる生徒が適切に学習できる機会に繋げていきたいという想いで日々取り組んでいます。
久冨氏 当社は学校事業を60年以上続けており、学校現場でいつの時代も奮闘されてきた先生方に寄り添いながらも教育領域のサポートをし続けて来た自負がございます。
そのうえで、今後も現場の先生方の良きパートナーとしてあり続けるためにも、ベネッセ自身の変革も進めていきたいと考えております。
森氏 教育に携わる人たちの熱意や情熱については、2016年のlearningBOX提供開始当時から肌で感じており、我々もシステム会社の立場とはなりますが、引き続きの支援をする想いは変わりません。
教育現場にシステムをご利用いただく際のハードルは、「価格」と「使いやすさ」の2点だと考えておりますが、引き続き、learningBOX社では皆さんにお使いいただけるサービスを提供していきたいと思います。