DX先進都市都城市が生み出した、ふるさと納税DX化の取り組みを聞く [インタビュー]
日本のDX推進事例を共有するコンテスト「日本DX大賞2023」で、宮崎県都城市がふるさと納税におけるオンライン申請アプリの取組で最優秀賞を受賞した。
「ふるさと納税のワンストップ特例申請は、これまで寄付者・自治体双方にとって煩雑な作業となっていた」と語る都城市。シフトプラス株式会社との共同開発の末に生まれたアプリ「IAM(アイアム)」によって、それらの課題をどのように解決に導いたのか。
本アプリの取組をはじめ、マイナンバーカード交付率の高さや、ふるさと納税戦略全般について、宮崎県 都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤泰格氏に話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 野下 智之)
マイナンバーカード交付率全国1位を誇る都城市の取組
出典:都城市
―都城市は全国市区の中でマイナンバーカード交付率1位(5月末時点)となっていますが、その秘訣についてお聞かせください
基本的には「申請しやすい環境を作る」、「マイナンバーカードが利活用できる場面を増やす」、「しっかりと伝わる広報をする」という3つをベースに進めていきました。
例えば、市役所や民間施設などに設置した特設ブースに職員を配置して、マイナンバーカードの申請補助をするという取り組みを当初から行っていました。補助は全般的に行っており、その場でタブレット端末を使って写真撮影をし、オンライン申請の完了までを無料でサポートするというものです。
また、社会人の方はそもそも市役所まで足を運びづらいということもあり、職場に出張するという取り組みも開始しました。職員を市内の各企業に派遣しており、出張申請補助はこれまでで2500回以上になっています。
―マイナンバーカードの利活用拡大については、どのような取組をされたのでしょうか
まず前提として、私たちがどこに出張しようが、結局は市民の皆様に「マイナンバーカードが欲しい」と思っていただかなければ申請はしてもらえません。そこで、利便性を高めるための施策をいくつも行っております。コンビニのマルチコピー機にマイナンバーカードをかざすことで、各種証明書を取得できるサービスはその1つです。当市では、2017年4月にコンビニ交付サービスに対応したのちに、2019年10月には市立図書館に、2021年10月には市庁舎内にもコンビニ同様のマルチコピー機を導入しました。場所を増やすとともに、コンビニと同じマルチコピー機を調達することで、場所によって使い勝手が変わらないように注意しました。さらに、コンビニ交付サービスの手数料も半額以下に引き下げることで、料金面でも利便性も追求しました。
ふるさと納税寄付額の躍進に繋がった「肉と焼酎」戦略
―ふるさと納税寄付額に関しても全国でトップクラスとなっていますが、初めから順調な滑り出しだったのでしょうか
ふるさと納税制度が始まってからの数年間は、低空飛行が続いていましたが、2014年度に全国9位に入り、そこからは常に10位以内をキープしています。その中でも2015、2016、2020年度には全国1位にランクインしています。寄付額も毎年伸びており、2021年度は146億円の寄付をいただきました。
―どのようなことが躍進に繋がっていると認識されていますか
成功の理由をよく問われるのですが、1つの答えがあるわけではなく様々なことを複合的に取り組んだ結果だと思っています。ただ、2014年度からふるさと納税の戦略をリニューアルしたことは大きな転換点になりました。池田宜永市長からの号令もあり、地場産業を隔たりなくPRするのではなく「まずは返礼品を肉と焼酎だけに特化させる」という方向に舵を切り、都城市をPRしていきました。
その上で品質にも徹底的にこだわりました。肉に関しては宮崎牛のA5ランクのみを取り揃えました。また、焼酎については市内に本拠を構える霧島酒造に協力を仰ぎ、「黒霧島」だけでなく、プレミア化していた「赤霧島」も返礼品として提供できるよう確保しました。併せて寄付金額に対する還元率を高く設定するなど、価格戦略も同時に進めていきました。
―翌年以降も新たな取組をされたのでしょうか
2年目からはふるさと納税ポータルサイトの分析に努めました。例えば、宮崎牛の再入荷・販売再開をするにしても、そのタイミングが難しいです。平日の日中だと「仕事中」、夜の時間帯だと「食事中・就寝中」、では休日の日中はどうかというと「外出中」というご意見をいただくことがありました。そういった観点から分析を重ねた結果、最終的には土曜日18時の更新が最も寄付者の方々の満足度やリアクションが高いという結論になりました。
マイナンバーカードやふるさと納税の取組に関しては、当市のWebメディア「Think都城」でも詳しくご紹介しているので、ぜひご覧いただければと思います。
【Think都城】
出典:Think都城
―「Think都城」はどういったメディアなのでしょうか
こちらは昨年度にオープンしたメディアになります。企業版ふるさと納税を使ったデジタル事業の一環になります。大体ひと月に2回ぐらいのペースで更新しており、コンテンツの内容は、当市の取組だけではなく、市民の皆様の活動なども広く取り扱っています。それと併せて、メディアリテラシーの向上や「スロージャーナリズム」という概念を市民の皆様にお届けするというメディアのテーマも持ち合わせています。
マイナンバーカードを不安視している方に対しては、「実際にはこういう未来展望もありますよ」といったことをご紹介したり、地方の若者が元気がないという声に対しては、「当市の若い方はこんな取組を積極的にしています」といった記事を提供しています。今後はより一層当市の魅力発信に繋がるような形になっていくことを望んでいます。
寄付者・自治体双方の課題に寄り添った公的個人認証アプリ「IAM」
―今回、日本DX大賞2023で「行政機関・公的機関部門大賞」を受賞した「マイナンバーカードでふるさと納税DX」の取組の背景についてお聞かせください
ふるさと納税で毎年寄付金額が大きくなるのに比例して、ワンストップ特例申請の数も増加している状況でした。ワンストップ特例申請は寄付者にも自治体にも手間がかかる作業となります。寄付者の方は本人確認書類のコピーが必要になり、それらを添付の上でポストへの投函もしなくてはなりません。また、我々は届いた封筒を開封してデータの入力作業をします。その過程で本人確認書類の確認や紙の保管など、様々な雑事が必要になります。こういった制度上、両者に負担を強いる仕組みになっているのがふるさと納税のワンストップ特例です。この課題に対して何かデジタルで解決ができないかということで、シフトプラス株式会社さんと共同で公的個人認証アプリ「IAM(アイアム)」を開発しました。
【IAMを活用したワンストップ特例申請手続きの流れ】
出典:都城市
―「IAM」を利用すると、申請手続きは簡単に済ませられるのでしょうか
マイナンバーカードをお持ちの方は簡単にお使いいただけます。寄付後に届く申請書の中にQRコードがあるので、まずはそれを読み取っていただきます。その後、マイナンバーカードをかざした上で、暗証番号を2回入れるだけで申請が完了します。
―ワンストップ特例申請に焦点を絞った取組ですが、どのような理由があったのでしょうか
今回のケースは、自治体事務の中でも特殊な領域だからこその取組になりました。当市としては、都城市民の方からではない申請を受けるのはふるさと納税ぐらいです。市民の方だと、マイナンバーカードを使った電子署名がついていれば、それがどの市民なのかが分かります。しかし、市外の方は電子署名がついていても、寄附情報とその方の情報が一意とはなりません。そこでまず当市から送ったQRコードを読み込んでいただき、本人の情報と紐付けた上で申請をしていただくというフェーズが必要になってきます。そういった背景から開発を進めていった仕組みになります。
―DX化したことによる効果や、寄付者からのフィードバックはいかがでしょうか
効果でいうと先ほどの課題が全て解決できているという部分は非常に大きいです。寄付者の方は本人確認書類のコピーのためにコンビニエンスストア等に行く必要はありませんし、当然ポスト投函の必要もなくスマホで完結できます。自治体側の視点で言うと、開封から入力、その中で発生する本人確認書類の確認作業、紙の保管が不要になります。両者にとって非常に多くのメリットが生じている仕組みになっています。実際に利用者様からは、「役所のアプリにしては非常に満足度が高い」、「感動した」、「IAMを導入している自治体だけで寄付を固めたい」といった声もいただいており、アプリの効果を実感しています。