「つながる薬局」で健康を選択できる社会を実現する[インタビュー]

「つながる薬局」で健康を選択できる社会を実現する[インタビュー]

株式会社ファーマシフトが展開するLINE公式アカウント「つながる薬局」が急速に利用者数を増やしている。近年改正された薬機法ではオンラインで薬剤師から服薬指導を受ける「オンライン服薬指導」が解禁され、薬剤師が服薬後に患者のフォローアップを行う「服薬フォロー」が義務化された。長く変わることがなかった薬局と患者の関係性は大きな岐路に立たされているといえよう。
同社は薬局事業や訪問看護事業を持つ株式会社メディカルシステムネットワークと、調剤薬局向けのSaaSプロダクトを展開する株式会社RePharmacyが共同出資し、2020年に設立された。薬局運営とデジタル化、両方の側面から業界の変革に取り組む。
「つながる薬局」が急速に利用者数を伸ばした背景には何があるのだろうか。同社代表取締役、多湖健太郎氏に話を聞いた。

(聞き手:デジタル行政 横山優二)

――「つながる薬局」とはどのような特徴をもったサービスなのでしょうか?
LINEで友だち登録をすることで、薬局に関連した便利な機能を無料で利用できるサービスです。「処方箋送信」では病院で受け取った処方箋の画像を薬局に送信することで、待ち時間なくお薬を受け取れます。また、「お薬手帳」でご自身の履歴を管理したり、「健康・お薬相談」では、チャットで気軽に薬剤師に健康相談をすることができます。
2023年6月現在、LINEの友だち登録数は約70万人、薬局側の導入数は約3,700店舗になりました。友だち登録数は1日に約1,000人~1,500人、導入店舗数は毎月約100店舗、増え続けています。

――スマホアプリではなくLINEの友だち登録で利用できるというのは珍しいですね。
数年前からお薬手帳アプリはたくさん存在していました。しかし、その多くは薬局側の目線に立って開発されたもので、患者さまにとって利便性が実感しづらかったのではないでしょうか。「つながる薬局」では患者さま目線での利便性を追求し、LINEを通して従来とは異なるUX(ユーザーエクスペリエンス)を提供することをコンセプトにしました。
LINEは国内で約9,400万人が利用しており、家族や友人から連絡が届くツールとして親しまれています。そこに薬剤師からメッセージが送られて来ることが、「かかりつけ」という関係構築に寄与すると考えました。
お薬に関する情報は、患者さまご自身の大切な資産です。一昨年、LINEでは個人情報の管理体制が問題になりましたが、「つながる薬局」ではやりとりにLINEは使いますが、データは国内サーバーで自社管理するよう、システムを構築しています。


――薬局側にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
最も実感しやすいメリットとして、処方箋の受付枚数が増えることが挙げられます。薬局では経営上の理由からも、より多くの患者さまから選んでいただかなければなりません。「つながる薬局」のご契約店舗からは、患者さまが「つながる薬局」の利用を契機に、これまで他薬局に出していた処方箋も合わせてご利用してくださるようになった、という声が届いています。
集患につながっているポイントはやはり利便性にあります。ひとりの方が便利だと感じると、その家族や友人にもお勧めします。必要な手順はLINEの友だち登録だけなので、お勧めされた方もすぐに利用することができます。そうした利用開始への障壁の低さが利用者増加の要因になっていると思います。

――地域医療への貢献も重視されていると聞きました。
厚生労働省が2015年に発表した「患者のための薬局ビジョン」では、患者さまが病院そばの薬局で薬を受け取っている現状から、自宅近くの「かかりつけ薬局」で処方や服薬管理を受ける姿への転換が示されました。今後、「つながる薬局」では、地域医療での貢献を視野に入れ、多職種連携の機能を強化していきたいと考えています。すでに、患者さまの同意があれば、他薬局や介護施設からもお薬の履歴が閲覧できる仕組みになっています。これを医療機関にも拡大するなど、改善していきたいです。
また、予防・未病を支援するため、OTC医薬品や健康食品を扱うEC事業の検討を始めています。薬局店舗で薬剤師が患者さまの相談にのり、ご購入いただくと後日商品が届く仕組みにします。ECサイトを設けるのみではなく、薬剤師という健康のプロフェッショナルと相談の上で利用いただくことで、より適切に健康に資する商品を選択いただくことができます。また、薬剤師の方々も、調剤や接客ばかりでなく、ご自身の知識を十分に活かした働き方を実現することができるでしょう。

――「つながる薬局」をさらに多くの人に利用していただくには、どのようなポイントが重要になりますか?
機能拡張によって、利用者の体験をさらに改善することが重要です。2023年6月に株式会社オンラインDr.comが提供するオンライン診療サービス「イシャチョク」とのサービス連携を開始しました。これにより、「イシャチョク」で診察をした後に、「つながる薬局」利用店舗をお薬の受取先として指定することができるようになりました。オンライン診療サービスを始める後発企業は今後も増えるでしょう。今後もそうした企業からシステム連携先として選ばれるサービスでなければなりません。
また、薬局の導入数を増やすことで、患者さまの利便性はさらに高まります。大手調剤薬局チェーンでは、複数のお薬手帳アプリを利用できるのが当たり前になってきました。自社開発アプリと他社アプリを併用するケースが増えてきたのです。これまで「つながる薬局」は、メインで利用していただくことを前提にサービス設計をしていました。今後はサブとして利用していただくことも見据えて、サービスを改善していきたいと考えています。

――「つながる薬局」やその他ITサービスを活用し、どのような社会を実現したいと考えていますか?
「つながる薬局」で実現したいのは薬局と患者さまの間に「かかりつけ」という関係を構築することです。これまで、多くの患者さまにとって、薬局は「どこに行っても同じ」存在だったと思います。こうしたサービスをきっかけにご近所に贔屓の薬局を持ってもらいたいです。
当社は「すべての人が健康を自ら選択できる社会を実現する」という企業ビジョンを掲げています。患者さまが病気やケガに見舞われたとき、どのような検査を行い、どのような治療を受けるのか、適切な情報を基に、患者さま自身が判断できる社会を目指します。
これまで日本では、病院にはカルテが、薬局には薬歴情報があるものの、患者さまの手元には自身の健康情報がほとんど残っていませんでした。まずは「つながる薬局」を通して、この状況を改善したいと考えています。
社会に大きな影響を及ぼすためには、取り組みを当社内で閉ざしてはいけません。グループ会社や協力企業、様々な関係者の方々と連携しながら、より良いサービスを提供していきます。そのためにも「ファーマシフトに相談すれば間違いない」と思っていただけるような、安心感のある会社でありたいと考えています。