自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画、改定の概要とポイントとは?-業務効率化のための自治体DX- [インタビュー前編]
令和4年9月2日、総務省より「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画 【第2.0版】」(以下、自治体DX推進計画)が公開された。
社会全体でDX推進が求められる中、行政・自治体においてもDXによる変革が急務となっている。今回、自治体DX推進計画の改定のための検討会にて座長を務めた武蔵大学社会学部メディア社会学科教授 庄司昌彦氏に、改定の概要・ポイントや自治体DXの意義と現状について聞いた。
本インタビューは、前編と後編の2回に分けてお届けする。
(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之/米谷 知子)
自治体DX推進計画の概要と改定のポイント
ー自治体DX推進計画はDX化に向けた取り組みの教科書として位置づけられていると認識しています。この計画は自治体にどのように受け止められているのでしょうか。先生の印象をお聞かせください。
自治体側からすると、デジタル庁関連、マイナンバーカード関連、ワクチン関連など、様々な計画が同時に動いています。そのような状況で、自治体は何をすれば良いのかということについて、自治体にお願いしたい、呼びかけたいDX・デジタル改革についてまとめたものという位置づけです。自治体DX推進計画自体は方向性を示したもので、自治体の皆様には「示された方向性に沿っていこう」ということで、参照いただいていると認識しています。
自治体DX推進計画とは別に、自治体DX全体手順書というものがあります。この手順書では組織づくりや機運づくりなどの内容が書かれており、こちらのほうが教科書的な位置づけでお使いいただけるものかと思います。
ー今回の自治体DX推進計画の改定のポイントを教えてください
私の理解では、改定によって大きく方向性は変わっていません。
自治体DX推進計画の骨組みは一緒で、最初に推進計画を作ったときは菅内閣でしたが、菅内閣が最初に始めた第一弾があり、そこに岸田内閣のデジタル田園都市国家構想やデジタル臨調(デジタル臨時行政調査会)が入ってきました。
第一弾が進んでいくにつれて、「デジタル人材の確保が問題である」という話になってきたため、人材の話は具体的に書き込んでいます。デジタル田園都市国家構想やデジタル臨調については、考え方・哲学を書き込み、今の政権の取り組みの中での位置づけや意義を説明しています。これらが大きなポイントです。
今回の自治体DX推進計画では、「デジタル人材の確保・育成」の記載を最も手厚くしましたが、国からの支援や後押しの記載、外部人材に内部で働いてもらう際の調達の公平性の問題などについても書いています。自治体では、外部デジタル人材のCIO補佐官などがほとんどいないことが明らかになりましたので、外部人材のCIO補佐官を入れても問題ないという考え方を示しているところもポイントです。
自治体DX推進計画の検討会の論点
ー検討会では、人材の話題も含めて意見交換がなされていたようですが、検討会の論点で印象に残っているものを教えてください。
人材については、総務省が「自治体DX・情報化推進概要」の調査結果を紹介していました。外部デジタル人材を活用していない市区町村のうち、活用を検討している自治体や活用未定と回答した自治体に活用の課題を尋ねたところ、最も多かった回答が「外部デジタル人材に求める役割やスキルを整理・明確にすることができない」という回答でした。そのため、検討会では、自治体DX推進に必要とされる人材像を4つに分類し、それぞれの人材像の役割と備えていると望ましいスキルを整理しました。
ポイントの一つに、委員の間で「自主的DX」と呼んでいた考え方があります。自治体DXにおいて国が推進している標準化や手続きのオンライン化、マイナンバーカードの普及が実現すれば自治体のDXが完成するのかというと、そうではありません。
自治体には標準化の対象となっている以外の業務はたくさんあります。窓口の行政手続きの部分だけをオンライン化すれば良いというわけでもありません。自治体内部の業務でテレワークを実施しているかどうかや、紙にプリントアウトしてファイルに入れているなど、DX化により業務効率化が求められることもあると思います。そういった状況について、それぞれ自分自身でDXを考えてほしいということで、“国から言われていることだけではなく自分たちで進めてください”という考え方が「自主的DX」です。
検討会でも、「他の自治体の先進事例をマネするのではなく、なぜそれが必要なのか、どこを目指すべきなのかを自ら考える方向に誘導する必要があるのではないか」という議論もありました。また、自治体幹部の方々にもそういうことを理解してもらう必要があるといった意見も出ていました。
ー自治体の中でも、部局ごとにDXに対する取り組みは違うものなのでしょうか?
もちろん違うと思います。現場レベルでは、ITか何かが動き出すと余計なサービスが入ってきて仕事が増えると考えられがちで厄介者のように扱われると聞いて驚きました。自治体DXがやりたいのは、業務負荷を下げて、効率化することです。
ゆくゆくは公務員も減っていく時代を迎え、人手不足になっていくため、効率化がすごく重要になってきます。デジタル化して忙しくなるみたいなことは本末転倒で、何のためにデジタル化するのかということを各担当部署でも理解しなければいけないし首長にも理解してもらいたい、というような意見も出ていました。
例えば、兵庫県尼崎市でUSBメモリに市民のデータを入れていた事件がありましたが、セキュリティについても基本的なところからしっかり身に着けていく必要があるといった意見もありました。いまやデジタルは、問題を起こすと大問題に発展する程の重要なテーマになっていて、幹部職員の責任問題にも直結するため、幹部職員の関心や理解も大事という話も出ていました。
これは検討会で私自身が言ったことですが、セキュリティを過度に重視して保守的な思考になってしまうと、新しいことをやりたくなくなります。リスキーなことをやるくらいだったら、多少手間がかかるやりなれた方法を選ぶことになりかねません。もちろん、扱うデータや業務を見極めてですが、重要性を鑑みつつ、多少の冒険や試行錯誤ができるようにしないとDXはできないのではないかと意見しました。やってみて問題が起きたら、それを高速で学習して直すというサイクルを回していくことが重要で、間違いが起こらない決められた方法をずっと守るのではなく、よりよい方法を試行錯誤して、PDCAを回してアジャイルにやっていくことが(DXの)本質です。「守る」ことを前提にすると、そのサイクルが逆回転してしまうことを指摘しました。
検討会には自治体の職員の方々も委員として出席していて、今紹介した意見はその委員の方々の意見も混ざっています。検討会に出席している自治体は先進自治体で、そのためかはわからないですが、検討会内では研究者の意識も自治体職員の意識もかなり近かったと感じます。
現場の業務とDX・デジタル
ー自治体の現場でDX推進計画を見ながら業務をしているのはどのような方々なのでしょうか?
自治体DX推進計画を見ているのはIT担当部署や企画部門です。また、自治体によってはデジタルと行政改革をセットにしたような横断的な部署を設置していることがありますが、そのような行政改革部門の方々も見ていると理解しています。自治体DX推進計画は、一般の職員の方々向けというよりは、DX化を推進するうえで、コアとなる方々向けのものです。
ー今回の自治体DX推進計画の改定によって、自治体の職員が現場で業務をするうえで変えていくべきことはありますか?
主任業務担当者レベル、いわゆる現場側でいうと、先程の「自主的DX」の話にもなりますが、”昔ながらのやり方を相変わらずやり続けている”、”なぜ面倒くさいことをやらなければならないのか”、”人手不足で困っている”といった問題などを、自分たちで課題としてピックアップしてデジタルを使いながら改善していくことが重要だと思います。そういう意味では、課題を発見して上司を巻き込んで問題提起していくことが重要です。主任業務担当者レベルではこのような課題発見や問題提起が重要だと思います。
部長・課長レベルは中間管理職層でDXのブレーキになることがあると一般的には言われています。ただ、中間管理職の視点は主任業務担当者とは違っています。改善を重ねた結果、人員削減や予算削減が起こるかもしれないと考えてしまうためです。
そこで、首長や局長のレベルを考えると、現場の問題意識を改善活動に結び付けられるようなインセンティブ設計をしなければなりません。例えばRPAを導入したから人員削減を行う、というようなことをすれば現場のモチベーションは上がりません。業務改革のインセンティブ設計や予算を付けるといったことを考えるのが、首長や局長のレベルになってくるでしょう。
首長は対外的な顔もあります。住民向けにわかりやすく説明するコミュニケーターとしての役割も重要です。
私は、DXは対住民ではなく、内部の業務改革が重要になってくると考えています。たとえば、医師からFAXで送られてきた書類を手入力しているものを効率化して仕事が回るようにしていく、あるいは、内部都合で判子が必要だった書類について、判子を廃止してオンラインでできるようにする。その改革のためには、判子を押さなければいけないというルールを見直すといった大手術をしないといけません。改革の熱量としては、内部に力をかけてほしいですが、とはいえ対外的にも説明・発信が必要です。また、議会でも、内部の人間が楽になるための予算は後回しに、という話があると聞きます。議会も対住民向けのわかりやすいものを求めてしまい、そちらが優先されて内部の人間は残業で頑張れ、と考えがちですが、それも限界に来ています。それらをうまく捌くことを首長や局長に行ってほしいと思います。
ー自治体がDX化を進めていくうえで、あるいは組織内の意識改革をするうえで、地方議会の存在が、プラスに働くこともあるのでしょうか?
もちろんあります。菅前内閣、岸田内閣がデジタル改革を重要な柱にしていますので、基本的に与党は後押ししてくれると思います。
ただし、DX化というのは一時的にはお金がかかります。標準化も、年ごとに対象システムを決めて順番に更新していたものを、あと2~3年で全て標準システムに乗り換えとなると、更新を前倒しするシステムもあるでしょう。国からの補助金も入りますが、一時期にシステム投資が集中して予算がかさむ。それ以外の業務の見直しでも、他のシステムを入れる、Web会議ができるように持ち運びができるパソコンを導入する、Wi-fiを強化するなど、投資が必要になります。冷静に考えれば、Web会議を基本にすることで、移動時間や交通費などを大幅に削減できるはずですが、そこまで見えていないと、なぜこんなに予算が膨らむのか、という話になってしまいます。導入することによるコスト削減の試算が難しいという面もあります。色々な実証事業もあって、ベンダーも色々試算して提案すると思いますが、詳しくコスト削減の金額を提示しろとなると、説得力が十分ではないかもしれません。
ーコスト削減による効果の可視化が求められるのでしょうか?
議会としては、単にIT予算が増えるとなると、他の予算を削減しないといけません。それでも必要な投資ということを説明して理解を得ていく必要があると思います。
ー試算の計算式みたいなものがあると便利かもしれません。
部分的になら試算の計算式はあります。さいたま市で保育園の振り分け業務にAIを導入したら何日もかけていた作業がすぐに終わったという事例がありましたが、これだけの時間が削減できたということは人件費がこれだけ浮いた、残業代が減ったという試算ができます。ですが、それらを積み上げて市業務の全体像を試算するのは難しいです。