神戸市の人材採用と育成から学ぶ、デジタル先進都市のつくり方[インタビュー]
デジタルを活用した取り組みにおいて、常に先端を行く神戸市。神戸市における業務改革や、民間の力も活用しながらデジタルをうまく組み込んだ様々な施策は、各所で事例として紹介されている。
いわば「デジタル先進都市」ともいえる同市をつくる人材は、どのように生まれ、育成されているのであろうか。
その背景や神戸市のデジタル人材育成の新しい枠組みについて、神戸市企画調整局デジタル戦略部部長 森 浩三氏に、お話を伺った。
(聞き手:デジタル行政 編集部 野下 智之)
神戸市が取り組むDXの推進母体
-簡単な自己紹介と、部署のご紹介をお願いします。
神戸市企画調整局デジタル戦略部で部長をしております森と申します。デジタル戦略部はもともと情報システム部門で、庁内のネットワークや、主要なシステムの保守や運用を主要な業務として担っていました。
その後セキュリティーやシステム調達に関するガバナンス、さらにマイナンバー制度の導入と運用、デジタルによる業務改革の推進などの業務が加わり、現在は神戸市全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)のうちの、行政事務のDXの推進および、それにともなう人材育成や組織開発なども担当するようになっております。
私は部長としてこの組織を統括しております。
デジタル戦略部は、大きく分けて本庁と市民への窓口として市内4か所にあるマイナンバーカード交付をする会場としてサテライトオフィスを設けていますが、このうち本庁だけで約50名、サテライトオフィスの人員を含めると70名ほどの規模となっています。
デジタル戦略部が属している企画調整局には、デジタル戦略部が担当する市役所内部業務のDXのほか、オープンデータやEBPMを進める部門と、市民生活や都市経営として「どのようにデジタルを活かしてよいまちづくりをしていくか」というスマートシティに関わる取組みを担当する部門があります。デジタル戦略部は、これらの部門と連携を図りながら、一体になってデジタル化を進めています。
神戸市はDXという言葉が出る前、平成29年から働き方改革の取り組みを始めました。私たちデジタル戦略部や、業務改革課、人事課、組織制度課、給与課などが一つのチームとなった働き方改革推進チームを組織しました。神戸市における業務改革は、このチームが中心となり進めています。
神戸市が先進的にDXに取り組む背景とは
-神戸市は業務や行政サービス全般のデジタル化に積極的に取り組まれているとお聞きしておりますが、その背景についてお聞かせください。
神戸市は今から27年前に阪神淡路大震災を経験しました。震災からの復旧・復興のために、市債を発行して資金を調達せざるを得ませんでした。
このため、神戸市は多額の借金を背負うこととなり、一時は、財政再建団体へ転落するぐらい危機的な財政状況に陥り、厳しい資金繰りを強いられる状況が長く続きました。
そこで、神戸市は厳しい財政再建計画を立てて、厳しい人員削減をしました。その結果、神戸市役所の職員数は平成7年当時の職員数の4割削減が削減され、現在に至ります。
ただしこの間も、役所の仕事は減ることはなく、また制度も複雑になってきますので、だんだんと職員の業務負荷は高くなります。そうすると、今回のコロナ禍が典型的な例ですが、新たな行政課題に対して機動的に対応することが出来なかったり、なるべく仕事を受けない組織風土が醸成され、組織のサイロ化が進んでしまいました。そこで、こういう状況を打開するため、働き方改革に着手しました。
働き方改革を進めるにあたって、市長は新しい技術を積極的に採用することと無駄な仕事を止めることを強調しています。
神戸市がDXに対して積極的に取り組んでいると国や他の自治体からご認識いただけているのは、恐らくそのような背景のもと進めてきたからではないでしょうか。
民間企業の力を活用して取り組む
-デジタルの活用を進めていくうえで、組織づくりや採用、人材育成において、参考としている他の自治体や企業組織はありますか?
最近ベンチマークをしているのは東京都です。宮坂副知事を中心にデジタルサービス局のチームがアグレッシブにDXを推進していると注目しています。
また、神戸市は若手職員を民間企業に一定期間派遣しています。派遣先の企業で、役所と異なる働き方やデジタルの活用を吸収してきた職員が、市に戻ってきて活躍しています。
例えば、1年間ヤフー社への派遣を経験した私の部下が、新しい発想や手法で仕事をしてくれて、参考になりました。その職員を通してヤフーの社員さんともネットワークが出来、現在当市のCIO補佐官になっていただいております。
ヤフー社のほか、神戸市が連携協定を結んだサイボウズ社などの取り組みはとても参考にさせていただいております。
-神戸市は以前より副業可能を前提とした採用をされていますが、始められた当初は相当画期的な取り組みであったと思われます。どのような背景があって実行に移されたのでしょうか?
副業可能を前提とした人材は、デジタルの人材としては、CIO補佐官が最初です。
民間人材の登用は、当時は注目を集めましたが、率直に申し上げると庁内にはかなり戸惑いがありました。
このほか、常勤の職員として民間から採用された「デジタル専門官」が私の部署にもおります。
このような動きは、神戸市長の「多様な人材を登用したい」と以前から考えていたことが背景にあったと認識しています。特に、デジタル分野については専門的な人材が必要であるということで、採用に向けた取り組みが比較的早い時期から進められました。
-デジタル戦略部では現在民間人材はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
常勤の一般任期付き職員が5人、非常勤で副業可能なCDO補佐官が3名、合計8名になります。
―デジタル化を推進するうえで優秀な人材を確保するために、採用において直近で工夫されている取り組みなどがありましたら、お聞かせください。
常勤職員を民間から採用するときには、我々がよく使わせていただいたのは、民間の転職サイトです。
任期は最大5年と決まっておりますので、募集にあたっては、神戸市での業務経験が今後のキャリアパスにとってメリットがあるということをしっかりと訴求しました。神戸市としてアピールすべきポイントを引き出すノウハウを、大手の転職サイトはお持ちですので、相談にも乗っていただきました。
10年先を見通した神戸市のDX人材育成プラン
-デジタル化を推進する人材および、職員全体のデジタルリテラシーを高める上での取り組みがありましたら、お聞かせください。
今年度から人材育成に関しては力を入れていこうということで、然るべき予算を計上し、体系立てた施策を展開します。
具体的には、職員全体をデジタルリテラシーの観点で3階層に分けて、階層に応じた育成を行います。
まず、ベースとなる職員全体のデジタルリテラシーの育成です。職員は、今後業務を行っていくうえで、少なくとも汎用的なデジタル機器やアプリケーションが普通に使えるようにならなければなりません。
今年度から職員研修所が導入したLMS(Learning Management System)を活用し、オンライン研修を今まで以上に提供するとともに、履歴を管理して職員がどのような研修を受けているのかということを可視化します。
次に、その上位の層は、デジタル技術を使って自分たちの職場の仕事をデザインすることが出来る、あるいはBPRをして最適な形で再構築をすることが出来るようなリーダークラスを、1部署に1人配置できるように人材を育てて行きたいと考えています。
さらに最上位は、ベンダーの方と対等またはそれ以上の関係で話をすることが出来るエキスパート職員です。仕事を知ったうえでしっかりとシステムのアーキテクチャーを語ることが出来るような人材を育てる必要があります。
このように3階層に分けて、それぞれの特性に応じたトレーニングコースを作りました。
同時に、このような改革を進めていくうえで所属長の役割は非常に大きいです。所属長の改革に対する姿勢如何で、進捗に大きな差が出てきます。所属長は、社会やビジネス環境の変化やデジタル技術の普及を敏感に感じ取らなければなりませんし、それに的確かつ迅速に対応できるような人材育成や業務改革をどのように進めていくのかという方法論や戦略論をしっかりと学んでいく必要があります。このような観点で、管理職を対象とした研修も別途実施する予定です。
このように、いわゆるスキルと職位とに分けて体系立てた人材育成を今年度から始め、今後10年の計画で、人づくりを完成させることを目標として進めています。