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【シリーズ 医療MaaS】 茨城県・つくば市「つくば医療MaaS」実証事業[インタビュー]

【シリーズ 医療MaaS】 茨城県・つくば市「つくば医療MaaS」実証事業[インタビュー]

2022年1月、茨城県、つくば市、筑波大学、企業等が参加するつくばスマートシティ協議会は「つくば医療MaaS」実証実験を実施した。本実証では病院を目的地とするAIデマンドタクシーと病院内自動運転パーソナルモビリティによるシームレスな移動、顔認証を活用した受付手続きにより、利用者や介護者、医療従事者の負担軽減や、乗合タクシーの事業性の向上を実証する。医療MaaSの取り組みの多くは山間地や過疎地で行われている。つくば市は研究学園都市のイメージも強く、高齢化や過疎とは無縁のようにも思えるが、そこにはどのような背景があったのか。茨城県科学技術振興課伊藤正敏氏へ話を聞いた。

(聞き手:デジタル行政 編集部 横山 優二)

通院にかかわる課題を包括的に解消する

――AIデマンドタクシーを活用して、どのような実証を行ったのでしょうか?

通院にタクシーを利用したい住民に向けて、市内6つの医療機関への往来に利用できる乗合型のオンデマンドタクシーを運行しました。アプリから「出発地」「目的地」「日時」「人数」を選択すると、希望条件に応じてタクシーが配車されます。AIが経路を自動計算し最も効率的な経路が判定されるという仕組みです。

つくば市の中でも高齢化率の高い小田地区、宝陽台地区を中心に、これらの地区と病院の間に挟まれるエリアを実証エリアに定め、2台のタクシーで実証実験を行いました。約1か月の実証期間で延べ329名の住民にご利用いただきました。本実証では、これとは別に、携帯電話情報からの移動データの分析も行っており、データは匿名加工され、つくば市の交通施策に活用される予定です。

――なぜAIデマンドタクシーに着目したのでしょうか?

2019年に茨城県とつくば市は「つくばスマートシティ協議会」を立ち上げました。同協議会では「モビリティ」をテーマの一つとして掲げています。高齢者や障害者など、外出が困難な方々に向けて、いつでも安心して外出できるようなまちづくりを目指してきました。つくば市は全体でみれば過疎地には該当しませんが、中心市街地と過疎化する周辺地域の二極化が進んでおり、移動サービスには改善の余地があります。また、自家用車に依存する傾向が高く、自身や家族が運転できない高齢者は外出へのハードルが高くなる傾向もあります。これら課題を解消するために4年計画で取り組みを進めており、その内のユースケースのひとつがAIデマンドタクシーだったのです。

――他にも新しい取り組みを実践されています。

車両内での顔認証の様子
(提供:茨城県・つくば市)

病院の受付時間短縮のために、顔認証技術の活用も実証しました。事前に患者の顔情報を登録し、AIデマンドタクシー乗車中に車内に備え付けられた顔認証端末を使用して、認証を行います。認証されることで医療機関側へ患者情報が送信され、病院到着後には受付での手続きを省略することができるのです。また、病院に到着後から診療科への移動では自動運転パーソナルモビリティも活用しました。患者がタクシーからモビリティに乗り換えると、自動で目的の診療科まで運行される仕組みです。

ハードルになるのは自宅から病院までの道路交通だけではありません。通院を途絶えさせないためには、包括的に障壁を解消する必要があるのです。

挑戦したことで理解できた「住民のリアル」

――住民からの移動に関するニーズはどのように調べたのでしょうか?

サービス設計に先立ち、つくば市民に対するアンケート調査で確認しました。調査結果からは「自家用車がなくても生活できる町を望んでいる」とする住民は全体の8割と、移動サービスの充実に高い関心が示されました。逆に、現状の地域公共交通に「満足している」割合は2割程度にとどまりました。つくば市は南北に長く、面積も広いという地理的な特徴があります。これまで市営のバス運行、乗合タクシー運行を手厚く行ってきましたが、時間も費用もかかります。高いレベルの住民サービスを提供するために、新たな着眼点のサービスが求められていました。

さらにアンケートからは、65歳以上の高齢者の半数以上がなんらかの社会参加を希望する一方で、75歳以上の後期高齢者の22%が「外出を控える」と回答しており、高齢になるほどに外出を控える傾向があることがわかっています。つくば市の高齢化率は19.2%と、県内の市町村の中では低いですが、増加傾向にあることは確かです。高齢者の移動手段の確保や外出機会を増やす取り組みに対して、新しい施策を講じなければならないと考えました。

――取り組んでみての感想を教えてください。

我々が先端技術を社会実装する際に配慮することは、その技術が地域社会や一般の方々に受け入れていただけるかということです。本実証では主に高齢者が想定利用者であったため、アプリ利用に対して抵抗感を持たれてしまうという懸念がありました。しかし、結果としてはAIデマンドタクシーの利用者の半数が60歳以上となり、予想以上に利用していただくことができました。

実証実験期間中、小田地区住民の方から「70歳くらいまでの人はスマホも使うことがあるよ。」と声を掛けられました。今回の実証ではそれが裏付けされた形となったのではないでしょうか。

「筑波研究学園都市」としての責任

つくば市は筑波大学やJAXAなど、およそ150の研究機関・企業等の施設、2万人に迫る研究者を有する国内最大の研究開発拠点である。これは科学技術の振興と高等教育の充実を目的として、国家プロジェクトとして建設されたものだ。デジタル行政では、これまで自治体が関与する医療MaaSの取り組みを複数紹介してきた。取り組みが行われてきた伊那市や青森市、三重県大台町などは山間地・過疎地に該当し、医療資源の枯渇も危機的と言える状況だ。
ここでインタビューにある高齢化率19.2%という数値に注目してもらいたい。これは東京都世田谷区20.1%よりも低く、全国的にも最も低いグループに入る。つくば市が医療MaaSに取り組む背景にはそれら地域とは異なる「何か」があるのではないか思わざるを得ない。それは先進的な取り組みを「進めるべきである」とする責任ではないだろうか。

――今後の展望を教えてください。

実証実験で終わっては意味がなく、社会実装させることが目的です。今後は社会実装に向けて、さらに実証を重ねるか、あるいは具体化に向けて協議を進めていくか、いずれかを進めることになるでしょう。令和4年4月、つくば市はスーパーシティ型国家戦略特別区域として区域指定されました。モビリティはスーパーシティの構想の重要な一角を占めているため、これまで重ねてきた実証実験をスーパーシティ構想にも活かしていきたいです。

つくば市は「研究学園都市」であり、他エリアに先駆けて先端技術を実践する役割を期待されています。医療MaaSにおいても社会実装を成功させることで、他の地域のロールモデルになるのではないかと考えています。我々は実証実験を実施する際、課題を抱えている市町村の方々からの見学を受け入れたり、終了後につくば市の取り組みを紹介したりしています。まず医療MaaSに対する関心を高めること、そしてノウハウを横展開することで地域が抱えている課題解決の一助になればと思います。