AIは教師の仕事を奪わない-Qubenaが見据える教育現場の未来とは!?[インタビュー]

AIは教師の仕事を奪わない-Qubenaが見据える教育現場の未来とは!?[インタビュー]

教育現場におけるICTの活用が加速している。特にAIによるアダプティブラーニング(個別最適化学習)は注目を集めている分野の一つだ。

株式会社COMPASS(代表取締役CEO:小川正幹)はAI型タブレット教材と称するアダプティブラーニングドリル「Qubena(キュビナ)」を展開している会社だ。

Qubenaは通常のwebブラウザで作動し、タブレットでも使えるドリル型の教材。生徒一人一人に合った問題をAIが自動で判別し習熟度に応じた問題を出題することができる。

既に、東京都世田谷区、愛知県名古屋市、福岡県北九州市といった大きな人口を抱える自治体においても採用が決まっており、利用者数は2021年度中に30万人に達する見通しとなっている。

同社によるとQubenaの導入により公立中学校において、従来の半分の時間で単元が修了できるケースや、私立中学校においては生徒のテストの点数が平均で40%アップするという成果事例もあるという。

Qubenaの概要と特徴や、同社が見据えるAIを活用した教育のICT化と未来について、同社取締役副社長の佐藤潤氏にお話を伺った。

(聞き手:デジタル行政 編集部 大野 裕貴)

AI時代を生き抜くこれからの子どもたち

―御社の理念とQubenaの開発経緯について教えてください。

2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点。AIが人間を越えると言われる技術革新のこと)が起こると言われています。その頃には我々は高齢者になっていますが、子どもたちはそういった中で生きていかないといけません。

こうした状況の中でこれからの子どもたちに「未来を生き抜く力」を教え、未来の姿を教えたいという想いで2012年に教育事業をスタートさせたのがQubenaの始まりです。

アダプティブラーニングに注目するべき理由とは?!

―事業の対象としてアダプティブラーニングに注目された理由をお聞かせください

2012年の事業開始当時、弊社は学習塾を経営していました。その中で未来を生きていく中で必要な力をつける教育も行っていたんですが、やはり生徒や保護者からニーズがあったのは「そんなことよりも、テストの点数を上げてほしい」というもので、いわゆる高校受験対策のような教育が求められていました。

そこで我々は“学習を効率化することで授業時間を短縮し、未来を生きるための学習の時間を確保することはできないか” そう考えたんです。その結果、学習の効率を高めるため当時アメリカでも注目されていたアダプティブラーニングを取り入れることとなりました。

取り入れた当初は紙でアダプティブラーニングを行っていましたが、そこから、技術の力を活用し、AIを使う現在の形にまで至りました。

―アダプティブラーニングは注目を集めていますが、Qubenaの強みはなんですか?

教材の質、アダプティブラーニングの精度の高さにあると考えています。

例えば、生徒が問題を解いていて難易度が高すぎる場合には難易度を下げた問題が出題されますが、この時に単に難易度を下げた同じような問題を解かせるようなものにはならないようにしています。

つまずいているところや理解ができていないところというのは前の単元の理解が足りて居なかったり複雑な要素が絡み合っていたりしている場合が多くあります。

Qubenaではこうした生徒の理解レベルや要素を非常に細かい段階で設定しており、その細かい段階に対応できるよう数多くの問題を用意しています。そのため生徒がつまずいているところにピンポイントでも戻って出題ができるようになっています。

現場の先生からも、こうした、生徒が習熟できていないところを特定し、戻って出題がされるところの精度の高さは高く評価をいただいており、それが選んでいただいているところに繋がっているのかなと捉えています。

―出題する問題の質、量ともに高いレベルが求められるのではないでしょうか?

はい、そのため、自社内に教材を開発する部署を設けるなどして日々アップデートに励んでいます。塾講師をやっていた方や学校の先生だった方などにも積極的に関わってもらっており、問題の数と質はかなり自信を持っているところです。

同社ホームページより。左:Qubena解答入力イメージ 右:学習データ確認画面イメージ

偏差値を上げることは目指さない―Qubenaが教育現場で役立ちたいこととは!?

―教育のICT化について今後をどのように見ていますか?

一人一台端末がほぼ実現しましたし、ICT化はますます進んでいくと思います。Qubenaも2021年度で30万人に達する見込みですが、お問い合わせも増えていますし、もっともっと導入を進めていきたいと考えています。

―反対に、懸念されていることなどはありますか?

心配しているのは、教育にICTを活用していくという流れが止まり、従来の紙やえんぴつといったアナログの手法で十分という流れに世の中が戻っていってしまう可能性があるというところですね。

2021年は学校に一斉に機器が入りましたが、数年後に来る機器の更新は見過ごせない問題だと思っています。更新するときになって、期待していたほどの効果がない、特に全国統一の学力テストなどの結果を元に、効果がない、効果の割に費用が掛かりすぎている、といった批判に学校が晒され、ICT化に逆行する動きが出てくることを危惧しています。

我々も成果をアピールはしていきますが、テストの対策のためだけのソリューションではないので、尚更心配です。

―御社は学習塾を経営されていた経験などもあり、テストの点数や偏差値を上げるのは得意なのではないですか?受験などにも対応できそうですが。

やろうと思えばできると思います。しかし、弊社の理念はそうではない。あくまでも既存の学習の効率化を通して、子どもたちの「未来を生き抜く力」につなげることなんです。今かかりすぎている時間をアダプティブラーニングによって短縮して本当に必要な教育にその時間や先生のリソースを使ってもらいたいと考えています。

いわゆる偏差値を上げることだけを目指しているわけではないんです。

AIは教師の敵ではない

―教育現場における教員の負担とICTの活用はどのように考えていらっしゃいますか?

新しいシステムを使うのにご苦労されている先生は大変多いです。弊社でも研修、マニュアル作成など可能な限りお手伝いさせていただいています。そういった成果もあってか、授業ではQubenaを教科書と併用していただいたり、最初の部分を一緒に解いたりと柔軟に幅広くご活用いただいています。

学校の先生がこれまでプリント作成にかけていた時間と労力はQubenaで賄うことができますので、準備やフィードバックの労力も含め、かなりの負担を軽減することができていると考えています。

―最後に教育委員会、学校の先生に向けてメッセージをお願いします

僕らが目指しているところはAIドリルができるところはAIドリルがやって、先生が使える時間を増やす、やるべきところに使える時間を増やしていきたいという思いで取り組んでいます。

今でも『AIが仕事を奪うんじゃないか』と敵視されることが多くありますが、そうではなく、先生がやりたい授業に時間とリソースを費やせるようにする道具の一つに過ぎないと考えています。敵だと思わず、先生と生徒の時間を有効に使うためにご活用いただけたらなと思います。